【大阪ダブル選総括】(下) “平和と福祉”の看板が色褪せ、自民党への攻勢で勢力維持を模索する公明党

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「集団的自衛権の行使を可能にすることが、日本の安全保障の上で不可欠だ」という“信念”を実現させた安倍晋三。だが、その無理に無理を重ねた強引な手法に世論は反発し、第2次内閣発足時から一貫して50%台の高水準を維持してきた内閣支持率は一時、30%台まで低下。大きな代償を払っての悲願達成となった。これまで、安倍が“順調”に政権運営を行うことができたのは、野党陣営が分裂し、国民が政権の受け皿と見做す強力な野党が見当たらないという、謂わば敵失に依って支えられてきた。安倍や官房長官の菅義偉も、それは十分に承知している。それ故、安全保障関連法案の審議過程でも、2人は何とか野党第2党の『維新の党』を取り込めないか模索を続けた。だが、維新の党は2015年5月の大阪都構想の是非を巡る住民投票で敗北して以来、民主党との合併を軸にした野党再編に向けて動き出し、結局、それに反発する大阪系との党内対立で分裂。安保関連法案を巡る政局では、殆ど安倍の役には立たなかった。この5ヵ月間、維新の党では代表の松野頼久や前代表の江田憲司らと、大阪府知事の松井一郎や国対委員長の馬場伸幸ら大阪系が熾烈な暗闘を繰り広げてきたが、そこでも官邸は、憲法改正等の政策面で安倍に近い大阪系を可能な限り大きくしようと、露骨な肩入れを行った。仮に松野ら執行部側の人数が膨らみ、それが民主党との合併に進んで100人規模の野党が出現すれば、支持率が落ちた安倍自民党に対する政権の受け皿になる。そうなれば、「政権交代への第一歩となった第1次安倍政権における参院選惨敗の悪夢が、来夏の参院選でも繰り返されかねない」と安倍や菅は警戒したのだ。菅は8月25日に松井と会食し、大阪系の勢力を確保する為の全面的協力を約束した。実際、菅は維新の国会議員に会って直接、大阪系の議員らで結成する新党『おおさか維新の会』への参加を促したり、大阪系の党員を増やす為に水面下で党員集めに協力したと言われる。6月には、安倍自身も大阪市長の橋下徹らと長時間会食し、「橋下さんに対する国民の期待感は以前よりも増しているのではないか」と2人にエールを送っている。大阪では、11月に府知事選と大阪市長選のW選挙が予定されていた。この選挙で地元の自民党は、知事選では現職の松井の対抗馬として同党の女性府議を、市長選では同党市議を擁立して維新と戦ったが、自民党内では一時、維新との全面対決を避けたい首相官邸と“維新憎し”で固まる同党大阪府連との妥協案として、知事選では自民党が松井を推薦し、一方の市長選では自民推薦候補を維新が推すという“住み分け”が模索された。菅が、おおさか維新の政治的影響力の維持を狙って密かに実現を探った案だと言われる。だが、おおさか維新にとっては5月の住民投票で僅差で否決された大阪都構想の復活が生命線であり、その為にはW選で両方とも勝つか、自民党に方針を変えてもらわねばならない。一方、自民党大阪府連にとっては先の住民投票と同様、いくら官邸の頼みでも、長年対決してきたおおさか維新と妥協して都構想に理解を示すことなどできない相談だった。その為、この案は早々に潰れることになった。

今回のW選挙は、橋下らが総力を挙げて戦った住民投票の否決を受けて行われただけに、当初、おおさか維新には厳しい戦いが予想された。特に、橋下の引退表明を受けて行われる市長選は苦戦が予想された。今後の国政選挙で「全国に候補者を立てて戦う」と宣言しているにも拘らず、新党の名称に“おおさか”を付けたのも、「先ず、このW選を勝ち抜くことが自分たちの生き残りの前提条件だ」との認識からで、松井は国会議員たちに「W選が終わったら、国政政党に相応しい党名に再び変えるから」と伝えていた。このW選で1敗でもすれば、松井らは政治的影響力を急速に失い、国政政党としての生き残りが困難になることは確実だった。危機感を強めた橋下と松井は、ここでも官邸に加勢を頼んだ。