【インタビュー・明日を語る2016】(16) 選挙権に見る18歳の迷い、デモ参加は閉塞感の表れ――作家 羽田圭介氏

改正公職選挙法が6月に施行され、選挙権の年齢が18歳以上に引き下げられる。70年ぶりの改正は、若者の選挙離れを食い止め、政治参加を進められるのか。低成長時代を生きる若者の価値観とは。17歳でデビューし、同世代の若者と過ごしてきた芥川賞作家の羽田圭介さんに考えてもらった。 (聞き手/文化部 佐藤憲一)

20160131 10
今年夏から選挙権が18歳まで引き下げられる理由の1つは、少子化で若者の人口が減り、意見が反映され難くなっている中で、世代間の公平性を保つことだと聞く。正直、2歳引き下げられても中高年以上の人口が圧倒的に多く、社会が劇的に変わるとは思えない。しかし、小さな一歩でも若者に有利になる改変が行われたことには意味がある。若い世代に、政治が自分たちの暮らしや将来に関係があることを気付かせる司能性があるからだ。昨年夏、80代の祖父を介護しながら暮らす28歳の男を主人公にした『スクラップ・アンド・ビルド』で芥川賞を受賞した。主人公は全ての選挙に真面目に行き、国民年金の保険料も払っていたが、老人に有利な社会保障システムに怒って、保険料の支払いを止めてしまう。選挙で政治が変わらないから保険料を払わないというのは独り善がりな行為だが、現実に若者向けのメディアでは、「好景気の時代を生きて多くの資産を持つ高齢者が優遇されているシステムを見直せ」という極論が聞かれる。今、還暦を過ぎた僕の両親が90代の母方の祖母を介護している。老々介護に近いその姿を見ていると、利害の対立する世代や相手と関わり合わないで、つまり身体性を介さないまま、強気の意見を言う風潮が蔓延っていることに疑問を感じた。そのことが、この小説の背景になっている。僕は高校3年生の時に文芸賞を受賞して、17歳で作家となった。当時も日本の歴史や戦争について考えたりはしたが、目の前のことに精一杯で、リアルタイムの政治への関心は持っていなかった。その経験からすると、今の若者も選挙権を得ても誰に投票すべきか迷ってしまうだろう。一部の若者がインターネットの“まとめサイト”等の極論に扇動され、投票することはあっても、「インターネットの世界は実社会と切り離されていて、現実の政治行動には影響しない」と考えていた。

だから昨年、ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)を通じて、学生団体『SEALDs』の安全保障関連法案反対のデモが広がったのは意外だった。彼らの行動に共感も反発もしないが、若者がデモのような直接的政治運動を行うようになったのは、日本の閉塞感の表れかとも思う。1985年に生まれた僕の世代は、物心ついた時にはバブルが終わっていた。最初から不況で、その前の日本と比較してどこが駄目なのか、何を望めばいいのかわからない。今の18歳なら尚更だ。母校の中学や高校で生徒たちと話したりして不思議なのは、皆、親と仲がいいこと。大学生でも、親に友だちのことを話すのが普通になっている。勉強に追われ、お金も無い今の若者は、夜は家に帰って親と仲良くするしかないのでは。「内向きだ」とか「車やテレビを買わない」とかの若者像が取り沙汰されるが、それも余裕が無くなっているから。もっと上の30代前半ぐらいまで仕事や生活に追われ、政治に関心を向けられないのが現実だろう。選挙権が拡大されて必要なのは、ジャーナリズムが政治家に対する監視の目を強めること。政治を勉強する余裕が無い若い世代は、本当に実行されるかわからないマニフェスト(公約)を選挙の直前に見て、投票するしかないのが実際だろう。政治家は本当のことを言っているのか。政治の裏側で国民の意思に反したことが進められていないか。権力や世間の批判を恐れない報道がなされないと、若い世代は政治に失望してしまう。今後の日本は人口が減り、経済的にも厳しくなるだろう。しかし、人の幸せは別のところにあるかもしれない。10年前に投票権を得てから、僕は大半の選挙に行っている。「投票しても何も変わらない」と文句を言えるのは、実際に投票を経験した人だけ。政治や社会の未来について、考えることを面倒臭がってはいけない。




■20代投票率、50年前の半分
選挙権年齢の引き下げで新たに有権者となる18~19歳は約240万人。全有権者の2%を占める。政治に反映される民意の世代間格差の解消の他、政治に無関心な若者の選挙離れが進んでいることも引き下げの背景にある。全体の投票率が戦後最低の52.66%だった前回2014年の衆院選では、20代の投票率は32.58%と全世代で最も低く、68.28%だった60歳代の半分以下。学生運動が盛んだった1967年の20代の投票率は66.69%で、現在はその半分しか投票に行っていない。18歳選挙権の導入で、高校3年生から選挙権を得ることになり、中学や高校の教育現場でも、未来の有権者の政治参加意識をどう高めていくかが課題となっている。海外では18歳以上の選挙権が主流で、オーストリアでは全ての選挙で16歳以上が投票でき、ドイツでも地方選で16歳以上に投票権を与えている特別市や州がある。一方、現代の若者像は、海外に出たがらない“内向き志向”や、車やブランド品を欲しがらない“嫌消費世代”、個性重視のゆとり教育を受けた競争心の薄い“ゆとり世代”、デフレと不景気の時代を生きる過度の向上心を持たない“さとり世代”等、様々なキーワードで語られる。SNSを通した友だちとの緩い繋がりを好む、ボランティア等といった社会貢献意識が高い等の気質も指摘される。 (文化部 佐藤憲一)


≡読売新聞 2016年1月13日付掲載≡
世代間格差 [ 加藤久和 ]

世代間格差 [ 加藤久和 ]
価格:907円(税込、送料込)



スポンサーサイト

テーマ : 選挙
ジャンル : 政治・経済

Categories
Profile

Author:KNDIC
Welcome to my blog.

Latest articles
Archives
Counter
I'm participating in the ranking.

FC2Blog Ranking

information
Search
RSS Links
Link
QR Code
QR