【新聞エンマ帖】 橋下戦略に引っ掛かるな/日中韓首脳会談報道の“甘さ”

「物足りない」との書き出しで、2015年7月号の当欄で大阪市・橋下徹市長の“住民投票敗北・引退”報道を酷評してから半年足らず。大阪府知事・市長選で圧勝した橋下氏の“復活”を伝える同年11月23日の各紙朝刊には、更に厳しい書き出しを献上しなければならないようだ。「もっとマシな政治記事はないのか?」。安保騒動の後、首相は外交三昧、国会は閉会、野党は小さな内輪揉めばかり。まるで、この国には政治が存在しないかのようだが、恐らくこれは新年の年明けから始まる嵐の前の静けさであり、大阪府知事・市長選は、その予兆を大胆に読み取るべき“事件”であった。その勘所を一番わかり易く説いた例として、日経1面のコラム『春秋』を引こう。

来年1月4日と早期召集になる通常国会は、夏の衆参同日選の選択肢を安倍首相に残しておこうと調整された、との声も。うがった見方かもしれないが、政権幹部とウマの合う橋下氏が出馬し当選、維新の会も躍進……。そんな下絵が描けなくもない。政権との連携も深まり「1強の支え手に、ぜひ」とは話が飛びすぎか。

日経は2面でも『橋下新党、参院選に照準』『橋下氏、国政に足がかり/首相、改憲などで連携視野』と、この選挙結果が孕む意味を的確に纏めた。「それでは観測が混ざり過ぎだろう」と眉を顰める新聞人は、客観報道の殻に閉じ籠って干乾びれば宜しい。この程度の想像力・解析力・展開力すら制約される窮屈な政治記事の、何が面白くて読者は購読させられているのか。勿論、国政への影響については他の新聞も触れてはいる。何しろ、朝日・毎日・産経は結果を1面トップ、読売は同2番手で、各紙とも2~3面に大型解説を載せ、分量は十分、論点は多岐に亘った。でも、その為に読後感は焦点の絞り方・本質の凝縮力で差がついた。4紙の1面見出しは、選挙結果の意味を揃って「大阪都構想に再挑戦」と表現。つまり、飽く迄も先ず一地方選挙とオーソドックスに位置付け、国政への影響は二の次とした訳だ。正しいけれど、実態とずれていないだろうか?

各紙、「険しい道」(朝日)、「高いハードル」(読売・毎日)と今後の手続き説明に苦労したが、この点でも当欄は日経社説の「何が民意かが見えにくくなった。大事なのは税金の無駄遣いをなくすという原点に帰ることだ」というすっきりした要約を評価したい。中身も成否も効果も判断のつきかねる都構想など、橋下政治のお化粧に過ぎないことは日本中が感付いている。真正直に政策論で診断しようとすれば、それこそ橋下氏の思う壷。ジャーナリズムが引っ掛かってどうする。橋下現象は、世襲富裕層・業界団体・労働組合・東京一極繁栄等の既得権益全般への反感や、政治の閉塞に対する苛立ち、そして強引でも破壊力あるリーダーを待望する空気の融合に依って、世の中を席巻してきた。維新候補が勝ち、自民推薦候補が負ければ、橋下氏が復権し、安倍官邸がほくそ笑む。「自民党をぶっ壊す!」と叫ぶ小泉純一郎氏を支持すると、自民党が大勝した構図に瓜二つだ。与党と首相、選挙と世論の二重の捻れは、どういう回路で成り立っているのか――。そこを教えてほしいのに、どの新聞も書いていない。橋下氏は街頭演説で、「安倍さんが支持されるのは、批判されても実行するからだ」と称賛したという。「対話と融和を最優先に」という朝日社説の要望からは遠い。思えば、“小泉ワンフレーズ政治”への熱狂も、民主党政権への過剰な幻想・幻滅も、安倍“独善”政治への惰性的な高支持率も、本質は一貫している。橋下現象をその流れに位置付け、日本政治に何が起きているのかに肉薄する政治記事こそを読みたいのだ。橋下氏の登場以来、各紙とも東京の政治部出身者が編集幹部も現場記者も続々と大阪に配置されたが、依然としてローカル色偏重を払拭できず、読者は首を傾げながら、政治は何処へかどんどん進む。維新勢力が半年で形勢を挽回できたのは何故か? 朝日は出口調査の結果から、「維新支持層の急増、特に高齢者層に顕著な移動が起きた」と指摘した。興味深い。今後の分析を待ちたい。




