「“日の丸”を背負ってメジャーで勝つ」「僕はメジャーで優勝することだけを目指している」――プロゴルファー・松山英樹インタビュー

20160206 07

『PGAツアー』に挑戦して、2シーズン目が終わろうとしています。“4大メジャー”(マスターズ・全米オープン・全英オープン・全米プロ)で勝つことは、僕にとって唯一の目標ですが、今年もそれは叶いませんでした。全英オープンでは最終日に一瞬だけ、首位と1打差に迫りました。「若しかしたら」とその瞬間は思いましたが、終わってみれば首位と7打差の18位。メジャーで勝つ選手と僕との間には、まだまだ歴然とした差があります。よく、「メジャーで勝つ為に足りないものは何ですか?」と聞かれます。別に、現在の実力でも勝てないことはない。そう自分では思っています。要は、勝てるパーセンテージが現状かなり低いというだけの話で。メジャーは1年に4大会しかありません。今後、10シーズンを戦ったとしても、チャンスは最大でも40回しか訪れないのです。今、僕は23歳。この年代の内に可能性を高めておかないと、いつまで経っても勝つ日は訪れないでしょう。少しでもメジャー制覇に近付く為に辛いトレーニングがあり、試合での経験があるのだと思っています。日本人が日本を飛び出して海外で戦うのは大変なことです。競技は異なりますが、プロテニスの錦織圭選手のような、国民から近い将来のグランドスラム制覇を夢見られている存在に僕はなりきれていない。まだまだ海外で1勝しただけのゴルファーで、錦織さんほどトーナメントで勝ててはいないし、世界ランクも僕の17位に対し、錦織さんは4位(何れも2015年8月28日現在)。トップテン入りを僕も早く果たしたいけど、この壁がとてつもなく大きい。ここまで来ると簡単には上がらなくなるし、安定した成績を残さないと直ぐに落ちていく。厳しい世界です。だからこそ、やりがいがあります。

2013年4月に、松山英樹は当時在学中だった東北福祉大学(宮城県)で“プロ転向”を宣言し、「メジャーは全て勝ちたい」との目標を掲げた。しかし、海外メジャーに勝利した日本人ゴルファーは過去に1人もいない。直後に彼をインタビューした際、「何故、日本人は海外メジャーで勝つことができないのか?」と率直な疑問をぶつけた。その時の回答が忘れられない。「『日本人だから勝てない』と思い過ぎるから勝てないんじゃないですか」

今も、その気持ちには変わりはありません。アメリカツアーを戦っていれば、外国人選手との体格の差や飛距離の差を痛感するのは当然です。僕自身、もっと体を大きくして体力を付けたいし、飛距離も更に伸ばそうと努力しています。だけど、「全て外国人の真似をしたところで勝てない」とも心のどこかで思っている。ゴルフは、体力や圧倒的な飛距離があれば勝てるという訳ではない。確かに、飛距離はゴルフを助けます。だからといって飛距離が全てかというと、絶対に違う。ゴルフは14本のクラブを使って戦うスポーツ。ドライバーの飛距離で引けを取ったとしても、他の道具でそのビハインドを補うことができる。工夫次第で体格のハンデをいくらでも克服できるのがゴルフだと思います。例えば、ジョーダン・スピース(アメリカ)も僕と同じぐらいの飛距離なのに、今年のマスターズと全米オープンを2連勝しました。全英オープンで優勝したザック・ジョンソン(アメリカ)も、そこまで飛距離が出る選手ではありません。彼らより飛ぶ選手はいくらでもいますが、ショートゲーム(アプローチやパター)で飛距離の穴を埋めているからこそ、彼らはメジャーで勝つことができた訳です。ですから、「体格で劣る日本人だから勝てる訳がない」と卑屈になる必要なんて全くない。抑々、僕は自分が日本人であることを意識してはいません。アメリカツアーの一員として戦っている以上、国籍は関係ないとさえ思っている。スピース、ローリー・マキロイ(イギリス)、アダム・スコット(オーストラリア)という世界のトップとプレーしていて、彼らの国籍を気にして戦うようなことはないですよね。同様に海外の選手も、僕という日本人を倒そうとする訳ではなく、“HIDEKI MATSUYAMA”というプロゴルファーを倒そうと向かってくる。ただ、矛盾しているかもしれませんが、日本の“日の丸”を背負っているという気持ちはあります。日本の皆さんの期待には応えなければならない立場だと自覚しています。




