【大阪ダブル選総括】(上) 市民は何を選んだのか――地盤沈下への焦りが求めた大阪の“維新”

20160201 05
各地からヒト・モノ・カネを吸い込みながら東京が巨大化する一方で、大阪が最後の抵抗をするかのようにもがいている。人口約270万人の大阪市を廃止して、東京23区のような特別市に再編する『大阪都構想』。その是非を問う住民投票が2015年5月にあり、否決された。その半年後の11月の大阪府知事・大阪市長のダブル選は、都構想を再び旗印に掲げた大阪市長・橋下徹が率いる政治団体『大阪維新の会』が、2人の自民推薦候補を押さえて圧勝した。カリスマ的な橋下の衰えぬ人気を見せつけた形だが、“成熟都市”大阪の抱える問題は山積している。人口減・企業の流出・空洞化・貧困層の増加…。往時の活力が消えた今、どうすれば衰退に歯止めがかかるのか。住みよく経済も盛んな街に、どう再生させればいいのか――。「東の東京都、西の大阪都。2つのエンジンで日本を引っ張る」。選挙戦で威勢のいい言葉が響いた後、大阪の深層に目を凝らすと、人口減少時代の都市再生の難しさが見えてくる。

維新の完勝だった。府知事選で大阪維新の現職・松井一郎は202万5387票、自民推薦の元府議・栗原貴子は105万1174票。粗ダブルスコアとなった。市長選では、維新の元衆議院議員・吉村洋文が59万6045票、自民推薦の元市議・柳本顕が40万6595票。吉村が9万票近く引き離した。知事選は松井が再選、市長選は吉村が初当選し、今の任期で政治家引退を表明している橋下の後を引き継ぐ。選挙の構図は“大阪維新vs反維新”だった。自民党は栗原・柳本を推薦し、民主・共産両党の地元組織も支援したが、及ばなかった。公明は自主投票だった。選挙戦を見ていると、中盤から維新の優位が見えてきた。大阪市北区の天神橋筋商店街。橋下の乗った選挙カーの前には人だかりができていた。「大阪府庁と大阪市役所、これを1つに纏めて強力な大阪都庁を作るという話なんですよ。新しい大阪都庁を作って、ニューヨークやロンドン・パリ・上海・バンコク。こんなところと競争できるような新しい大阪を作っていく為には、どうしても大阪都構想が必要だと僕は思っています。どうか、もう一度、議論だけは継続させて下さい」。歯切れの良い弁舌に聞き入る聴衆から拍手が湧く。「大阪を再生していくには、東京に頭を下げずに、東京と場合に依っては喧嘩をしてでも、皆さんの力で再生させていくという政治をやっていかなくてはいけないと思うんですね」。その後、候補者の松井・吉村がマイクを握ったが、橋下への拍手が最も大きかった。橋下ファンという年配の女性に聞くと、「徹ちゃんは引退はせえへん。きっと国政に出るわ」と話した。一方、大阪市此花区であった自民推薦の柳本・栗原の演説会。応援弁士として元衆議院議長の伊吹文明(衆議院京都1区)が駆け付けた。「何で大阪に企業が居付かないのか。京都には京セラ・ワコール・村田製作所・ローム…。どこも東京に絶対に本社を動かさない。大阪は住友を始め、皆、東京に行ってしまった。大阪に魅力が無くなっているからですよ。それを大阪都構想で取り戻せるかどうか。リニア新幹線・北陸新幹線等、懸案事項が大阪には沢山ある。京都に文化庁、大阪に特許庁を持ってきてもらわないかんのに、今の(維新の)状況では話が全く進まない。近畿の1府4県は、大阪に頑張ってもらいたいんですよ。真っ当な政治を取り戻そう」。会場からは野次が飛んだ。「今のままでも良くならないぞ!」。盛り上がりに欠ける印象だった。