10月27日、自民党幹事長の谷垣禎一は、W選挙に向けた党所属参議院議員の会合で、「安倍首相は、『今回の選挙をきちっと戦わなければ、大阪の自民党は立ち直れない』と言っている」と紹介し、「安倍や菅がおおさか維新に肩入れしている」との党内の懸念を払拭しようとした。だが、翌日には知事選を目前に控えた松井が堂々と首相官邸を訪ね、防災対策の陳情を名目に菅と30分間会談。大阪府連からは、「この時期に対立候補に会うなんて反党行為に等しい」と激しい反発の声が上がった。5月の住民投票で“都構想”が潰えたのは、大阪の公明党・創価学会が、学会本部の強い“中立”要請に依って一旦は自主投票の方針を決めたものの、現場の学会員たちの強烈な“反橋下”感情に押されて、途中から反対に舵を切ったことが大きな要因だった。そこで松井は菅に、W選では公明党・創価学会が最後まで“中立”を貫いてくれるよう対策を依頼したという。菅は、住民投票の時と同じく、創価学会で選挙対策を取り仕切る副会長の佐藤浩(広宣局長)と水面下で接触。創価学会が“中立”を徹底させるよう要請した。菅の意を受けた佐藤は、9月には大阪の学会に対して自主投票とするよう要請したが、露骨に“自主投票”方針を押し付けて大阪の学会員たちの強い反発を招いた住民投票時の反省から、水面下で静かに働きかけた。その際に佐藤は、学会が強く実現を望む軽減税率の導入問題もあり、官邸に恩を売る必要があることも理由に挙げたという。今回は、大阪の学会や公明党の雰囲気も以前とは変わっていた。住民投票の際は、佐藤浩が大阪の学会幹部や公明党の国会議員に一切知らせないまま、首相官邸の仲介で維新の橋下と密約を結んでいたことへの強烈な反発があった。佐藤は、2014年の衆院選で公明党候補のいる関西の6選挙区で維新に候補者擁立を見送ってもらう見返りに、大阪市議会でキャスティングボートを握る公明党市議団を住民投票の実施に賛成させるとの密約を結び、それに沿って選挙後、大阪市議らに無理矢理賛成させた上、実際の住民投票に当たっては“厳正中立”を要求した。4月の統一地方選で大阪の府議や市議の候補者たちの情勢が厳しくなった時、大阪の公明党・創価学会は中央の要請を振り切って“都構想反対”に舵を切ったが、その背景には創価学会本部の強引なやり方への反発もあった。公明党の公認候補が立候補していない選挙では棄権することが多いと言われる創価学会員たちだが、5月の住民投票では大挙して投票に行き、反対票を投じた。




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だが今回、大阪の学会や公明党の幹部らは、比較的素直に佐藤浩の要求を受け入れた。このまま橋下や松井と全面戦争を続ければ、次期衆院選では公明党が候補者を立てる関西の選挙区におおさか維新が候補者をぶつけてくることは確実だ。そうなれば、組織内で“常勝関西”と称され、創価学会の金城湯池である大阪であっても、関西では尚高い人気を保つ維新候補との激しい消耗戦を強いられる。それは避けたいという目先の思惑を優先させたのだ。それでも、橋下と直接対峙してきた大阪市議会の公明党議員団の間には、“反橋下”の雰囲気が特に強く、10月には市議団として大阪市長選で自民推薦候補を支援する方針を内々申し合わせた。住民投票で公明党が“反対”に舵を切るきっかけになったのも、公明党の大阪市議たちが統一地方選の最中に起こした反乱がきっかけだった。今回も彼らは、維新候補が再び都構想を公約に掲げていることに強く反発していた。勿論、自民党大阪府連が「公明党を味方に付ければ市長選は勝てる」と見込んで、公明党に必死の働きかけを行ったことも影響していた。抑々、自公両党が連立を組んだ1999年以降、公明党が候補者を擁立する大阪府内の4選挙区で、自民党は候補者を立てずに公明党候補を推薦している。基本は“自公協力”なのだ。だが、党としての方針を事実上決める公明党大阪府本部は、11月2日に開いた三役会議で自主投票とすることを決定した。橋下が10月18日の街頭演説会で「公明党が敵についたら総攻撃を仕掛ける」と揺さぶりをかけたこともあり、全面衝突を避けたい国会議員や府議団の意向が優先された。