【誰がテレビを殺すのか】(06) “巨艦”NETFLIXの上陸でフジテレビ・吉本興業が迫られた決断

テレビ凋落の背後にあるのが、インターネット配信の隆盛だ。有料の定額配信サービスの参入が相次ぐ中で、テレビはインターネットを味方に付けられるのか? それとも、窮地はより深まるのか?

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「これまでとは、桁が1つ違うじゃないか」――2014年秋、フジテレビの幹部は、眼前に提示されたある金額と条件に面食らっていた。それまでの業界水準と比べると、“破格のオファー”だった為だ。提案を持ち込んだのは、世界最大の定額動画配信サービス会社『NETFLIX』。当時、日本上陸への準備を進めている中でフジテレビにラブコールを送り、独占配信用のドラマ制作費として提示したものだった。その額は、「1話当たり凡そ4000万円」(フジテレビ関係者)。業界では、インターネット向けのドラマを制作するにしても、地上波よりも低コストの100万円単位の制作費に抑えるのが通常だった。そんな中でNETFLIXは、「人気の地上波ドラマの制作費である1話3000~4000万円に1割上乗せしてきた」(同)というのだ。年々、制作費が削減される中では尚更魅力的な価格だ。しかも、更に魅力的だったのは、NETFLIXが制作費を捻出しても、所有権はフジテレビにあることだった。NETFLIXが保有するのは、粗独占配信の権利だけ。フジテレビとしては地上波で放映することもできる為、まさに「良いこと尽くめ」(同)。飛び付かない手は無いように見えた。こうして、NETFLIXが日本でのサービスを開始した2015年9月2日に、2つのフジテレビ制作の作品が独占配信に名を連ねることとなった。人気シリーズの『テラスハウス』続編と、新作のドラマ『アンダーウェア』だ。これまではインターネットサービスへのコンテンツ提供に慎重だったフジテレビが、一歩踏み込んだ大きな転換点だった。NETFLIXの日本上陸に依り、これまで動画コンテンツの王様だったテレビ局は大きな転換期を迎えている。インターネットの普及が進むに連れてテレビへの接触時間は減少し、視聴率も低迷。インターネット配信は進めないといけないが、地上波ほどの稼ぎは見込めず、しかも自社コンテンツを他社に提供したくはない――。これが、従来のテレビ局のインターネットへの姿勢だった。実際、フジテレビコンテンツ事業局の山口真局長は、「NETFLIXは良い条件で来てくれた」と認めつつも、「我々も自前の配信サイトを含めて戦略的にコンテンツを供給する中で、NETFLIXもある意味ではライバル。敵に塩を送り過ぎるつもりはない」と牽制の姿勢を隠さない。

とは言え、この発言を全て額面通りに受け取ることはできない。確かに、フジテレビには2005年に開始した『フジテレビオンデマンド(FOD)』という配信サイトがあり、2015年9月には有料会員数が90万人を超え、黒字化も達成した。フジテレビの亀山千広社長も「ビジネスチャンスに繋げたい」と力を注ぎ込んでいる。だが、フジテレビ社内ですら「FODが主流のサービスになる」と思っている社員はいない。「FODは、基本的に自社コンテンツを囲い込んでいるだけ。インターネット時代に勝てるプラットホームにはなり得ない」(フジテレビ関係者)為だ。これは、テレビ局各社共通の課題だ。どうやら、インターネットの世界ではテレビ局は主役になれない――。そう誰しも気付き始めたタイミングで登場したのがNETFLIXだったのだ。1997年、オンラインのレンタルDVD会社として創業したNETFLIXは、2007年からインターネッ ト配信事業に軸足を移すと、破竹の勢いで会員数を伸ばし、今や世界50ヵ国で展開している。しかも、ビジネスモデルはYouTubeのような無料動画に依る広告モデルではなく、オリジナルを含むドラマや映画を軸にした有料の見放題モデルで成功したのだ。この為、広告モデルのテレビ局にとっては“ライバル”であると同時に、潤沢な資金で制作費を捻出してくれる“味方”になり得る存在でもあるのだ。実際、フジテレビだけでなく、テレビ局各社はNETFLIXの上陸に前後して、定額配信サービスへの接近を強めている(右上図参照)。一番積極的なのは日本テレビだ。日本テレビは2014年に、2011年からNETFLIXに似た定額配信サービスを提供していた『Hulu』の日本事業を買収した。コンテンツを提供するだけでなく、自らプラットホームを運営する立場になったのだ。この為、日本テレビの相当数の番組はHuluで見られる仕組みとなった。NETFLIXと同様、オリジナル作品にも乗り出し、2015年10月には尾野真千子さん主演の『フジコ』(フジサンケイグループの『共同テレビジョン』等制作)を発表した。TBSテレビやテレビ東京は、NETFLIXと同じ9月に日本でサービスを開始した『Amazonプライムビデオ』へのコンテンツ供給量を増やしている。この他、テレビ朝日は今年に入り、『KDDI』や『サイバーエージェント』と動画配信サービスで提携することを発表している。まさに、NETFLIXと同時に、一気にテレビ番組がインターネット上に“解放”されたのだ。「歴史上の黒船は、自分で幕府を滅ぼしたのではなく、国内勢の開国を誘った。そういう意味で、NETFLIXはまさに“黒船”だ」。業界紙『メディアボーダー』を運営する境治氏は、こう指摘する。




