【インタビュー・明日を語る2016】(14) 農地を集約し競争力を、補助金は意欲ある農家に――『ヤマザキライス』代表取締役 山崎能央氏

『環太平洋経済連携協定(TPP)』の発効が2016年にも見込まれる。農産品にかかる関税は撤廃が進み、海外に売り込む“攻め”と輸入品に負けない“守り”の農業が迫られる。埼玉県杉戸町の農業生産法人『ヤマザキライス』代表取締役・山崎能央氏の取り組みから、農業の針路を展望する。 (聞き手/経済部 小野田徹史)

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実家は埼玉の兼業農家だった。2~3ha程度の田圃でコメを作っていた。東京で不動産の営業に携わっていたが、農業に可能性を見い出し、17年前に地元へ戻って新規就農。以来、14年間は補助金に頼らず、農地の大規模化を進めた。資金繰りは大変だったが、補助金を貰わないと農業をできないことが疑問だった。稲作は機械作業が多く、設備投資に見合う売り上げを確保し難い。兼業農家は、外で稼いだお金でトラクターやコンバインを導入しているのが実態だ。農地を広げなければ利益を上げるのは難しい。同じ町には約1200haの水田があるが、稲作に携わっている40代は自分を含めて3人しかいない。後継者不足も深刻だ。そこで、近隣の農家からどんどん士地を借り、今は80haの田で外食チェーン等に向けて業務用のコメを作っている。雇っているのは4人。田植え機とコンバインは1台ずつしか持たず、全地球測位システム(GPS)を搭載して広大な田で効率的に動かす。葉の色・土の状態・雑草の種類をスタッフがスマートフォンで撮影した画像や動画で確認し、対応を指示する。都市近郊のコメはブランドにならない。大規模化でコストを切り詰め、競争力を上げる戦略だ。品種も、顧客のニーズに応じて『あきたこまち』『コシヒカリ』等を選ぶ。生産者の顔は見えないが、均一な質を武器に信用を得ている。TPPが発効すると、米価は間違いなく下がるだろう。しかし、時代の流れだと考える。順応していくしかない。米どころのブランド米は、アジアの富裕層に好まれるだろう。日本食ブームも広がっている。しかし、長粒種が主流の東南アジアで、ジャポニ力米の大幅な販売拡大は望めない。日本の米価が下がったといっても、まだまだ海外産との価格差は大きいからだ。

嘗ては生産調整(減反)に従わず、補助金を貰わない代わりに好きに作り、好きに売っていた。だが、3年前から考え方を変えた。規模が大きくなると、需要と供給のバランスを考慮するようになる。国策としての農業を意識するようになった。日本のコメは過剰生産で、自由に作って販売すると自分の首を絞める。今は生産調整を達成し、政府にも意見を言う。単価が下がっているせいもあるが、補助金の受給は天候不順等に備えたリスクの分散だと考えている。埼玉・千葉・茨城・栃木の大規模農家を束ね、合計1000ha規模にした上で大手商社に売り込む交渉も始めた。TPPは、農地の大規模化には追い風になる。『農地中間管理機構(農地集積バンク)』を通じて遊休農地を差し出すと補助金が貰え、こちらは更なる大規模化を図ることができる。日本の農業総産出額は8兆円強。ソニーグループと同じ規模でしかない。それでも、北から南まで関わっている人は多い。そうした人々への配慮から、農業は政治に守られ過ぎてきた。永田町に届く声はネガティブな内容が多い。もっと前向きな取り組みを示していきたい。主食は必ず消費される。農業を産業全体の中に位置付ければ、例えばTPPで工業製品の輸出が好調になった時、その恩恵を農家の支援に回そうという機運にも繋がるだろう。補助金はバラマキではなく、努力している農家や、決算書をきちんと作って納税の義務を果たしている生産法人等に出していくべきだ。フィリピンやマレーシアでコメの生産に乗り出した。東南アジアのコメは生産性が低く、改良の余地が大きい。そのコメを近隣諸国に輸出することも考えている。日本のコメで日本を守り、海外の需要増には海外産で対応する。そうした農業を続けることが理想だ。




■進む関税撤廃、攻守に課題
日米等の12ヵ国に依るTPP交渉は、昨年10月に大筋合意された。11ヵ国が日本の農産品にかけている関税は98.5%が撤廃され、輸出拡大が見込まれる。一方で、日本が11ヵ国から輸入するものの関税撤廃率は81%となり、安い輸入品も増える。“攻め”と“守り”をどう展開するかが課題だ。TPPが発効すると、アメリカが日本の農産品にかけている関税は、日本酒は即時、コメ・醤油・味噌は5年目、牛肉は15年目に撤廃される。日本の農林水産物の輸出額は2013年に5000億円、2014年には6000億円を超えた。2015年は11月までに6690億円に達し、更なる伸びが期待される。政府は、「2020年に1兆円を達成する」とした目標を前倒しした。輸入については国内農家を保護する為、政府はTPP交渉でコメ・牛肉・豚肉・乳製品等を“重要5項目”に位置付け、関税維持を目指した。コメは関税撤廃を免れたが、アメリカとオーストラリアに対して最大計7万8400トンの無関税輸入枠が新設されることになった。既に日本はコメ余りの状態で、輸入の増大は米価の下落要因となる。政府は備蓄米の買い入れを増やす方針だが、将来像を描き切れない。生産現場には不安が渦巻く。農家の規模が小さい日本は、海外に比べて生産性が見劣りする。1つの経営体(農家や生産法人)の平均経営面積は2.5ha(2015年2月・北海道を含む)なのに対し、アメリカは約175ha、カナダは約315ha、オーストラリアに至っては3000ha超の規模を誇る。 (経済部 小野田徹史)


≡読売新聞 2016年1月12日付掲載≡


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テーマ : 農政
ジャンル : 政治・経済

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