【インタビュー・明日を語る2016】(18) 地方主導が活力を生む、政策の数値評価は自主性を奪う――帝京大学教授 内貴滋氏

人口減少の克服に向けた安倍内閣の“地方創生”は、計画作りを終えて実施の段階に入る。どの自治体にも総合戦略や人口ビジョンの策定を求めた手法は、どう展開するか。自治官僚時代から全国の地域作りを見つめてきた帝京大学の内貴滋教授が課題を展望した。 (聞き手/編集委員 青山彰久)

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内閣が日本の抱える大きな問題から逃げることなく、長期展望に立って人口減少に転じた社会と国土の在り方に取り組むことには、歴史的な意義がある。課題だった東京一極集中も、地域活性化と均衡の取れた国土を目指して解決するという。国と地方が共に協力して問題を克服しようということだ。この挑戦を評価したい。ただ、課題もある。地域の在り方を考える際、データに過剰に捉われ過ぎてはいけないだろう。『日本創成会議』が「2040年に全国の半数の市区町村が存立の危機に瀕する」という推計結果を示したことで、自信を失いかけた地域もある。また、多くの自治体は其々の総合戦略と人口ビジョンを策定する際、国や県のそれらとどう整合させるかの作業に追われている。人口推計に意味が無い訳ではないが、統計で処理する1人ひとりは、かけがえのない人生を送る人間だということを忘れてはならない。希望と夢を抱き、意思を持った人間だ。そうした1人ひとりが作る生活の場が地域であり、地域はどのようにも変えられる可能性を秘めていると言っていい。地方創生で最も重要なのは、自治体が地域に根差し、自ら調べ、自ら考え、自ら行動することだ。お年寄りの苦労・母親の喜び・父親の悩み・住民の生活を最もよく知っているのが自治体だからである。大分県に出向した時、当時の平松守彦知事の下で“一村一品運動”を企画立案した。当時、県内の小さな離島の姫島村に人口問題の研究者が来て、「人口3000人以下の自治体は人口減の道しかない」と言った。村長は、村民に奮起を促した。「『この島に残りたい』という次男や三男の為に、島の資源を掘り起こす」として、皆とクルマエビの養殖に取り組み、人口の流出を止めた。

竹下内閣時代の“ふるさと創生事業”で、各自治体に地域振興の為に1億円が交付された。「全国最大の横浜市も最小の東京都青ヶ島村も、何故同じ1億円なのか」。国会でこんな質問を浴びて議論になり、「バラマキではないか」という批判を受けたのも事実だ。しかし、事業の本当の狙いは、“自ら考え自ら行う地域作り”にあったのだ。成熟した国家として、“国が決めて地方が従う”という仕組みから、“地方が考えて国が支援する”形に転換し、地域社会全体で考えれば中央省庁に負けない潜在力があることを示したかった。実際、多くの自治体は、企画会社の手を借りずに自ら多様な政策を立案した。今回の地方創生では、国が地域戦略の骨格等を示した。中央官僚も派遣し、様々な施策を掲げた。政策の結果を数値で評価する。一歩間違えれば、自治体が国の顔色を窺うことにもなりかねない。行政サービスの業績評価で最先端を行くイギリスは、国が自治体に対して224項目の業績指標を設定し、結果を点数化して補助金を増減させた。16年間続けた末、自治体が国の評価にすり寄り、地域の多様性を奪う結果を招いたとして廃止し、自治体の自主評価制度に変えた。この失敗に学ぶ必要がある。自治体は、自ら考える気概を持ってほしい。人口減少への対処は、国・地方が連携すべき課題である。国が、地方も同じ方向で取り組むよう期待するのはわかる。そこで必要なのは、地域の自主性を引き出し、住民参加を進める仕組み作りだろう。国は寧ろ、新しい産業の立地・市場開放への対処策・大学の地方分散・小中高校の維持等、国にしかできない人口減少社会への一貫性ある基本政策を一層、研究してほしい。地方の側も、自治体の壁を越えた連携が必要だろう。「地域の中核都市が周辺の農山村を養う」という発想は誤りで、都市と農山村が互いに支え合う視点で広域政策を考えてほしい。




■地域の宝、連携し発信
人口減少や地域活性化対策は、今に始まったことではない。過疎対策・地域おこし等として以前から取り組まれ、その都度、地方には国から多額の資金が注ぎ込まれたが、根本的な解決に至っていない。国は2014年12月に『まち・ひと・しごと創生法』を施行し、地方を活性化し、人口減少に歯止めをかける総合戦略と、2060年に人口1億人を維持することを目指す長期ビジョンを決定。同法で、全自治体は2015年度中の地方版総合戦略と人口ビジョン策定を求められ、2015年10月末までに都道府県は約8割、市区町村は約4割が定めた。こうした自治体に、国は交付金で施策の実施を支援する。人材では、総務省が2009年度に創設した地域おこし協力隊員が年々増え、2014年度には全国で1500人超が活動。広島県府中市では、隊員が地域活性化の担い手の移住を促す為、2015年2月にNPO法人を設立し、空き家の改修を進める。地方創生の資金・人材・情報の流れは、従来の“国から地方へ”という一方向とは違って見える。自治体は各総合戦略を定める際、大学や金融機関等の民間企業の関係者や住民らと議論を重ねる。鳥取県と『日本財団』(東京都)は同年11月、共同で県内の課題解決に取り組む協定を締結。離れた自治体が連携し、共通の観光資源等の“地域の宝”を生かす取り組みも広がる。伊賀忍者で知られる三重等の5県は、訪日外国人観光客を呼び込もうと“忍者所縁の地”を巡る観光ルート作りや、ホームページでの忍者文化発信に取り組む。まさに、地方の本気度が試されている。 (地方部 島田喜行) =おわり


≡読売新聞 2016年1月15日付掲載≡
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