【絶望の非正規】(09) 消えない雇い止めの記憶…期間工が集まらない『トヨタ自動車』の深刻な悩み

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「10月入社者限定 初回更新特別手当10万円支給」「満了慰労金・報奨金 300万円以上可能」――インターネット上や求人誌に出される『トヨタ自動車』の期間従業員(期間工)募集広告には、好待遇をアピールする様々な文句が躍る。初回更新特別手当とは、初回の3ヵ月契約を満了し、次の3ヵ月を更新した期間工に10万円を支払うというもの。消費増税前の駆け込み需要に向けた生産増の為、2013年に導入したことがある制度だが、今年7月に約2年ぶりに復活させた。満了慰労金・報奨金は、契約期間毎に満期まで働いた場合の一種のボーナス。勤務日数に応じて支払われ、離職率が高い期間工に対するインセンティブとなっている。こちらは、今年9月にベースとなる金額が引き上げられた。35ヵ月満了でフル受給できた場合、両方の累計額は300万円超。一部手当の改廃を勘案しても、数ヵ月前と比べて期間工にとってはトータルで最大約75万円の収入増(3ヵ月)となる。

「過去に無いレベル」「トヨタの全ての職場で支え合わなければ、この難局は乗り越えられない」――2015年8月末に開かれた生産に関するトヨタ労使会合で、人手不足への対策が話し合われた。7月にフルモデルチェンジした『シエンタ』のヒットや、『ランドクルーザー』『クラウン』といった主力車のマイナーチェンジに加え、12月に発売される新型『プリウス』立ち上げも重なる。年度末まで国内生産は超繁忙となるからだ。要員確保策として真っ先に挙げられているのが、期間工の採用増・定着率向上に向けたサポート施策だ。この時の方針通り、早速、満了慰労金・報奨金が引き上げられた。ただ、これだけ引き上げても、その効果は十分とは言えないようだ。「応募は1年前より減っている」(人材サービス会社の営業担当役員)。実は、昨年もやはり労使の話し合いの場で、「従来、週200人程度採用できていた期間工が、特別手当を支給しても週70人程度しか集まらなくなっている」との報告が会社側からなされている。期間工を集めるのは年々難しくなっている。「リーマンショック後の雇い止めの記憶が消えていない」と指摘するのは、人材会社の副社長。リーマンショック後に生産急減を迫られた企業の多くが、真っ先に非正規労働者を切り捨てた。「雇用の不安定さを嫌う労働者が着実に増えた」(同)。サービス業のアルバイト代の上昇も影響している。都心部では、飲食店やコンビニのアルバイトの時給が1000円を超えるのは当たり前。地方でもショッピングモール進出等で人材は奪い合いだ。トヨタの期間工の待遇は、非正規雇用ではトップクラスだ。20歳前後でも、諸手当を含めれば年収400万円超を稼げる。寮費等も無料で、生活費は最低限で済む。それでも、結婚や子育ては考え難いのが現実。「仕事のきつさ等も考えると、期間工の魅力が薄れていることは確か」(前出の副社長)。抑々、「自動車メーカーの期間工は1~2ヵ月で30%弱が辞める」(別の人材会社担当者)。3ヵ月続けば、その先の離職率は改善する傾向にあるが、最長35ヵ月で契約満了となる。つまり、一定規模を維持するにも採用を続ける必要がある。その採用コストも上昇している。同じ人数を集める為に必要となる広告や説明会は増加し、紹介会社への手数料も値上がりしている。苦労して採用しても、短期間で辞められてしまえば割に合わない。比べる正社員の年齢にも依るが、期間工が企業から見て必ずしも低コストではなくなっている。




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こうした状況を受けて、トヨタは期間工からの正社員登用拡大に踏み出した。正社員登用は、2007年度の1250人をピークに激減させた。2012年度の25人をボトムに年間100人未満が続いていた。それが、2014年度は110人まで拡大。更に、2015年度は300人とする計画だ。理由の1つがコストであることは否定できないが、それだけではない。トヨタは“トヨタニューグローバルアーキテクチャー(TNGA)”と呼ぶ自動車の作り方の革新を推し進めている。これは、設計や部品の共通化として理解されているが、工場の様々な工程の改革も伴う。工場を支える技能系従業員の高齢化も進む中で、即戦力人材は正社員として取り込んだほうがいい。300人は広い門戸とは言えないし、自動車の生産台数が大きく変動する以上、“調整弁”として期間工に頼る構図は無くならない。それでも、正社員枠の拡大は期間工の採用にもプラスに働く筈だ。だが、人手不足が解消されて問題解決となるか? 残念ながら、そう簡単にはいきそうにない。「トヨタにあれだけ(待遇を)上げられると、ウチのような中小メーカーはきつい」(愛知県の自動車部品メーカー役員)。自動車産業は完成車メーカーを頂点に、1次・2次・3次…と数万社がサプライチェーンを構成している。そのピラミッドの底辺に行けば行くほど採用難は深刻化しており、そこに対する処方箋はトヨタと雖も持ち合わせていない。背景にあるのは少子高齢化である。15~64歳の生産年齢人口は、1995年の8700万人超から20年間で1割以上減少した。この先、2025年に7000万人、2050年には5000万人に減少する(厚生労働省の人口将来推計、出生・死亡中位)。国内生産300万台死守を掲げるトヨタ。5年前、その障害となるのは販売や輸出の減少という需要側にあると思われた。だが、足元では人材不足という供給側の悩みがより深刻の度を増している。


キャプチャ  2015年10月17日号掲載


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