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尊重し合う生き方、冨原眞弓さんに聞く――ムーミンに学ぶ寛容さ、違い受け入れる心を

今年は児童文学『ムーミン』シリーズを書いたフィンランドのトーベ・ヤンソン(1914~2001年)生誕100周年。記念行事の開催などで、ムーミンが改めて話題になっている。ムーミン人気の秘密は、ムーミンに学ぶ人間の生き方とは。翻訳や研究でムーミンに詳しい冨原眞弓聖心女子大教授(60)に、東京・広尾の大学キャンパスにある研究室で聞いた。






「ムーミン物語は1945年に刊行した“小さなトロールと大きな洪水”を皮切りに合計9作品。英国夕刊紙に連載したムーミンの3~4コマ漫画も1954年から約20年間続き、欧州で大人気となりました。日本では1970年前後と1990年代前半の2度にわたってテレビアニメとして放映され、話題になりましたね。40種類以上の言語に翻訳され、世界中の読者に愛されています」「実は私は少女時代、ムーミンを全く知りませんでした。北欧の自由な空気に憧れて、1989年ストックホルムを旅行した時のこと。たくさんのムーミン物語やヤンソンの研究書が書店に並んでいるのを見て、これほど北欧で人気のある著者はどんな人物だろうと興味を持った。英訳本のシリーズ第6作“ムーミン谷の冬”を読み、ムーミンの魅力に取りつかれました。9作品を読み終えると、今度は邦訳のなかったヤンソンの大人向け小説を読みたくなった。ヘルシンキに住むヤンソンに手紙で大人向け小説を邦訳したいと申し出て、親交を結びました」「ムーミンをカバだと誤解している読者もいますが、北欧の民間伝承にヒントを得た架空の生き物。ユートピアである架空の場所、ムーミン谷の住民は変わり者ぞろい。いろんなタイプの生き物が登場し、みんな違っていることが当たり前になっています。それぞれが自由に気楽に生きていますが、それだけに互いの意志や自由を尊重、大切にしています」

登場人物では特にムーミンパパが大好きだという。「家族の長として良くも悪くも安定志向があるのに、芸術家らしくボヘミアン的な放浪癖もあるという2つの顔を持つ。根は真面目だが、どこかいい加減なところに愛着がわきます。ママはヤンソンの母で画家のシグネがモデル。家事を一手に引き受け、子育てをしながら、自ら仕事もして家計を支えたしっかり者。訪ねて来る者は誰でも歓迎して世話をする面倒見の良さもシグネそっくりです。歯に衣を着せないミイも憎めません。もちろんムーミンが最も魅力的。自分の自由を認めてもらいたいからこそ、他人の自由も認めるべきだと考えています。誰からも愛されないモッラとさえ、友達になろうと努力します」

日本のムーミン人気は世界でも群を抜いている。本国フィンランドをしのぐといわれる。「ヤンソンの文章は冗舌でなく、説明的でなく、ミニマリズム(最小限度による表現方法)で登場人物の性格を描写します。読者に行間を読むことを求めるため、分かりにくいと思う読者もいるかもしれない。しかし、日本人は行間を読むことが得意で、日本人気質に合う。ヤンソンはわずか17文字で表現する日本の俳句を愛し、最小限の線で描写する雪舟の水墨画を好みました。禁欲的で潔い日本人に通じるものがある。ミニマリズムを基調とする北欧デザインが日本で受け入れられていることも共通しています。一流画家なので挿絵には抜群の表現力があり、選び抜かれた語彙を駆使して、さりげないユーモアや皮肉をちりばめる文体も見事です」「物語に通底するのは、世の中にはいろんな人がいて、いろんな生き方、考え方があっていいのだということ。登場人物が互いの違いを受け入れる心の広さ、寛容さを持っていることです。価値観は決して1つではないことをみんなが認めている。ムーミン谷にはいじめはありません。個々の違いに過剰反応し、同質がよいとする日本の教育現場にも参考になるのでは」

戦争、社会不安、孤独など負の問題も大きな主題。「第2作の“ムーミン谷の彗星”は、1946年の発表で、明らかに第2次世界大戦の影響が認められる。平和なムーミン谷に突然、宇宙から地球の平和を脅かす彗星が飛んでくる。戦争がもたらす不安と恐怖に、架空の世界の中で怒りを持って抗議しているようです」。ヤンソンの父がフィンランドで数少ないスウェーデン語系住民、母がスウェーデン人で、著者が少数派国民だったという出自が物語にも反映している。「ムーミン谷は他の世界から隔絶した小世界を表現していますが、フィンランドがロシア・ドイツ・スウェーデンという強国に囲まれていたことや、ヤンソンが少数派住民だったことと無関係ではない。孤立しているように見えるが、海や川によって外の世界とつながっている。“ムーミン谷の冬”では、冬眠から目覚めたムーミンが外の世界に出合います。奇妙な冬の住人たちと意思疎通ができず、厳しい冬の神秘に驚き、生まれて初めて孤独を経験する。しかし、冬のムーミン谷を受け入れてたくましく生きていくうちに、一回り大きく成長します」 (生活情報部 木戸純生)

               ◇

トーベ・ヤンソンは大人向けの小説でも秀作を残している。1968年刊行の自伝的小説『彫刻家の娘』、1972年の『少女ソフィアの夏』、1982年の『誠実な詐欺師』など。孤独や老い・不安や嫉妬などを扱っているが、「ムーミンと基調は同じ。人間はみな違うもので、違うことを受け入れることが大事なのだと訴えている」と冨原さんは解説する。もう一つヤンソンの大きな功績と冨原さんが注目するのは、母シグネと2代で関わった政治風刺雑誌『ガルム』。北欧神話に登場する冥府の番犬の名から命名されたこの雑誌は1923~1953年に発行され、自由主義・反全体主義・スカンディナビア主義(北欧諸国の協調)の3つが骨格だった。スターリニズムとナチズムに挟まれた、フィンランド自立の精神的支柱。ヤンソンは優れた画家的才能を発揮してガルムの風刺画を描き続けた。「大きな波にのみ込まれずに、小さくても自分らしさを失ってはいけないと、ここでもムーミンの精神が生きています」


とみはら・まゆみ 聖心女子大文学部哲学科教授。1954年、兵庫県西脇市生まれ。1976年上智大外国語学部英語学科卒、フランス政府給費留学生としてソルボンヌ大学大学院留学、哲学博士号取得。専門はフランス哲学だが、トーベ・ヤンソンに魅せられて作品の翻訳、研究を手掛ける。著書に『ムーミン谷のひみつ』『トーヴェ・ヤンソンとガルムの世界』など。


キャプチャ  2014年9月20日付夕刊掲載
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