会議では、維新がW選で再び都構想を公約に掲げていることや、自民党大阪府連から推薦依頼が来ていることを理由に、「衆院選で維新と対決することを覚悟して、自民党候補を支援すべきだ」との意見も出たが、大阪府本部代表の佐藤茂樹(衆議院議員)らがそれを押し切った。主戦論を制したのは、「日本共産党とは同じテーブルにつけない」との発言だった。支持層が重なる公明党と日本共産党は、長年に亘って大阪で激しい鍔迫り合いを繰り広げてきた。先の安保関連法案の国会審議中も、大阪での反対デモに一部の学会員が参加したことが報じられると、大阪を地盤とする日本共産党書記局長の山下芳生が「公明党支持者の皆さんの気持ちを汲んだ運動を展開していきたい」と創価学会に手を突っ込むような発言をして、公明党が強く反発する場面があった。

その日本共産党は「自民党より悪い保守政治を行う維新の府政・市政をストップさせる」として、今回のW選挙では共に自民推薦候補を「自主的に支援する」という極めて異例の方針を決めていた。実際、「自民推薦候補を最も活発に応援しているのは日本共産党の地方議員だ」との声が聞かれる程、日本共産党の活動は目立っていた。自民党も、同党参議院議員で市長候補の叔父でもある柳本卓治が10月29日、日本共産党系の団体が市内で開いた集会に出席し、書記局長の山下と壇上で手を取り合って“反維新での共闘”を誓い合うという異例の展開になっていた。これに公明党・創価学会は反発。日本共産党の対応が、公明党市議団の“主戦論”を抑える上で都合のいい理由になったのだ。今年4月の統一地方選で全勝を目指していた公明党は、大阪市議選の此花区選挙区で日本共産党候補に競り負ける形で議席を落としている。昨年2月、橋下が「宗教の前に人の道がある」と公明党を攻撃する発言をして以来、“橋下嫌い”が定着した大阪の創価学会員たちも、「日本共産党とは一緒にやれない」との説明には納得せざるを得なかった。つまり、日本共産党の対応が、結果的に首相官邸の望み通りの結果を招来するという皮肉な結果となった。今回は“自主投票”が比較的すんなりと決まった公明党だったが、「投票に行けば殆どが自民党候補に投票する」(創価学会幹部)と言われ、実際、期日前投票に足を運んだ有権者で“公明党支持”と答えた人の約8割は自民党候補に投票した。ただ、今回は“自主投票”方針が徹底された為、公明党支持者の多くが投票に行かなかったと見られる。投票率は、都構想の住民投票よりも16ポイント以上も低い50.5%に留まった。それがおおさか維新に有利に働いたことは言うまでもない。抑々、公明党にとっては、維新がW選挙で敗北して勢いを失うことが、本来は望ましい結果だった筈だ。これまで安倍は、維新との蜜月関係を野党分断に利用するだけでなく、与党の公明党の発言力を封じる為にも利用してきたからだ。安倍が保守的な政策を進める上で、公明党は屡々“抵抗勢力”となる。「公明党が反対しても、いざとなれば維新の賛成で法案を成立させる」との無言の脅しは、公明党を牽制する上で極めて有効だった。それ故、公明党選対委員長の斉藤鉄夫は当初、「地元が『自民党と一緒にやる』と言うなら止められない」と維新に肩入れする首相官邸に冷ややかだった。「維新を利用して公明党を軽く扱ってきた癖に、『選挙で維新に有利なようにしてくれ』とは都合が良過ぎる」(創価学会幹部)というのが本音なのだ。

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5月の住民投票で維新が敗北し、橋下が政界から引退を表明した際、公明党幹部は「これで安倍さんも公明党を蔑ろにできない。連立内で存在感を示すチャンスだ」と意気込んでいた。実際、安倍はその後、後述する軽減税率の導入問題等で公明党により配慮する姿勢を示してきた。今回のW選挙で維新が敗北していれば、安倍は益々公明党の要求を尊重せざるを得なかった筈だ。更に踏み込めば、安倍に近いおおさか維新が勢いを失って、民主党と維新の党の大半が合併して大きな野党が出現すれば、首相官邸に危機感が生まれ、「公明党をより大切にしなければ…」との意識が強まることは必然だった。