松山がプロデビューした2013年、初出場の全英オープンで6位に入ったことがあった。快挙に沸き立つ報道陣を前に、松山は「何が凄いんですか? 僕は勝ちに来ているので、優勝できなければ悔しい気持ちしかない」と言い放ち、驚いたものだ。「勝ちに行く(来ている)」は、最近も松山が頻繁に使うフレーズである。

勝てなかったのに、それを「嬉しい」と思う人間はいないと思いますけどね。例えば、僕自身がシード権の確保を目標にしている選手なら、メジャーで6位という結果にも満足していい。ゴルフが仕事である以上、働く職場を失う訳にはいきませんから。しかし、僕はシードやトップテンに入ることが目標ではなく、メジャーで優勝することだけを目指している。目標とする試合で勝てなかった以上、満足することはできません。「目標が定まっている人間は強い」というのが僕の信念です。毎試合、先ずは予選通過を考えて、それを達成したらトップテン圏内に入り、優勝することだけを考えていく。初日・2日目の予選通過のプレッシャーから解放されたら、3日目・最終日と只管優勝を目指すだけ。だから、気分は3日目・4日目のほうが楽なんです。毎試合、勝つ為の準備をしてコースに向かい、いざコースに出たら勝ちに行く。僕を支えてくれるチームスタッフも同じ気持ちです。僕が優勝を目指さず、「上位に入ればいいや」という考え方をしたら、心を1つにして戦ってくれているキャディーの(進藤)大典さんやトレーナーの飯田(光輝)さんらは、直ぐに僕から離れていくでしょう。僕に限らず、チームのスタッフは金銭欲や名誉欲の為に戦っている訳ではない。トーナメントで優勝することの喜びを皆で共有したい。ただそれだけなんです。

2014年6月の『メモリアルトーナメント』で、松山はケビン・ナとのプレーオフを制し、日本人選手としては6年ぶり、通算4人目のアメリカツアー優勝を飾った。国内ツアーを含めれば、プレーオフは3戦全勝。ここ一番における1対1の勝負の強さも際立つ。

アマチュア時代は(ホール毎に勝敗を決める1対1の)マッチプレーに弱く、幾つもタイトルを逃しているんですが、プロ転向後、プレーオフで勝てている理由が自分でもわかりません。偶々でしょう。2013年末からアメリカツアーに本格参戦して以来、「いつか勝てるだろう」と自分を信じて戦ってはいましたが、メモリアルの時は決してコンディションが万全ではなく、ゴルフも漸く「上向いてきたかな」という感じでした。「あれ、勝っちゃったよ」というのが正直な気持ちでしたし、「万全の状態でなくても勝てるんだ」と自信になりました。ただ、「もっと勝てる」と思っていた2014年シーズンはその1勝止まりで、今季に至っては1勝もできていない。「ほんとに優勝したんだっけ?」と自信も段々薄らいできました(笑)。アメリカで2シーズンを過ごしましたから、少しはアメリカの文化にも慣れた…というか、これだけ長くいるからアメリカにいるのが普通になったという感じですね。プロスポーツ選手は食事も大切なことです。しかし、やっぱり食事は日本食が一番ですね。“日本料理”の看板を掲げるレストランはアメリカでも沢山ありますが…仕方ないこととは言え、和食に限らず中華でもイタリアンでも、日本で食べる料理が一番美味しい。食材からして、日本ほど恵まれた国はない。愛媛県の松山に生まれ、高校時代は高知の明徳義塾、大学は宮城の東北福祉大学と、ずっと魚介類の美味しい地域で生活していましたから、魚を好んでいくらでも食べていたのに、今では肉中心に。これはこれで、アメリカの食文化に慣れたということなのかもしれませんが。

アメリカは東と西で芝質が大きく異なり、開催地の標高に依って飛距離も大きく違ってくる。初体験のコースが多かった1シーズン目に比べ、既に経験したコースに挑む機会が多い今季は、コースマネジメントの面でも余裕が生まれた。

