【特別寄稿】 「俺がイスラム教に“硬派”を感じた理由」――元暴走族総長が見たパリのイスラム社会のリアル

世界3大宗教の1つであるイスラム教。全世界で16億人、つまり、全人口の4人に1人がイスラム教徒である。しかし、葬式か初詣くらいしか宗教を意識しない多くの日本人にとって、『ISIS』(別名:イスラム国)のテロ行為等でイスラム教に対する危ないイメージを抱きがちだ。そんな現況を嘆くのは、日本人イスラム教徒のアリ長田氏(下写真左)。元暴走族総長のイスラム教徒という異色の経歴の持ち主の彼が、イスラム教徒になった理由とは――。

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2015年11月13日金曜日にパリで起こったテロ事件が、世界を震撼させている。サッカースタジアム、レストラン、コンサート会場等が相次いで襲撃され、計130人が尊い命を落としている。パリでは1月にも、イスラム教の預言者であるムハンマドの風刺画を出版した『シャルリーエブド』社が襲撃され、16人が命を落としたテロ事件が起きている。時同じくして、シリアで後藤健二さんと湯川遥菜さんの両名が拉致され、その後に斬首されたことで、日本中が大騒動となった。これらは全て、“イスラム”を名乗るテロリストに依る犯行だ。中でもISISの存在は衝撃的であり、本来は平和を重んじる宗教であるイスラム教を真面目に信仰しているムスリム(アラビア語でイスラム教徒のこと)たちは、「奴らはイスラム教徒ではない」と差別化を図ることに躍起になっている。私は日本人の両親から生まれた生粋の日本人であるが、イスラム教徒である。改宗したのは2013年4月、33歳の時で、改宗をした場所は、今、テロ事件で大変な状態にあるパリのモスク(礼拝堂)であった。私も改宗前は、「イスラム教は暴力的な宗教だ」というイメージを持っていた。日本にいて、テレビや新聞でテロ事件を幾度も見せられては当然、そう感じてしまう。しかし、実際にパリでイスラム教と接してみると、暴力的なことは一切無く、これまでのイメージとのギャップに驚かされるばかりであった。それどころか、私が見たイスラム教の世界というのは、カトリックの国の中でムスリムたちが仲間意識を持って助け合っている姿であった。

「ムスリムはムスリムを助けなければいけない」と、この時に仲良くなったムスリムから言われたが、実際にフランスではムスリムの絆は非常に強い。こうした人と人との結び付きが強いイスラム社会に魅力を感じたことも改宗の1つの理由であるが、他にも「イスラム教徒になると今までの非が全て許される」ということも興味深かった。それまでの私の人生は碌なものではなく、中学生の頃から親に反抗をし出すと、窃盗や恐喝等をするようになった。恐喝をして初めて警察の世話になったのが15歳の時、その後は暴走族に入り、21歳の時に暴走族の集会を開いた指示役として逮捕された時は、全国版のニュースとなり、世間を騒がせてしまった。暴走族を引退した後の生活も、真面目になったとは言い難いものがあり、定職にも就かず、やりたいことをやって、25歳で初めての渡仏をする。目的は『フランス外人部隊』入隊であった。しかし、訓練中の怪我に依って、新兵訓練の途中で除隊をさせられてしまう。外人部隊は呆気無く幕を閉じたが、その後、パリでの滞在を始めると、物価の高いパリで生活費に行き詰ってしまった。そのうち炊き出しの列に並ぶようになり、最終的に行き着いた先はホームレスシェルターであった。パリにある400人収容のシェルターは、通称“ブーランジェリー”という。ブーランジェリーとは、日本語にすると“パン屋”である。建物が元々はパン工場であった為、今でもそう呼ばれているそうだ。ブーランジェリーでの生活を始めると、そこで幅を利かせているのがアラブ人であり、400人の入所者のうち200人以上はアラブ人であることを知った。その他にはアフリカ系黒人・フランス人も多少はいるが極少数で、アジア人は私を含めた数人であった。アラブ人もアフリカ系黒人もイスラム教徒であるので、シェルターにいる人の7割ぐらいはイスラム教徒である。そこでアラブ人との共同生活が始まると、必ず目にするのが、彼らがお祈りをする姿。毎朝毎晩、アラブ人達は1ヵ所に集まって祈りを捧げるが、そのような姿を初めて見る私は物珍しい眼差しを向けていたものだ。だが、徐々に仲の良いアラブ人ができると、イスラム教について色々教えてもらうようになる。彼らに誘われて初めてモスクへ行ったのは、ブーランジェリーでの生活を始めてから半年後のことだった。