だが今回、公明党・創価学会は、関西の衆議院小選挙区における“次の戦い”という近視眼的な利益を優先させた。公明党のアシストもあり、おおさか維新はW選挙で2勝を挙げて生き残ることになった。彼らは「来年の参院選や次期衆院選では、全国規模で候補者を立てる」と宣言しており、今回の勝利で候補者擁立に勢いが付けば、前回の衆院選と同じように野党同士で非自民票を奪い合う構図が続き、結果的に安倍自民党は楽に選挙を乗り切ってしまうだろう。ただ、維新の党は分裂し、安倍政権に近いおおさか維新は20人を下回る少数政党に転落した。今回のおおさか維新の勝利で、「官邸は益々、橋下や松井との連携を強めるのでは?」との観測も出ているが、今後、数人の“中間派”議員らが参加したとしても、国会運営上の影響力は限られる。また、引退する橋下に代わる発信力を持つ政治家もおらず、安倍政権にとっては国会運営上、従来のような野党分断戦略は使い難くなる。それ故、安倍政権が更に長期化するか否かは、民主党と維新の党を軸にした野党再編に依って、政権批判の受け皿となり得る野党が出現するかどうかにかかっている。国民の多くが「自民党に代わる政権の受け皿だ」と認める大きな野党が出現すれば、支持率の落ちた安倍自民党が、来年の参院選や次期衆院選で厳しい戦いを強いられる可能性が一気に高まる。日本の民主主義が健全性を取り戻せるか否かは、野党次第なのだ。しかも、そうした野党が誕生すれば公明党の発言力も増し、与党内での“安倍独裁”への抑止力も強まることになる。

2016年7月の参議院議員選挙が1年以内に迫る中、今、公明党・創価学会の内部では参院選への危機感が広がりつつある。その原因の1つは言うまでもなく、集団的自衛権の行使を基盤とした安全保障関連法を安倍が強引に成立させたことだ。公明党も創価学会も当初は、この法案の審議を楽観視していた。2015年6月、衆議院の憲法審査会で、自民党推薦の長谷部恭男ら憲法学者3人全員が「法案は違憲である」と表明したことをきっかけに反対運動が広がり始めても、公明党は「この問題は既に決着済みだ」と静観していた。2014年7月の集団的自衛権行使容認の閣議決定時に、勉強会を繰り返して理解を徹底させており、「今更やることは無い」としていた。ただ、2015年4月の統一地方選で、「創価学会の運動員たちが、一般の有権者から『何故、“平和の党”を標榜する公明党が“戦争法案”に賛成なのか?』と尋ねられて、返答に窮した」との声が全国各地で聞かれ、「それが苦戦の原因になった」との声が寄せられた。その為、公明党は5月になって漸く、安保関連法案に関する学習ビデオを制作。創価学会が今年初めに全国各地の地区部長らに端末を配布して構築したインターネットに依る映像配信システムで、それを配布した。だが、当初は「必要に応じて学習活動に使うように」との連絡だけで、2014年夏の閣議決定時のように学習活動を徹底させるような指示は出さなかった。6月・7月と審議が進むに連れ、一部の創価学会員が反対の署名活動を始めたり、反対デモに創価学会の三色旗を掲げる創価学会員が参加したことが相次いで報じられても、創価学会本部は尚、特段の動きを見せなかった。内部での反対の動きに目を光らせ、中央に報告を上げさせて分析はしていたが、実際、反対活動は一部会員の限られた動きに留まっていた。幹部たちは、「法案に反対する団体やマスコミが、極一部の反対意見を殊更大きく取り上げているだけ。組織の結束が揺らぐことはない」と平静を装っていた。それが変化する1つのきっかけになったのが、7月28日から4日間の日程で開催された創価学会の全国最高協議会だった。全国13方面の方面長・婦人部長・青年部長らと本部の最高幹部たちが一堂に会して開催されるもので、毎年夏と冬の2回、中長期の課題を含めて今後の方針を話し合う、学会にとって極めて重要な会議だ。信濃町にある創価学会本部別館で開かれた初日の全体会合には、公明党代表の山口那津男も出席していたが、そこで地方の出席者から「会員たちが『公明党は何故、安保関連法案に賛成なのか?』と知人らに聞かれて困っている。党は、もっとしっかり説明して欲しい」といった声が相次いだ。山口は、「より一層、しっかり対応します」と殊勝に答えるしかなかった。更に8月に入り、名誉会長の池田大作が創設した創価大学と創価女子短期大学の教員らが呼びかけ人になって、『法案に反対する有志の会』が結成されて署名活動が始まると、流石に幹部たちも危機感を強めた。

