【日曜に想う】 日米中、歌の二等辺三角形

今日7日の夜、中国では推定7億人が『春節聯歓晩会(春晩)』という番組を見る。『中国中央テレビ(CCTV)』が旧正月(春節)前夜に放送するモンスター番組だ。私は昨年と一昨年、駐在先の香港で見たが、まさに驚きの連続だった。例えば昨年は、中国初の空母『遼寧』が登場した。甲板に整列した数千の隊員が声を揃えて新年を祝う。年末年始を返上した貴い任務という文脈で紹介されるが、私の頭に浮かんだ文脈は違う。「海域の緊張を高めたのは、この巨艦か」と睨んでしまった。習近平国家主席が訪ねた辺境の村々を振り返るコーナーもある。著名歌手が高らかに歌う曲は『共築中国夢(共に築こう中国の夢を)』。政権のスローガンそのものである。紅白で松田聖子さんクラスに“1億総活躍社会”賛歌を歌わせるようなものか。中国の視聴者はどんな心持ちで見ているのか。北京と天津へ出張した折、会う人会う人に聞いて回った。「興味の無い歌や出し物は見ないだけのことです」と皆が言う。好きな歌手や漫才師は見逃さないが、番組に政治の影がさせばトイレに立ったり、台所で餃子の具を詰めたりする。「国営放送の言うことを全部真に受けていたら生きていけない」。冷めた“テレビリテラシー”(読み解き能力)が津々浦々に浸透している。生放送が始まったのは1983年。初期には1人っ子政策を笑い飛ばすコントもあった。近年は違う。漫才師が何を言うか脚本段階で審査される。この2年、漫才も寸劇も退屈なのは、当局の締め付けが厳しいから。春晩は時代を占うリトマス試験紙なのだ。

では、逆に我らがNHKの『紅白歌合戦』は中国人の目にどう映るのか。習俗研究が専門である首都大学東京の何彬教授(北京出身)にお願いして、去年の紅白を留学生に見てもらった。東京都八王子市のキャンパスの一室に集まったのは男子3人・女子2人。『嵐』や『関ジャニ∞』が登場すると、「清楚で華奢。こういう男性が今の日本のイメージです」と言う。番組が進むと疑問が湧く。「どうして合戦形式なのか?」「男女混成の“いきものがかり”が何故紅組に?」。紅白に続く『ゆく年くる年』にも驚く。「年越しには地味過ぎませんか?」。教授に依ると、日中の違いは24時の跨ぎ方に表れる。「大晦日で区切ることで去年を忘れ、新年を静かに迎えるのが日本。中国は笑いや爆竹で盛り上がったまま、前年の“福”を新年へ引き継ぎたい。中国伝来の思想には、日本のような忘年意識はありません」。紅白に続けて、中国の留学生たちとアメリカの歌番組を見た。スポーツ界の祭典『スーパーボウル』の夜、試合途中に催されるハーフタイムショーだ。ダンサーが身をくねらせ、男女の歌手が腰に手を回し合う。春晩や紅白を見続けた目には稍刺激が強い。2004年のショーでは、放送中にジャネット・ジャクソンの胸がポロリと肌蹴た。「これがCCTVやNHKだったら担当者は更迭される。露出もここまでいくと、日本や中国では容認されないだろうな」と話が一致した。




ご承知の通り、軍事や外交の世界で日米中3ヵ国は屡々“二等辺三角形”に例えられる。米日が近く、中国が遠く離れた形だ。しかし、3ヵ国の看板番組を見る限り、寧ろ日中が近く、アメリカが遠い二等辺三角形のように映る。紅白と春晩は家族団欒を意識した作り。マンネリと批判されても骨格は変わらない。一方のアメリカは話題作り優先。露出の件には苦情が殺到したが、「狙って演じたのでは」と疑われ続けた。今回、国内総生産(GDP)上位3ヵ国のモンスター番組を見比べるのは、私には発見の多い試みだった。次は是非、国連加盟全193ヵ国のうち、独裁色の濃い国ばかりを選んで番組を見比べたい。国毎の体臭が匂い立ち、文化人類学的な収穫も多いことだろう。 (特別編集委員 山中季広)


≡朝日新聞 2016年2月7日付掲載≡


スポンサーサイト

テーマ : 中国問題
ジャンル : 政治・経済

Categories
Profile

KNDIC

Author:KNDIC
Welcome to my blog.

Latest articles
Archives
Counter
I'm participating in the ranking.

FC2Blog Ranking

information
Search
RSS Links
Link
QR Code
QR