芝質やラフの長さはコースに依って様々で、高地のコースなら気圧の関係で飛距離も伸びますし、全米オープンのように、下が固くなるとランが出て、やはり飛距離が伸びます。例えば、500ヤードの設定距離なのに440ヤードぐらいの感覚で攻略しなきゃいけないこともあるし、前日はティーショットをドライバーで打ったのに、次の日にはスプーンで打ってグリーンまで届いたこともありました。単純にヤーデージでは表せない難しさが、アメリカのコースにはあります。事前の練習ラウンドでキャディーの大典さんと綿密に打ち合わせても、試合で練習ラウンドとは真逆の風が吹けばマネジメントもガラリと変わる。最近ではコースマネジメントに関して、あまり固定した考えを持たないようにしています。そういう心の余裕が生まれているのは、やはり既にコースを一度経験しているというのが大きいですね。ラウンドしていて悩む時間がちょっとだけ短くなって、プレーのスピードも速くなっていますから。自分がどの試合に出場するかは、体調や過去に怪我を負った腰・手首の状態を見ながら決めています。試合出場が5週・6週と続いても、疲れないだけの体力があれば出場し続けますが、そこまでの体力は無い。オフの週はフロリダの自宅に戻って、基本的に何もしません。朝起きて、ご飯食べて、ゆったりして、軽くゴルフの練習をして、時にはキャッチボールして、またゆったりして寝る。何もしないということが一番のリフレッシュです。正直なところ英語は…同伴者と話す機会は増えていますが、ぶっちゃけ何を言われているのかわかっていない。スピースやアダムと一緒に回る機会が多いけど、向こうも僕がわからないことを前提に話しかけてきてくれる。僕が苦手な分、大典さんの存在が大きい。あの人も英語は得意じゃありませんが、僕と違ってどんどん喋りかけていきますから。助かっています(笑)。大典さんは「1シーズン目に比べれば、トレーニングに費やす時間やゴルフの練習量が2倍になった」と報道陣に話していたみたいですが、僕の感覚としては減っているような気がしています。疲れを残さないように「これぐらいにしておこう」と考えることが多くなり、反対に自分の限界近くまでトレーニングで追い込むことが無くなった。時にはそういうことも必要だと思うんです。よく言えば自分自身をマネジメントできるようになったということなんでしょうが、悪く言えば守りに入っている気がしなくもない。勿論、自分が本当に間違った判断をしていれば大典さんや飯田さんが怒ってくれると思いますし、僕がサボっていたら無理にでもやらせようとする筈です。トレーニングを続けてきたことで、1シーズンを戦い抜くだけの体力は備わってきました。だけど、まだまだ足りない部分が沢山あって。一番はやっぱり、パワーになるのかな。「ドライバーの飛距離が全てではない」と言いつつも、飛距離が伸びればクラブの選択肢を増やすことに繋がる。飛距離を伸ばすに越したことはないのです。

今や、メジャー大会でも優勝候補としてアメリカのメディアに取り上げられる松山は、予選ラウンドでは名のあるゴルファーと同伴する機会が多い。2015年8月末に行われた『ウィンダム選手権』では、タイガー・ウッズと同組となった。結果は予選落ちだったが、実に堂々とターフを並んで闊歩していた。ビッグネームを相手にしても名前負けせず、自然体を貫く。それも、過去にアメリカツアーに挑戦した日本人が持ち得なかった松山の強みだろう。

確かに、ビッグネームと回っていて「動じないよね」とは言われますけど…僕自身の中に少なからず動揺はあるんです。心の中で「うわっ、タイガーだよ」って思ったり。外から自分を見ている人の印象(評価)と自分自身の評価が異なるのは、よくあることです。とは言え、プレー中は心に波を作らないよう、平静を保とうと努力はしています。例えば、外国人選手はミスすると大声を出して悔しがり、鬱憤を発散しますよね。どちらかというと僕は口ではなく、クラブを叩きつけたり、態度で苛々を発散してしまう。その行為がゴルフ場のマナーとして相応しくないのは理解していますし、実際、昨年の『WGCキャデラック選手権』では、グリーンを傷付けた僕の行為をイアン・ポールターにツイッターで批判されたこともありました。そりゃあ、僕だって批判されれば気にしますし、反省もしますよ。優勝したメモリアルの時も、最終日の18番でドライバーを折ってしまった。あれは苛ついて叩きつけた訳じゃなく、フィニッシュ後に「あーあ」と落胆してクラブを下ろしたら、偶然、カメラのマイクにぶつけて折れてしまった。でもそれは、苛ついてクラブを振り回したと思われても仕方ない態度だった。世界ランクで20位以内にいるような立場のゴルファーは絶対にやっちゃいけない行為ですよね。ストレスを声に出して発散しようが、クラブを叩きつけて発散しようが、何も良いことはない。だから、最近は何もしないように心がけているんですが…。その反動で、ガッツポーズすることも少なくなりました。果たしてプレーに良い影響を与えているのかどうか、今の段階では自分でもよくわかりません。