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創価学会では、2015年は全国的に7月下旬から約4週間の長い夏休みに入り、地域の座談会等のあらゆる活動を休止していたが、休みが空けた8月24日の週から、全国各地の支部やその下の地区(数十世帯単位)でビデオを使った学習活動を行うよう指示を出した。各地で一斉に始まった勉強会には、公明党の国会議員や地元の地方議員たちが講師として駆り出された。2015年は、通常国会が現憲法下では最長の95日間も延長され、9月になっても平日は国会議員が東京にいる為、東京・千葉・埼玉等の首都圏では、安保法制の与党協議会で座長代理を務めた北側一雄(副代表)や、衆議院の特別委員会で理事を務めた遠山清彦らが、毎晩のように各地で開かれる創価学会の集まりに駆り出され、会員たちを説得した。勉強会に使われた学習ビデオでは、公明党代表の山口の挨拶に続き、民主党政権時に防衛大臣を務めた安全保障問題の専門家である森本敏や、政治評論家の森田実ら外部の有識者が次々に登場。公明党が“平和の党”として、如何に与党協議の中で法案に歯止めをかけ、憲法9条との整合性を保ったか等を解説している。中でも森本の話は、「本来は民主党が対案を出して政府案に修正を迫り、歯止めをかける役割を果たすべきなのに、抵抗野党になってそれを怠っており、代わりに公明党がその役割を果たしている」といった内容で、民主党政権の閣僚だった学者が民主党の対応を批判しながら公明党を賞賛しているとあって、地域のリーダー格の創価学会員には特に評判が良かったという。創価学会本部の中枢幹部は、「ビデオを見た多くの学会員は、全面的に賛成とはいかなくても一応、『納得した』と言ってくれる」と語る。だが、30人から50人程度が出席する“地区”の集会を開くと、最後まで「納得できない」という学会員が1人は出たという。こうした現象は、自衛隊を初めて海外に派遣する枠組みを定めた1992年の『PKO協力法』の成立時や、2003年の自衛隊のイラク派遣に公明党が賛成した時以来だという。現場幹部は、「会員たちは基本的にタカ派の安倍首相が嫌いで、勉強会で『わかった』と言ってくれた人でも蟠りが残っている印象を受ける。来年の参院選にどう響くか心配だ」と漏らす。多くの創価学会員が、今回の安保関連法に納得し切れていないのだ。公明党幹部も、「組織に大きな亀裂が入ることは無かったが、来年の参院選は相当厳しい。F票(創価学会員以外の票)獲得活動を行う運動員が安保法制について“説明”を求められ、運動の足が鈍る恐れがある」と危機感を強める。創価学会では9月・10月と“学習活動”を続け、普段から地域の座談会に参加するような創価学会員は、粗全員が出席したという。11月に入っても安保関連法に理解を求める活動を続けた衆議院議員は、「安倍首相は『説明する努力を続ける』と繰り返し言っていたが、自民党の議員たちは何もやっていない。地元で真面目に説明を続けているのは我が党だけだ」と強い不満を漏らす。




こうした中、公明党・創価学会内が大騒ぎになる“事件”が起きる。9月5日、読売新聞と日本経済新聞が朝刊1面トップで、「消費税率を10%に引き上げる際の負担軽減策の財務省原案が固まった」と報じたのだ。公明党は、2017年4月に消費税率を10%に引き上げる際に飲食料品等の生活必需品を対象にした“軽減税率”の導入を強く求めてきた。2014年末の衆院選でも『いまこそ、軽減税率実現へ』とポスターに大きく明記し、事実上、掲げる公約を軽減税率の実現一本に絞って選挙戦を戦った。だが、財務省と自民党税調幹部は一貫して導入に後ろ向きだった。