【宮崎哲弥の時々砲弾】 われわれは皆、長期的には死んでいる。

私は昨年末、月刊誌の座談会を始め、複数のメディアで「今年は世界史レヴェルの大乱の1年になるだろう」と予測していた。未だ1月も経たぬというのに、既に大荒れ模様である。国際政治にも世界経済にも狂瀾怒濤が立ち騒ぎ、日本は外から押し寄せてくる激浪に翻弄されつつある。一体、この事態に私たちはどう対処すべきなのか。先ずは、日本経済の足元を確かめてみよう。イギリスの『フィナンシャルタイムズ紙』(以下、FTと略記)が外部から光を当ててくれている。新春恒例のFT記者に依る大予測から。日本経済担当はデイヴィッド・ピリングだが、彼はアべノミクスについて楽観的な見通しを示している。「効果は様々だが、プラス面とマイナス面を比べればプラスが明らかに大きい。概して上手くいっているし、これは2016年も続く」とする。「(急落した)エネルギー価格を除外すると、インフレ率は約1%だ。名目国内総生産(GDP)に対する比率では、公的債務の増加は止まった。日本企業は記録的な利益を計上している」(引用部は『日本ビジネスプレス』の訳に依る)。

だが、懸念すべき徴候も見える。「安倍氏の問題は、『2017年に消費税を再び引き上げる』と誓ったことだ。危機的な状況が訪れかねないのは、その時だ」。だが、同じFTのチーフエコノミクスコメンテーターであるマーティン・ウルフの見立ては悲観的だ。ただ、朝日新聞の社説によくある、思い込みと無知に依って塗り潰された“論評擬き”ではない。実績を適切に評価し、その上で問題点を抉り出した分析である。ウルフは、「アベノミクスの“オリジナル版3本の矢”(金融政策・財政政策・構造改革)のうち、2本目が放たれていない」と指摘する。「財政政策の矢は放たれていない。国際通貨基金(IMF)に依ると、2013年の日本の財政拡大は、景気循環要因調整後でGDPの0.4%に過ぎない。同調整後の財政赤字は2014年、同年春の消費税率5%から8%への引き上げという誤った政策を主因として、GDP比1.3%減少している。2015年も同様の緊縮となる見通しだ」(引用部は1月12日付『日本経済新聞』電子版掲出の全文訳に依る)。2014年以後の財政は、“機動的な出動”どころか緊縮だったのだ。これは、このコラムでも紹介したエコノミスト・片岡剛士氏の認識と見事に重なる(#138『風立ちぬ、いざ…』)。世界で最も信頼されている経済ジャーナリストのウルフ氏と、日本経済の専門家であるピリング氏の見解が期せずして投合しているのは、「消費税増税が最大級の過ちである」という1点だ。




ウルフは、こうも述べている。「労働市場は素晴らしい状態にある。失業率は3%台前半に留まっている。労働力が減っていることを考慮すれば、経済成長率も悪くはない。我々の分析に依れば、労働者1人当たりGDPの成長率は、2000~2010年の年率1.5%から2010~2015年の同2%に上昇している。どちらの数字も、高所得国の最上位にある主要7ヵ国(G7)中の最高だ」。なのに、中々成長軌道に乗らない。その原因は、病根の取り違えにあるという。「要するに、『供給でなく需要が重要なのだ、愚か者』ということだ」。では、元凶たる民間需要の不足を解消するにはどうすべきか。ウルフは、幾つかの選択肢を用意している。これについては稿を改めて紹介したいが、ここで再度強調されるのが、最重要な民間需要喚起に対し、「消費増税は、なすべきことの真逆である」という事実だ。敢えて今、明記しておこう。大手紙の経済記者といっても、世界と日本とではその能力に雲泥の差がある。『朝日新聞』1月16日付朝刊の『株安と安倍政権 経済政策に“百年の計”を』は、近年稀にみる糞社説だった。これで、世界のリベラル経済政策の潮流に反する右翼っぷりを満天下に晒した。朝日の真面目だな(笑)。


宮崎哲弥(みやざき・てつや) 研究開発コンサルティング会社『アルターブレイン』副代表・京都産業大学客員教授。1962年、福岡県生まれ。慶應義塾大学文学部社会学科卒。総務省『通信・放送の在り方に関する懇談会』構成員や共同通信の論壇時評等を歴任。『憂国の方程式』(PHP研究所)・『1冊で1000冊読めるスーパー・ブックガイド』(新潮社)等著書多数。


キャプチャ  2016年1月28日号掲載


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テーマ : 経済
ジャンル : 政治・経済

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