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ダブル選で大きな焦点となったのは、半年前の住民投票で僅差で否決された大阪都構想だ。維新側は「二重行政は解消されていない」「過去に戻すのか、前に進めるか」と、市を廃止して特別区を設置する都構想の必要性を訴え、新たな設計図作りを公約に掲げた。橋下や松井らが立ち上げた国政政党『おおさか維新の会』の綱領は、「首都機能を担える大阪都をつくり、大阪を副首都とすることで中央集権と東京一極集中を打破し、将来の多極化(道州制)を実現する」と謳う。対する自民党の候補者は、政権与党として東京とのパイプの太さをアピールしたが、都構想に代わる大阪再生の道筋を示せなかった。柳本の公約は「破壊的改革から、新しい価値を生み出す“創造的改革”を」。経済を強く、教育を強く――等と抽象的な文言が目立った。栗原の訴えは「輝ける大阪“大・大阪”/首都圏に匹敵する広域経済圏“メガリージョン”を形成」。リニア中央新幹線大阪・名古屋同時開業▽北陸新幹線の大阪への早期接続▽省庁(中小企業庁・特許庁)の移転等を繰り返した。維新の打ち出す“副首都”化、自民側の“大・大阪”。方法論は異なるとは言え、何れも東京を強く意識している点が共通だ。東京一極集中の是正・経済成長・首都機能の移転・企業の誘致…。実現性が不透明というところも似ている。大きく異なるのは都構想の是か非か、つまり基礎自治体である大阪市を廃止するのか、残すのか。しかし、住民投票で否決されていることもあり、真っ向からの論戦とならない。自民や共闘した共産等は、“オール大阪”として“さよなら維新”と訴えたが、無党派層を含む幅広い有権者の胸に響くものは無かった。今回のダブル選で、有権者は都構想実現への再挑戦を選択した。財政難の大阪市を廃止・分割し、財政難の大阪府と統合したところで、病んだ大阪はそう簡単に再生しない。仮に府の名称が都に変わったところで、政府が第2首都として中央省庁を移転させることは無く、国税の一部が配分されることも無い。東京に移転した企業の本社が戻らないのも明らかだ。財政にしても府と市の権限・財源の配分であって、国の権限や財源が委譲されるということでもない。行政の枠組みを変えるだけでは、都市は甦らない。その事実や限界を薄々知りつつも、市民が“一極集中の打破”を掲げる維新の候補者を選んだのは、長く蓄積された東京へのコンプレックスの裏返しなのか。それとも東京を過剰に意識し、張り合おうとしてきた伝統からなのか。将又、「東京と喧嘩できる」という勇ましい言葉にカタルシスを覚えるからなのか…。

「戦後の大阪の都市政策は失敗の連続だった」――地域経済の変遷を見つめてきた大阪市立大学名誉教授の宮本憲一(環境経済学)は指摘する。成田空港に続く関西空港・筑波研究学園都市に次ぐ関西文化学術研究都市・堺や泉北のコンビナート開発・オリンピック誘致・ベイエリア開発…。「大阪の地盤沈下というが、本当の危機は東京との格差ではなく、格差を危機と考えて理めようと焦る余り、“セカンド東京”を追い求めたことだ。プロジェクトは、どれも所期の目的を果たしていない。結果として、大阪の独自性を戦後喪失し続けてきたところに、最大の問題がある」。“副首都”を狙う都構想は、究極の追随策に映る。政治や中央官庁がある東京への集中度合いは、ここへきて加速する一方だ。銀行貸出残高の東京圏のシェアは52%。外国法人数は85%、資本金10億円以上の企業の本社数は62%、情報サービスや広告業の従業者数は61%。人口の約3割を占める東京圏が、主要な経済指標で過半のシェアを握る。高度経済成長期以降、“均衡ある発展”“多極分散型国土”等を目指してきた日本だが、「“東京国”と“その他国”に分かれてしまった」という感概を抱いてしまう。人口の波が、この一極集中を際立たせる。高度経済成長期は3大都市圏に人口が流れ込んだが、バブル以降は東京圏のみに人口が流入する。最大の特徴は、東京で20代の若者が増えていることと、転出者が減り続けていることだ。つまり、一旦東京に住むと他の地域へ出て行かない。過密・地価・環境等の面で東京が住みよい訳ではないが、経済力の集中に伴う働き口の多さに引かれ、“東京圏への滞留”が起きているのだ。首相の安倍晋三は、「地方創生は内閣の最重要課題」として一極集中に歯止めをかけると強調する。しかし、真剣に是正しようとする雰囲気は感じられない。「集中に規制をかけるのではなく、寧ろ地方の魅力を高めるほうに重点を置く」(国土交通省)。5年後の東京五輪を睨んで首都の開発は加速し、集中は更に進む。そして、大阪を筆頭に“その他国”は更に沈む。