2015年前半の与党協議でも、財務省が「実現にはヨーロッパ型のインボイス(送り状)制度の導入が不可欠である」と主張する一方、税調会長の野田毅ら自民党税調の幹部は「インボイス制度では中小企業の事務負担が過重になる」として強い難色を示し、協議は暗礁に乗り上げていた。そうした中、自民党の野田から「公明党も呑める案を捻り出してくれ」と依頼された財務省主税局長の佐藤慎一らが密かに考え出した案が、飲食料品の購入に際して一旦払った消費税の2%分が、申告すれば後日、消費者に還付されるという“還付金制度”だった。野田と財務省幹部は2015年5月、嘗て大蔵政務次官も経験して、佐藤とも親しい公明党副代表の北側一雄に同案を極秘に説明。インボイス制度の導入が困難と考える北側は、“日本型軽減税率制度”と財務省が名付けた同案を「立派な軽減税率だ」として受け入れた。だが、この制度は『マイナンバー』を使用することから、改正マイナンバー法案の国会審議に悪影響が出ることを恐れ、法案が成立するまでは極秘扱いとされた。それでも、公明党が納得しなければ同案を作った意味が無いことから、北側は6月に入ると党代表の山口と幹事長の井上義久の2人だけには密かに説明した。「この案で納得するしかありません」と迫る北側に、2人は「他に方法が無いのなら止むを得ない」と了解したという。当時は安保関連法案の審議の真っ只中で、首相官邸はその対応で手一杯だった為、財務省が安倍に還付金制度を説明したのは9月1日になってからだった。安倍は説明を受けると開口一番、「公明党は大丈夫なの?」と尋ねた。財務省幹部は「代表も幹事長も了解しています」と答えたが、「この問題が公明党にとって重大な問題である」と認識している安倍は、「この案を与党協議で議論してもらいましょう」と明確な了承は避けた。だが財務省幹部たちは、「公明党執行部が了解しているのだから…」と先行きを楽観していた。ところが、この案が新聞報道で表に出ると状況は一変した。抑々、公明党税調会長で与党税制協議会の公明党代表である斉藤鉄夫でさえ、北側から耳打ちされたのは読売新聞等が同案を報じる前日のことだった。斉藤の下には、新聞報道で財務省案を知った関係者から問い合わせが相次いだが、殆どが「こんなものは軽減税率ではない」という否定的な意見だった。創価学会幹部も、「消費者の痛税感の緩和という目的が果たせない。こんな案では内部は持たないし、受け入れた北側さんの責任問題にもなりかねない」と漏らした。果たして、公明党・創価学会内は反対論一色となった。

20160208 05
9月10日に与党税制協議会で開かれ、財務省が同案を初めて正式に説明した。だが、公明党税制調査会事務局長の西田実仁が「こんなものは軽減税率擬きだ」と声を荒らげ、政調会長代理の上田勇も「全国民にカードを持たせて『買い物の度に出せ』なんて現実味があるのか?」と指摘した上で、「こんな不完全な案を進めようとすれば、税率引き上げの再延期にも繋がりかねない」と財務省を牽制した。斉藤も、「この制度が与党で合意した軽減税率制度と言えるのかどうかも含めて、これから議論したい」と慎重論を展開した。この案を受け入れていた北側だけは会議後、「これが駄目というなら、軽減税率そのものが暗礁に乗り上げても仕方がない」と憮然とした表情で会場を後にした。翌11日に開かれた公明党の税制調査会の総会は大荒れになった。還付金制度の説明の為に出席した財務省幹部に対し、議員たちは「あんたらは我々の選挙公約を反故にするのか。公明党を愚弄している」「財務官僚は1人暮らしの高齢者の現実を知らない」等と口々に糾弾。北側が水面下で財務省案を了解していたことへの反発も表面化し、復興副大臣の浜田昌良は「こんな案を勝手に進めた税調幹部は交代すべきだ」と党税調顧問を務める北側を糾弾した。更に翌12日に新宿区南元町の公明党本部で開かれた全国県代表協議会でも、「庶民に負担をかけて事業者を守るのか。こんな案では参院選は戦えない」(福岡)、「党の公約と違う案がいきなり出てきても承服できない」(北海道)等、強い反対論が続出。賛成意見は皆無で、斉藤は「皆さんの声が心に染みた。