「ラーイラーハイッラッラー(アッラーの他に神は無し)」「ムハンマドラスールッラー(ムハンマドはアッラーの使徒である)」――これは“シャハーダ”(信仰の告白)と言って、この2つの章句を唱えることでイスラム教徒への改宗がなされることになる。書面を交わすことも無く、改宗は至ってシンプルである。私がシャハーダをしたのは、パリ10区にあるモスクだった。「アッラーは寛大であり、イスラム教に改宗する以前の経歴は一切問われない。イスラム教に改宗すれば、これまでに犯した罪は全て許されて、これから新しい人生を始めることができる」。シャハーダの後、私は“アリ”というイスラム名を貰い、ムスリムとしての人生を始めることになったのだが、イスラム教になると日常生活で様々な制約ができてくる。「豚肉を食べない」「飲酒をしない」の2つは有名であるが、「未婚の女性と性交渉をしてはいけない」「クラブへ行ってはいけない」「ナンパをしてはいけない」「賭け事・刺青・利子を取ってはいけない」等、その他にも幾つも注意事項を設けられた。「ナンパをしてはいけない」ということは暴走族に入った時にも同じことを言われた覚えがあるが、暴走族が硬派を演じているのは集会中だけで、普段の生活では女好きである。イスラム教徒は自分の奥さん以外の女性には見向きもしないから、本物の硬派だ。髪型も男は男らしくするのが基本であり、長髪はあまりよろしくない。そして、顎鬚を伸ばすことが望ましいとされる。義務として1日5回の礼拝をしなくてはいけないので、朝は日が出る前に起きて礼拝をするようになった。礼拝には正式な所作があり、その際にはコーランの章を唱えなければいけないので、コーランを暗記する必要もある。覚えることが幾つもある訳だが、改宗した時にモスクの責任者から、「ブーランジェリーで覚えなさい。そこには沢山のアラブ人がいるでしょう? 周りにいるアラブ人達がきっと優しく教えてくれます。イスラム教はそういう宗教です」と言われた。その言葉通り、その晩、ブーランジェリーでイスラム教に改宗したことを話すと、周囲のアラブ人達が集まって来て、「今日から、お前は俺たちと兄弟だ!」とかなりの歓迎ムードとなった。そしてその日から、ムスリムとして必要なことをブーランジェリーにいるアラブ人たちが教えてくれるのであった。

日本へ帰ってきてからも1日5回の礼拝は欠かさず行い、飲酒をしないことも守っている。このような私の変化について、日本人の1人からこう言われた。「飲酒ができないと、日本では人付き合いができない」「イスラム教は女性を差別している」。本当にそうなのだろうか? このことを日本のモスク責任者に話すと、日本に10万人いるムスリムは飲酒しなくても、しっかり日本人と付き合っていることや、日本には女性の総理大臣はいないが、国民の90%以上がイスラム教徒であるパキスタンでは女性の大統領が存在していたこと等を教わった。その言葉が自信をくれた。イスラム教徒の義務の1つである“ハッジ”(メッカ巡礼)は、全てのムスリムの夢である。サウジアラビアのメッカがイスラム教発祥の地であるが、イスラム暦の12月8~12日に、メッカにあるカーバ神殿への巡礼をすることをハッジと言う。ハッジをすることで、これまでの罪が全て消え、完全に無垢の状態になれると言われている。今までの罪が全て許される――。イスラム教徒に元ギャングや元犯罪者が多いのは、人生の再出発を許されるからである。金銭的な理由から実現できないムスリムも多いのだが、改宗から僅か2年半の私に今年、そのチャンスが巡ってきたのは、偏にアッラーのお導きだ。これまで自由な人生を送ってきたが、今後はムスリムとして生活上の制約を守って生きていくのだ。自分の価値観で判断して生きるより、神様が決めた制約を守って生きるほうが人間らしく生きられるだろう。古い話になるが、とある芸能人が「不倫は文化だ」等とテレビで発言して話題になったことがあった。日本では笑い話であっても、アラブ社会からすれば不倫はかなりの重罪だ。日本人の感覚からすると、一見厳しいようにも見えるイスラム教の戒律は、「奥さん以外の女性と性交渉をしてはいけない」「嘘を吐いてはいけない」「親孝行をしなければならない」等、本来、人として当然のことでしかない。日本では合法の飲酒まで禁止するのは厳し過ぎると思われるかもしれないが、ムスリムだけが入ることができる“ジャンナ”(天国)があり、現世で欲望に耐えたことへの報奨を来世で授かることが約束されている。フランスから帰国する際に告げられた「イスラム教は必ず、貴方の人生の助けになります」という言葉を信じて生きていくつもりだ。


キャプチャ  2016年1月号掲載


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テーマ : 中東問題
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