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知事選で再選された松井一郎や、市長に初当選した吉村洋文は、府と市の協議機関である『府市統合本部』を2015年内に設置する方針だ。大阪都構想の設計図作りが本格化する。住民投票の否決を受け、軌道修正するとしているが、大阪市の廃止と区の再編・リストラ策が中心にあるのには変わりがない。これまでの計画では、大学・病院・消防・公営住宅・文化施設等でリストラ案が並んでいた。“二重行政”という言葉は役所の無駄遣いを連想させるが、“類似施設=二重”という発想は短絡的だ。病院でも大学でも抑々、サービスが不足しているから市民の努力で作られてきたのだ。多くの市民が利用しており、サービスは未だ不足しているぐらいだ。神奈川県と横浜市・愛知県と名古屋市等の大都市は、“二重”に依って行政需要をカバーしてきた面が大きい。とりわけ、大阪は貧困対策等といった大都市特有の問題が多い。無駄は省かなければならないが、時間をかけて精査する必要がある。毎年2月、『関西財界セミナー』と銘打って、500人を超す関西の財界人が京都に集まり、2日間に亘って都市再生や企業経営の在り方を論議する。1963年、当時の松下幸之助(『松下電器産業』創業者)ら関西財界人の提唱で始まった恒例行事だ。半世紀に及ぶセミナーで、2015年には初めて“一極集中の是正”をメインテーマに掲げた。「関西が主体的に動くことなしに的を射た政策にならない」――『関西経済連合会会長』の森詳介はそう提起したが、関西企業自身が“主体的に”本社を東京に移してきたことが地盤沈下を招いた面が大きい。「リニア中央新幹線全線同時開業」「西のスーパーメガリージョン(地域)」。力強い言葉が飛び出したが、足元を見つめる意見が新鮮に響いた。「東京と相似形でない極を」「都市のみに偏らず、農村再生の視点を」。一極集中の裏側で広がる衰退に、どう向き合うか。2014年秋に亡くなった元大阪商工会議所会頭の大西正文は、“都市格”を提唱していた。人に人格があるように、都市にも格がある。富や人口のみで測らず、住み心地や文化等、総合的な魅力を高めることが鍵だという。東京だけが日本ではない。多様な風土があってこそ、多様な人材や文化が生まれる。成熟都市である大阪の動向は、全国の地域再生の行方を左右する。教育・福祉・健康や医療産業・ものづくり・観光戦略…。東京に追随せず、独自の都市格を磨く姿勢が求められている。 《敬称略》


加藤正文(かとう・まさふみ) 神戸新聞論説委員。1964年、兵庫県生まれ。大阪市立大学商学部卒業後、1989年に『神戸新聞社』入社。経済部・北摂総局・阪神総局等に勤務。著書に『工場を歩く ものづくり再発見』(神戸新聞総合出版センター)・『死の棘・アスベスト 作家はなぜ死んだのか』(中央公論新社)等。


キャプチャ  2016年1月号掲載


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テーマ : 橋下徹
ジャンル : 政治・経済

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