重く受け止めて協議に臨む」と引き取った。会議は本来、来年の参院選に向けて結束を確認する場となる筈だったが、それどころではなかった。この前後には、創価学会副会長の佐藤浩も菅に電話をかけ、「還付金制度ではとても組織は持たない。撤回してほしい」と伝えた。こうした党内情勢に公明党の中堅議員は、「政府・自民党が約束を果たさないのだから、『これでは国政選挙で自民党を応援できない』と脅すべきだ。それくらいしないと自民党は動かせない」と税調幹部に申し入れた。こうした状況に、温厚且つ生真面目な性格でハッタリが不得手な斉藤ですら、自民党幹部らと個別に会って「公明党には税調会長が500万人いると思ってほしい。全国の支持者が固唾を飲んで協議を見守っており、納得できなければ選挙協力にも影響が出る」と牽制して回った。斉藤の言葉は決して大袈裟ではない。公明党執行部と創価学会の会長や理事長、それに婦人部長らは、毎週1回、早朝に信濃町の学会施設で非公式の連絡会議を開いているが、9月以降、そこでの話題は軽減税率問題に終始した。婦人部長らは毎回、山口や井上に向かって「全国の支持者が納得できる制度が実現できるよう、全力を尽くしてほしい」と釘を刺していた。ある創価学会幹部は、「『本当はやりたくなかった安全保障法制で政府・自民党に譲歩したのだから、軽減税率では譲ってもらわないと割が合わない』というのが我々の素直な気持ちだ。現場の創価学会員たちは、前回の衆院選で『軽減税率を必ず実現させる』と言って地域を回り、1票を投じてもらった。実現できなければ『嘘吐き』呼ばわりされ、2016年の参院選は勝負にならない」と顔を曇らせる。同時に同幹部は、「我々にとっては、安保法制よりも遥かに重要な問題だということを、自民党によく理解してもらう必要がある」と漏らす。

還付金制度を巡って与党税制協議会の議論が行き詰まり、一時協議を中断することになった9月25日、党代表の山口は、官邸サイドが渋るのを押し切って首相官邸に乗り込んだ。「このままでは2016年の参院選に大きな影響が出ますよ」と凄む山口に、安倍は「軽減税率は与党で公約したことですから、それを尊重しながら議論しましょう」と応じたが、それ以上の言質は与えなかった。こうした中、安倍は内閣改造に踏み切る。公明党は、第2次安倍政権の発足時から国土交通大臣を務めてきた太田明宏を退任させ、政調会長の石井啓一を閣僚に送り込んだ。創価学会の要望に配慮して世代交代を図った形だが、今の公明党執行部に安倍と個人的なパイプを持つ議員がいない中、第1次安倍政権時に党代表だった太田は、現代表の山口とは異なって、安倍とは気心が知れた仲だ。その太田が「閣僚を辞めると総理には中々会えなくなるので、時間を取ってほしい」と求めると、安倍は内閣改造前日の10月5日の閣議後に時間を取って、2人だけで話し込んだ。「しっかりとした軽減税率を実現させないと、うちの組織は本当に持たない。決して脅しではなく、このままでは2016年夏の参院選は自公両党とも惨敗しますよ」と警告する太田に、安倍は「わかりました」と応じた。これを受けて安倍は、還付金制度を撤回させて複数税率となる本来の軽減税率制度を導入する腹を固め、これに抵抗する税調会長の野田を更送する方針を決めた。自公関係を優先させる為の交代だったが、衆院当選15回と自民党で最多の当選回数を誇る野田は、昨年、安倍が衆議院解散を決めた際も公然と異論を唱える等、抑々安倍にとって目障りな存在だった。折しも、野田の元秘書が覚醒剤取締法違反で逮捕されたこともあり、安倍は野田を更迭。直前まで経済産業大臣として自分に仕えていた参議院議員の宮沢洋一を税調会長に抜擢した。宮沢は野田と同じく旧大蔵省出身で、早期の軽減税率導入には否定的だったが、野田との大きな違いは安倍との関係だ。安倍と宮沢は、共に有力政治家の子息として学生時代から旧知の仲。野田とは異なり、最後は“上司”である安倍の言うことを受け入れるとの安心感が安倍にはあった。公明党は、野田の更迭を「安倍が自公関係を重視した結果だ」として歓迎。協議は再開され、公明党は“大物”の野田が退場したことを契機に「議論の主導権を奪おう」と攻勢をかけた。