同じくアメリカを主戦場とする石川遼は、ジュニア時代から凌ぎを削ってきた仲だ。石川が15歳でプロのトーナメントで優勝して以来、松山は常に同級生の背中を追いかけてきた。「遼より先にメジャーで勝ちたい」と松山が漏らしたこともある。その石川は今季も苦戦が続き、何とか最終戦で来季のシード権を確保した。インタビューの日は、松山が欠場したアメリカツアー『クイッケンローンズナショナル』初日に石川がホールインワンを決め、首位発進。テレビで観ていたという松山は、それを殊更喜んでいた。

今は、自分がメジャーを勝てるなら、遼より先だろうが後だろうが、別にどちらでもいいですね。彼のことはライバルとは思っていません。戦友とも違うかな。同じ舞台で戦っている同い年の日本人で、意識する仲間という感じ。実際、日本でもアメリカでも、同じ大会で優勝を争った経験が無いんですよ。試合でバチバチやり合っているなら、違った感情も芽生えるかもしれませんが。ゴルフは個人スポーツでありながら、特定の誰かをライバル視したり、目標にしたりすることはないです。確かに、遼は苦しんでいるのかもしれません。いつも気丈に振る舞っていますけど、恐らく人(報道陣)には言わない悩みも沢山抱えていると思います。僕も何れそういう状態に陥るかもわからない。確かに、世界ランキングは今、僕のほうが上かもしれないけど、いつ遼がスピースのように、メジャーを2連勝したりするかもわからない。未来のことなんて誰にもわかりません。だからこそ面白いし、常に上を向いている必要があると思います。

来年にはリオデジャネイロオリンピックが開催され、ゴルフが正式競技として112年ぶりに復活する。アダム・スコットのように「メジャーこそ全て」と公言し、オリンピック出場に消極的なトップ選手もいるが、出場が濃厚の松山には、日本人としてメダルの期待を抱いてしまう。

アダムの発言が、僕も理解できないこともないんです。プロゴルファーとしては、メジャー優先のスケジュールを組むほうが自然だと思います。オリンピック競技の選手は、4年に1度の大舞台を目指して、それに至るまでの日々を過ごしている。僕らは、年に4回のメジャーを目指して日々を過ごしている。ゴルフがオリンピック競技に復活したからといって、他のスポーツ選手と同じような気持ちで臨めるかどうか。勿論、出場することができるのなら真剣に戦いますし、やっぱり「日の丸を背負って戦ってみたい」という気持ちはあります。ただ、リオオリンピックを最優先でスケジュールを組むことは難しいでしょう。リオデジャネイロの開催コースに何度も足を運んで、練習ラウンドを繰り返すようなことも、日程的に無理だと思います。

『全英オープン』の戦いを終えた2015年7月下旬、松山は緊急帰国し、『福島オープン』に出場した。最終日は、自身初となる18ホールで10個のバーディーを奪い、大学時代を過ごした東北のゴルフファンを喜ばせた。9位でホールアウトした後、強行スケジュールを押して参戦した松山には「お帰り!」「有難う」といったゴルフ場には珍しい声援が飛んでいた。

ゴルフをやっていて「有難う」と言われることは、中々無いことですよね。日本のトーナメントに出場できていない状況なのに、学生時代を過ごした東北の方々が暖かく迎えてくれて、応援してくれたのは、心の底から嬉しかったですね。メジャー制覇を目標にしている以上、今後もアメリカツアーが中心となります。2013年の僕が、全米オープンで10位、全英オープンで6位に入ったように、日本を主戦場としていてもメジャーで成績を残すことは可能だと思いますが、やはり拠点はアメリカに置いて、アメリカのコースでの経験値を積んだほうが、優勝への近道のような気がしています。メジャーで勝つ――。その一心で、これからも頑張っていきたいと思います。 (取材・文/ノンフィクションライター 柳川悠二)


キャプチャ  2015年10月号掲載


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