【宮崎哲弥の時々砲弾】 再びいう。われわれは皆、長期的には死んでいる。

アメリカのドラマ――ワシントンD.C.を舞台としたポリティカルサスペンスを見ていたら、こんな場面に出くわした。大統領がスタッフに次のように命じる。「失業率が0.2ポイント上がったら、ザ・フェッドに指示を出すように」(『ハウス・オブ・カード 野望の階段 SEASON2』)。“ザ・フェッド(The Fed)”とは“連邦準備制度”の通称。アメリカの中央銀行制度であり、本邦では『日本銀行』に相当する。『連邦準備制度理事会(FRB)』は、これを統括する機関である。このシーンは物語の本筋とは関係のない、大統領の執務の何気ない描写に過ぎない。だがその台詞は、私たちに重要な事実を告げ知らせている。中央銀行に依る金融政策は労働市場の動向を左右し、雇用の安定に貢献する。それが、アメリカにおいてはテレビドラマに描き込まれるほどに一般的な認知を得ているのだ。謂わば常識なのである。

『朝日新聞』1月16日朝刊に掲載された稀代の糞社説を始め、今次の株価の大幅下落を奇貨(?)として、アべノミクスの“逆回転”と難じる社説や論説が相次いだ。だが、上昇局面にあっても下降局面にあっても、株価のような短期変動市場の結果をマクロ政策の“成績”と看做す態度は全く不適切だ。私はずっとそう主張してきたし、この連載でも繰り返し強調している。朝日の社説子に代表されるようなオーソドックスなマクロ政策に反対する連中は、株が上がっている時には「今の株式市場は実体経済を反映していない」と腐しながら、株価が下落した時だけしたり顔で「金融緩和や財政出動を直ぐにも打ち切れ」と脅す。各種雇用統計・企業倒産件数・自殺者数の顕著な減少は全く無視して、何だか「株価上昇だけがアべノミクスの手柄だ」と言わんばかり。国民経済にとって何が最も枢要なのかを見失っているのではないか。例えば朝日新聞は、2013年5月23日に株価が1143円下落した時、1面に、この株安を受けて「金融緩和偏重の“アべノミクス”を修正し、金融緩和のペースを落とす必要がある」とする駄文を載せた(編集委員・原真人『アべノミクス、危うさ露呈』)。当時、1万4483円だった株価は、2年後に2万円を超える。そんなに株価が大事なら、2万に達した時点で朝日は経済観測を修正しなければならなかった筈だが、再検証すらしなかった。無責任極まりない。しかもその時、「『金融緩和でインフレを起こす』という日銀の試みは、実は米欧の中央銀行さえ効果を疑問視する」と、誰から吹き込まれたのか知らないが、公然と出鱈目を書き飛ばした。新聞1面で、だ。




FRB議長のジャネット・イエレンであれ、『ヨーロッパ中央銀行』総裁のマリオ・ドラギであれ、金融緩和の「デフレを防ぎ、インフレ率を高め、成長を下支えする」効果に寸毫の疑いも抱いてはいない。逆に、日本を超長期デフレに陥らせた“日銀の轍”を踏まぬよう警戒しているのだ。そして、今回の株安を取り上げた糞社説でもまた、2年8ヵ月前と同様の繰り言を弄している。当該社説に盛り込まれている非ケインズ効果説・ハイパーインフレ招来説・金融緩和の“見えない国民負担”説等は、財務省や日銀の守旧派やその御用エコノミストから過去幾度となく持ち出され、その都度、内外の真っ当な経済学者に依って論破され、棄却された“お話”の蒸し返しだ。その挙げ句、言いたいのは「国家運営の“百年の計”」とやらの為に、緊縮や消費税増税に依って財政再建を断行せよ…。アホか。あーあ、またつまらぬものを斬ってしまった(笑)。気を取り直して次回は、同じアべノミクス批判でも朝日とは次元の異なる、『フィナンシャルタイムズ』のマーティン・ウルフの分析と提言を見てみよう。


宮崎哲弥(みやざき・てつや) 研究開発コンサルティング会社『アルターブレイン』副代表・京都産業大学客員教授。1962年、福岡県生まれ。慶應義塾大学文学部社会学科卒。総務省『通信・放送の在り方に関する懇談会』構成員や共同通信の論壇時評等を歴任。『憂国の方程式』(PHP研究所)・『1冊で1000冊読めるスーパー・ブックガイド』(新潮社)等著書多数。


キャプチャ  2016年2月4日号掲載


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