【日曜に想う】 日本の政治は悪くなったのか

30年余り、政治記者を続けてきた。締め括りのコラムとして、「日本の政治は悪くなったのか?」ということを考えてみたい。通常国会は甘利明氏(前経済再生大臣)の疑惑等で序盤から熱を帯びている。論戦の中心は、安倍晋三首相と民主党・岡田克也代表との対決だ。私にとって、この構図は自分の取材してきた政治の1つの到達点に見える。簡単に振り返ってみたい。1985年、中曽根康弘首相を追いかける“番記者”になった。当時は、政権を握り続ける自民党と万年野党・社会党という55年体制だった。竹下登政権では、消費税導入という難事業をやってのけた。業界の代表と官僚が自民党の族議員の下に集まり、“調整”という名目で密室の匙加減をする。それが政治の日常だった。ある日、頭をガツンと殴られたような衝撃に見舞われた。権勢を振るっていた金丸信元副総理が建設業界からヤミ献金を貰い、巨額の脱税をしていたことが発覚。事務所からは大量の金塊が見つかった。自民党一党支配の政治が、根深い腐敗を生んでいたのだ。毎日取材しているのに、その暗部を見抜けなかったことが情けなかった。

どうすればよいのか。「金権の温床は中選挙区制だから、小選挙区制を導入すれば政治は刷新される」という政治改革論議が高まった。私は疑問を感じていた半面、「自民党に対抗できる勢力が無いことが、緊張感の無い政治の原因だ」とも考えていた。1993年、岡田氏は政治改革を訴え、小沢一郎氏らと共に自民党を離れて新生党を結成。安倍氏は自民党衆議院議員として初当選したが、自民党は野党に転落した。この時点で、2人は交差して与野党に別れた。小選挙区制が導入され、衆院選は7回重ねられた。小泉純一郎政権で自民党は息を吹き返し、安倍氏が頭角を現した。2006年には首相に就くが、1年で退陣。挫折を味わった。岡田氏は民主党代表・幹事長等を務め、2009年には念願の政権交代を実現した。だが、その政権も3年余りで崩壊。安倍氏の復権を許すことになる。岡田氏は1年前に代表として再登板。2人は与野党のトップとして、がっぷり四つの国会論戦と国政選挙に臨む。集団的自衛権の行使容認に伴う安全保障法制は、2人の違いを鮮明にしている。憲法解釈を変更して海外での武力行使に風穴を開けようとする安倍氏。十分な説明の無いまま採決に持ち込んだ手法に、多くの国民が疑念を抱いたのは当然だ。一方、岡田氏は立憲主義を唱えて憲法の解釈変更に強く反対したが、成立を阻止することはできなかった。“戦後レジーム”の転換を掲げてきた安倍氏と、戦後民主主義を評価する岡田氏との対立軸も見えてきた。経済政策では、安倍氏が「成長に依って懸案が解決できる」と説くのに対し、岡田氏は「公正な分配や格差縮小が急務だ」と主張する。アメリカや中国との向き合い方にも隔たりがある。




小選挙区制は、2大政党が政策を中心に切磋琢磨する政治を目指した。未だ道半ばだけれど、“安倍vs岡田”という選択肢を示せるところまで辿り着いたというのが、日本政治の現実ではないか。一昔前に比べ、政治家は小粒になり、質も良くなっているとは言えない。ただ、それでも権力者が金塊を溜め込む政治に比べれば、少しは前進していると思いたい。これから、もっと鍛え上げなければならない。その主役は勿論、国民だ。民主主義も平和も、“守る”だけではなく“創る”為にはどうすればよいのか。更に考え抜く必要がある。「日本の政治は悪くなったのか」――。私は「否」と答えたい。政治家が明確な選択肢を示し、有権者が熟慮の末に賢い判断をすれば、民主主義は生き生きとしてくる。その素地は出来つつあると信じているからだ。 (特別編集委員 星浩)

               ◇

星浩特別編集委員のコラムは今回で終わります。


≡朝日新聞 2016年1月31日付掲載≡


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テーマ : 政治家
ジャンル : 政治・経済

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