在宅勤務、普通でしょ?…朝シドニーと会議、昼に出社――“全社員”対象の職場広がる

自宅や外出先などで仕事をする『テレワーク』が広がっている。かつては育児などを抱えた社員の福利厚生策と位置づける企業が多かったが、最近は利用対象をほぼ全社員に広げ、10分単位の“スポット利用”などを認める企業も登場。テレワークで1日の時間をどのように有効活用できるのか。先進事例から職場の工夫を探った。 (編集委員 阿部奈美)

日産自動車に入社して8年目の林奈帆子さん(32)がこの日、出社したのは午前11時。SCM本部で新車の最適な物流コストを提案するのが主な仕事だ。遅めの出社だったのは日本時間の朝7時半から開かれたブラジルの工場との電話会議に参加するために1時間強、在宅勤務をしていたからだ。「うちの部署では時差のある海外との電話会議が多く、上司を含めて在宅勤務を活用している」と林さん。スケジュールに合わせて部分的にテレワークを上手にスポット活用している。パリにあるルノーの物流担当者との電話会議が夜8時からある日は「午後5時に退社して自宅から参加する」という。

5月に米蒸留酒最大手のビーム社を買収したサントリーホールディングスでも、時差のある海外との遠隔会議に社員が参加する機会が増え、テレワーカーはもはや特別な存在ではなくなっている。アジア太平洋や南米などのグループ戦略を策定するのが主な仕事という国際戦略部課長の中村道夫さん(45)がこの日、東京都港区のオフィスに姿を現したのは昼0時半だった。朝7時40分、朝食を済ませた自宅の食卓にパソコンを立ち上げ、まず時差が15時間のシカゴと電話で打ち合わせ。8時からはシドニーにあるグループ拠点との遠隔会議に参加。会議が終わってからも午前中は、静かな食卓で集中して書類を作成した。「人事部にその都度申請して許可をもらうようなガチガチの手続きは不要だし、フレックス勤務とも併用できるので、スケジュールに応じて上司も部下も皆が自然体でテレワークをやっている」と中村さん。夜8時以降に海外との会議がある日も、「早めに帰宅して夕食を済ませてから参加する方が仕事にメリハリがつけられる」という。




テレワークは、“テレ(離れた)”と“ワーク(働く)”を合わせた造語で20年以上前からあった。だが最近はIT(情報技術)の進歩で、機密保持の安全性も従来より高まり、“効率のいい働き方”と捉え、導入する動きが目立つ。2011年の東日本大震災を機に社員が出社できないときに業務を続けられる手段としても注目されている。国土交通省の調べでは自宅でテレワークをしている人(自営業を除く)だけでも2013年で570万人と5年前の2倍以上に増えた。日産は4年前に育児などの有無に関係なく利用できるようにしたほか、今年1月からは利用上限を月1回から5回に拡大。通勤に往復で4時間かかる車両IT&自動運転事業本部の伊藤重人さん(39)は「週1日ペースで在宅勤務をするようになってからは家族と夕食を共にすることができるようになった」と話す。2010年夏から“1日単位”でしか認めていなかったテレワークを“10分単位”でも利用できるようにしたサントリーグループでは現在、利用対象者6300人のうち、年間3200人超、1日に約400人がテレワークをしている。

ただ、テレワークは場所を選ばず仕事ができ便利な半面、「仕事と私生活の境界線があいまいになる」「長時間労働に拍車がかかる」といった懸念の声も根強くある。導入企業の多くは社員に1日の始業と終業の報告を義務付けているが、「自己申告である限り、部下の仕事ぶりや健康状態を厳密に管理するのは難しい」とある医療機器メーカーの経営幹部は打ち明ける。そこで、さらに一歩踏み込む企業も出てきた。日立製作所では社員がどこで仕事をしようと、パソコンを起動した時刻と電源を落とした時刻が各自の勤怠管理システムの画面に表示される仕組みを導入している。これを本人だけでなく、上司も見ることができるという。「勤務の実態を上司が把握した方が、部下の健康状態にも目配りできる」(人財統括本部ダイバーシティ推進センタ)。業界団体や役所などを訪れる機会や海外とのやりとりが多い同社の渉外本部国際渉外部で自らもテレワークを活用している部長の菅野恵介さん(42)は「うちの部署ではその日の訪問先の場所や移動にかかる時間などを考えながら、管理職も部下も皆がカフェやサテライト拠点、自宅などで仕事をしている」と話す。だが、気をつけていないと仕事がエンドレスになりかねないため、「深夜に届いたメールには対応しないよう部下に言い聞かせ、徹底している。こうした一定のルールは必要」と強調する。国内外のテレワーク事情に詳しい日本テレワーク協会(東京都千代田区)の小泉千明主席研究員は「テレワークは働き方に変革をもたらす有効な手段になるが、労働時間の管理や納得できる人事評価などの仕組みがなければ効果を十分に発揮できない。働く側と会社側の双方が共通認識を持てるように意識改革することが重要」と指摘している。


キャプチャ  2014年12月8日付夕刊掲載


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