日中韓首脳会談が2012年5月以来、3年半ぶりにソウルで開催された。歴史問題の隔たりは埋まらなかったが、3ヵ国とも経済の先行きに不安を抱えており、互いのメンツは保ちつつも経済連携の実を取りたかったのだろう。日韓首脳会談でも、懸案の従軍慰安婦問題は平行線のまま終わった。素より、首脳同士が久しぶりに一堂に会しただけでは、難題解決は望むべくもない。互いの国益を損ねずに隣国関係をどうマネージしていくか、知恵の絞りどころである。3ヵ国首脳会談を報じた11月2日の朝刊で、朝日・毎日・読売の3紙が『首脳会談定例化』の主見出しで足並みを揃え、日経・産経・東京も脇見出しでは“定例化”に触れた。不仲だった中韓首脳との定期的な対話継続が確約されたのは、それなりのニュースだったことは認める。しかし、この定例化合意にどれほどの価値があるのか。日中韓首脳会談は元々、各国持ち回りでの毎年開催が決まっていた。それが、歴史問題や領土問題で一気に関係が冷却化して開けなくなった。「元に戻そう」という合意は至極当然な上、再び問題が顕在化すればいつでも反故にできる。薄っペらい合意を然も関係改善の象徴として位置付けるのは、楽観論が勝ち過ぎている。主見出しでなく、敢えて脇に落とした日経・産経・東京の判断が賢明だろう。朝日は社説で、「日本、中国、韓国の政治の歯車がかみ合わない不毛な現実から、今こそ抜け出さなければならない」と力を込めた。「日本としては、歴史を直視する姿勢を揺るぎなく継続し、わだかまりなく日中韓が協力できる環境を整えておくことが重要だろう」と指摘。その上で、「中韓首脳も、日本との歴史を政治カードにするような行動は控え、理性的に互恵関係をめざす指導力を示すべきである」と其々に抑制的な対応を求めた。読売は、首脳の共同宣言で「歴史を直視し、未来に向かう」と明記されたことを踏まえ、「この原則を尊重し、未来志向で建設的な関係を構築すべきだ」と強調。

日経は、日中韓の自由貿易協定(FTA)交渉加速を歓迎し、「安全保障や経済など互いに関心の高い分野の協力を深めることで、中韓との関係修復への努力を続けてほしい」とした。東京は日中韓首脳に対し、「これ以上の関係悪化を招かないよう重ねて確認すべきだ」と促した。歴史問題には一家言ある産経は、「“未来志向”は“歴史の直視”が前提とされた。これからも3ヵ国首脳会談を日本牽制の場にしたいのだろうか。そのようないびつな関係で、真の協力など実現できない」と“牽制”を牽制した。各紙とも、日中韓関係の現状認識には大差無い。ただ、歴史問題という難解なパズルへの取り組みとしてはあまりに芸が無い。首脳らに日中韓関係の重要性を説き、指導者としての自覚を促しているだけで進展が得られるとお考えならば、甘々と言う他ない。毎日は6段ぶち抜きの社説で、日中韓3ヵ国の国内総生産(GDP)合計が「世界の20.6%を占め、欧州連合(EU)の23.6%、米国の22%に匹敵する」と指摘し、「これだけの経済規模を誇る地域なのに、日中韓がともに加わる広域のメガFTAがないことは、各国が成長する機会の損失につながる。ASEANは12月末に“ASEAN経済共同体”を発足させる予定だ。北東アジア地域の遅れは明らかだ」と訴えた。「日中韓の経済規模を利用しない手はない」と焦りを誘う手法がどこまで効果があるかは未知数だが、凡庸な論しか展開できない他紙よりはマシだった。日韓首脳会談で安倍晋三首相・朴槿恵大統領は慰安婦問題について、早期の妥結を目指して交渉を加速させていくことで一致した。“解決”という言葉を使わなかったのは、「日韓双方が歩み寄って合意できる妥協案を探る」とのメッセージが含まれている。存命中の元慰安婦は47人と言われており、何れもかなりの高齢者で、残された時間は少ない。彼女たちが生きている間に決着できない場合、遺恨は次世代に引き継がれていってしまうのか。時間軸に言及した記事も読みたかった。


キャプチャ  2016年1月号掲載


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テーマ : 橋下徹
ジャンル : 政治・経済

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