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「又吉直樹に、自由度の高いことをやらせてあげたかった」――NETFLIXが上陸後に手を組んだのはフジテレビだけではない。巨大芸能事務所の『吉本興業』も目玉の1つだ。しかも吉本興業は、今年最大の話題作とも言える、又吉直樹氏作の芥川賞受賞小説『火花』の映像化をNETFLIXに差し出した。「今一番熱いコンテンツだけに、テレビや映画から山ほどオファーがあったが、NETFLIXへの独占配信を決めた」と、デジタル制作担当の山地克明氏は説明する。とは言え、テレビ局各社の出資を受ける吉本興業が、何故NETFLIXを選んだのか? 冒頭のような豊富な資金力や条件面での優位性に加え、「NETFLIXは、誰に聞いてもクリエイターを大事にするというし、自由度の高い作品が作れるのが最大の理由」(山地氏)という。更に内情を探ると、芸人を多数擁する吉本興業にとって、テレビの制作現場に“息苦しさ”を感じる芸人が増えているという事情も見え隠れする。テレビは年々、自主規制やスポンサーへの配慮から自由度が低下し、同じような作りの番組が増えているのは前述の通りだ。「ひな壇が好きな芸人もいるが、ネタを作る芸人等は新たな創造意欲を発揮する場所が少なく、フラストレーションが溜まっている」(吉本興業関係者)。その受け皿として、NETFLIXが一気に躍り出ようとしているのだ。しかも、未だ公表されていないが、吉本興業は『火花』以降もNETFLIX向けの大作を数点仕込んでいる。NETLIXの有する世界市場での人気獲得を狙いに行く作品となるようだ。

山地氏は、「飽く迄も中心はテレビ」と強調する。一方で、吉本興業の動きは、これまでテレビしか選択肢が無かった番組の作り手たちが、“脱テレビ依存”の場をインターネットに求める大きなうねりにも見える。実際、NETFLIXだけでなく、『Amazon』や『dTV』等いった配信各社の元には、これまでテレビ向けが中心だったクリエイターや制作会社から番組提案が押し寄せている。「NETFLIXが年間5~6点、Amazonが20点ぐらいのオリジナル作品を国内のクリエイターたちと作るようだ」と業界関係者は打ち明ける。内容は社会派のドラマやドキュメンタリー等、テレビでは「ウケない」とされるものも多いという。しかも、吉本興業は『電通』と組んで、こうした制作会社を資金面で支援するファンドの設立まで発表した。更にテレビ局の中でも、インターネットならではの表現の自由を実感するクリエイターもいる。先述の『アンダーウェア』を担当したフジテレビの関口大輔プロデューサーは、「アンダーウェアでは、“下着”というテレビでは扱えない題材を用いた。しかも、1話毎の視聴率に気を取られないでいいので、全体を考えて伏線を敷く等、新しい作り方を試すことができた」と意義を語る。その上で、「今後、インターネットでのドラマはもっと増えるだろう」と指摘する。このように、テレビを取り巻く作り手や視聴者の間で、新たなうねりが起こっているのは紛れもない事実だ。未だテレビの影響力のほうが大きいとは言え、今の内に良質なコンテンツをインターネットに供給して新たなモデルを作り出すのか、それとも現状のテレビ視聴者を取り敢えず死守するのか。テレビ局各社の戦略は今後、生き残りの明暗を分けそうだ。

■クリエイターたちの転換期…世界進出の鍵はアニメから
「アニメを取り巻く状況は転換期にある。インターネットのおかげでアニメが流通し、ファンが世界中にいるのに、これまでは海賊版も多かった。今後は、きちんと海外展開できるチャンスだ」――こう話すのは、アニメ制作会社『ポリゴンピクチュアズ』の塩田周三社長だ。ポリゴンが日本向けに制作したアニメ『シドニアの騎士』は海外での人気も絶大で、既に2014年夏からNETFLIXで海外に独占配信されている。次作のテレビ版『亜人』も、2016年に独占配信される予定だ。ポリゴンは2000年代から日本を飛び出し、北米のテレビ向けアニメで成功を収めていた異色の制作会社だが、NETFLIXという国境を跨ぐサービスの登場で可能性の更なる広がりを感じている。「NETFLIXを通じて、熱烈なアニメファン以外のマス層の視聴者からの反応がある。アメリカ・南米・北欧等、色々」(塩田氏)。このように、世界50ヵ国で展開しているNETFLIXの上陸に依り、日本の作り手は世界に挑戦できるようになる。そして、「その有力候補がアニメ」(NETFLIX日本法人の大崎貴行副社長)なのだ。日本のアニメは、世界ではニッチ市場とは言え、各国にコアなファンがいる為にボリュームは大きい。政府が進める“クールジャパン政策”の追い風もあり、今やテレビ局も映画会社もアニメに注力している。アニメ会社は、これまで長時間拘束で給料も低いブラック企業のイメージだったが、世界で人気が出るとなれば、NETFLIXやAmazon等が拠出する制作費は潤沢だ。国内で完結するのではなく、世界に通用するアニメ作りが求められる。


キャプチャ  2015年11月14日号掲載


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