【絶望の非正規】(10) 年収は正社員の半分以下…同じ仕事で大きな格差がある『日本郵政』のアキレス腱

20160130 01
「お父さんみたいな非正規じゃない、正社員になる!」――いつもの家族団欒の最中だった。兵庫県神戸市の郵便配達員・三原浩二さん(54)が、高校を卒業したばかりの長男に「将来の夢は何や?」と尋ねた時に返ってきた言葉である。以前は『日本郵政公社』(当時)の外部委託先で働いていたが、人員や経費の削減が進む中、止むを得ず同公社の期間雇用社員へと転職した。雇用更新を繰り返し、今年で勤続10年。主に速達や書留等の重要な郵便物を配る“混合区”を担当し、今春には新卒の正社員の教育係も任された。しかし、年収は約280万円。正社員の半分以下である。5人の子供がいる三原さんは、 生活保護を受けながら働いている。数年前に病気で入院した時に無給状態となり、困り果てて申請したことがきっかけだ。復職後もケースワーカーのアドバイスに従い、国が定めた最低生活費の基準に足りない分として月十数万円を受け取っている。「僕の給料では、家族に最低限の生活もさせられんということです」。2015年11月に株式上場を予定している日本郵政の社員は約43万人。このうち半分近い約20万人が非正規の期間雇用社員で、三原さんのようにフルタイムで残業も熟す社員も少なくない。しかし、平均年収は正社員が606万円なのに対し、期間雇用社員は227万円。諸手当や休暇制度にも違いがある(左表)。

こうした格差の根拠について、日本郵政は「業務の内容とそれに伴う責任の程度が違う」等と説明。更に、「勤続年数が長く、評価の高い期間雇用社員の中には年収300万円を超える者もおり、単純に年収だけを比較することは難しい」とする。これに対し、東京の配達員で期間雇用社員の浅川喜義さん(44)は反論する。「僕が勤務する局では、年賀はがき等の販売ノルマ(指標)が非正規・正規の区別無く割り振られます」。社内では、自腹を切ってこうしたノルマを達成することを“自爆営業”と言う。数年前、浅川さんの年賀はがきのノルマは7000枚だった。配達の途中に飛び込みで営業をかけて何とか達成したが、中には外回りができない内勤なのに1000枚単位のノルマを課されたり、雇い止めの不安等から“自爆”したりする期間雇用社員もいたという。入社以来、企業との大口契約も複数件成約させてきた浅川さんは、社内で“特約の匠”という称号を贈られたこともある局内屈指の営業マンだ。正社員がこの称号を得ると業績手当が支給されるが、期間雇用社員はゼロ。“見返り”が無くても彼が頑張るのは、営業が苦にならない生来の性格もあるが、「将来は正社員になりたい」との希望があるからだ。「『期間雇用社員の役割は補助的』と会社は言うけど、正社員を目指すからには、正社員以上に苛烈な営業を続けるしかありません」。別の期間雇用社員は、「トラブル発生時の対応においても、責任の重さは正社員と変わらない」と証言する。「『ケータイ料金の請求書が届かない』という苦情を受けた時は、客の自宅まで出向き、『今後は事前に電話をしてから投函するので、様子を見てほしい』とお願いしました。結局、家人の1人が金額を知られたくなくて抜き取っていたことがわかりましたが、この間の謝罪や交渉は僕1人で行いました」。仕事の質も、量も、責任も、実績も正社員と変わらないのに、待遇格差が酷過ぎる――。期間雇用社員たちは口を揃えてそう訴える。




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大阪市の期間雇用社員・岡淳志さん(51)は、「ミスや事故の処分に至っては、僕らのほうが重い」と指摘する。岡さんは以前、特定記録郵便物を1通紛失したとして、時給を410円も下げられた。月額7万円近い収入減少で、減給の制裁上限を定めた労働基準法に反する恐れもあった。不服を申し立て、数ヵ月後に減額幅は半分にされたが、「正社員ならここまでの減給は無い」と憤る。大幅減給を伴う処分の背景を、ある社員が説明する。「時給制の期間雇用社員の人件費は、各局の裁量に任されている。局側が経費削減を迫られた時、彼らの給料をカットするのが手っ取り早い。雇い止めを恐れて泣き寝入りする社員もいます」。期間雇用社員の抱く不公平感が一目でわかる表を見せてもらった。ある郵便局の配達員らの“2015年5月”分の勤務表だ。正社員らは従来の“週休”“非番”に加え、ゴールデンウィークを中心に“祝日”“計年(計画年休)”等を組み込み、全員が月10日以上の休みを取っている。これに対し、期間雇用社員らの休日は“週休”“非番”だけ。辛うじて“4週8休”はクリアしているが、正社員が連休を取った穴を埋める為に、全員が6~7日間の連続勤務に就いている。この勤務表を見る限り、期間雇用社員の役割は“補助的”どころか、正社員以上の主戦力と言っていい。一方、日本郵政は2015年度から正社員の新形態として、「転居を伴う転勤はしない」といった条件の“一般職”の本格採用を始めた。将来は約3万9500人を目指すが(右図)、思ったより応募者は集まっていないようだ。年収が最高でも470万円に届かない低水準だからだ。ある期間雇用社員は、一般職に移行すると時給換算で400円以上も給料が下がるとわかり、登用試験を受けなかった。「今の生活さえ維持できないんですから、話になりません」。局内には受験資格を持つ社員が30人ほどいたが、受験者は僅か数人に留まったという。日本郵政では現在、期間雇用社員12人がこうした酷い格差の是正を求めて訴訟を起こしている。有期労働者と無期労働者の間の不合理な格差を禁じた労働基準法20条を拠り所とした、所謂“20条裁判”である。冒頭の神戸の配達員・三原さんも20条裁判の原告の1人だ。「将来の夢は正社員」と言った息子の口調は屈託無く、非難めいたニュアンスは欠片も無かった。しかし、そのことが一層三原さんを苦しめた。「父親として情けない。社会人として認められる扱いをしてほしい」


藤田和恵(ふじた・かずえ) フリージャーナリスト。1970年、東京都生まれ。早稲田大学法学部卒業後、1994年に『北海道新聞社』に入社。2006年からフリーに。著書に『民営化という名の労働破壊』(大月書店)・『ルポ 労働格差とポピュリズム 大阪で起きていること』(岩波ブックレット)等。


キャプチャ  2015年10月17日号掲載
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