だが、宮沢は安倍からの指示を受けて軽減税率の導入自体は受け入れたものの、「自民党内の3分の2は、公明党の主張する飲食料品全般への導入に反対だ」として、財源不足を盾に対象品目を大幅に絞り込むよう主張。協議は行き詰まり、両党は幹事長レベルに格上げして協議を続けているが、最後は安倍に判断が委ねられる可能性が高い。ある政府高官は、「財務省に厳しい菅さんは、『軽減税率の与党協議が纏まらなければ税率アップの再延長もあり得る』と水面下で牽制している」と漏らす。予定通り、2017年4月に10%への引き上げを実施するか否かも絡み、自公両党に首相官邸と財務省が絡んだ神経戦は、本稿締め切り時点では先が見通せない。

20160208 06
公明党・創価学会はこの夏、2016年夏の参院選で、2012年の参院選でも候補者を擁立した東京・神奈川・埼玉・大阪の4選挙区に加え、定数是正で今回から定員が増える愛知・福岡・兵庫の各選挙区でも候補者を擁立する方針を決めた。同党の選挙区候補は過去最多の7人となる。創価学会の実力を示すバロメーターと言われる比例代表選挙の得票総数は、2005年の“郵政解散”の衆院選における898万票をピークに長期低落傾向にある。組織力の低下は隠しようもないが、その中で創価学会は、敢えて2016年の参院選で“攻め”の選挙を行おうとしているのだ。この方針が事実上決まったのは、先述した7月の創価学会最高協議会だった。創価学会で選挙対策を一手に仕切る副会長の佐藤浩が、愛知・福岡・兵庫の各県を抱える方面長たちに対し、選挙区で新たに候補者を擁立するつもりがあるかどうかを問い質し、何れの方面長も「やります」と答えたことから方針が定まった。だが、この時点では、安保関連法の影響については未だ楽観していたし、軽減税率導入についても「党が何とかしてくれるだろう」と考えていた。ところがその後、安保関連法は思った以上に影響が大きいことがわかった。その上、公明党は前回の衆院選で10%引き上げ時から幅広い品目への軽減税率導入を有権者に約束しており、この問題の決着内容に依っては、嘗てない厳しい戦いを強いられることになる。今回の軽減税率問題で公明党は、自民党と連立を組んで以来15年間で初めて、幹部たちが揃って“選挙協力の見直し”という切り札を持ち出して、自民党に揺さぶりをかけている。だが、公明党が国政選挙の度に選挙区の自民候補と取引を行って、自民党の後援会や自民党支持の業界団体から比例票を回してもらっていることは周知の事実だ。“選挙区は自民・比例は公明”という、この15年で人口に膾炎した方式だが、それに依って公明党は、学会組織の高齢化等に依る集票力の低下を補ってきた。過去の票を時系列で分析すると、公明党の比例の得票総数のうち、少なく見積もって100万票以上は自民党との取引に依って得られた票と見られる。自民党との協力関係を縮小し、嘗ての野党時代のように民主党の支持団体である連合加盟労働組合とバーターを行う方法もあるとは言え、自民党との協力で得られるほどの票の確保は不可能だ。民主党政権時を挟んだ数年間、何度も衆議院小選挙区からの撤退と自民党との全面的な選挙協力の見直しが内部で議論されながら、結局は現状を維持してきた大きな理由はそこにある。

“平和と福祉”という公明党の看板がいくら傷ついても自民党との連立を解消できない最大の理由は、常に目先の選挙での議席確保を優先させるからなのだ。それは、名誉会長である池田大作というカリスマ指導者が衰弱して事実上の不在となり、“ポスト池田”の座に最も近いと言われる事務総長の谷川がその直系の佐藤浩と組んで、選挙で結果を出すことに依ってその地位を磐石にしようとしていることが大きな原因の1つで、当面はその構図に変化は無いだろう。それ故、公明党がいくら“選挙協力の見直し”を持ち出して自民党を牽制しても、足元を見られているのが現状だ。それでも尚、この問題の決着の仕方に依っては、選挙区での自民党の議席数に一定の影響が出る可能性はある。集票の鍵を握る創価学会婦人部の活動家が、軽減税率や安保関連法への対応について有権者から質問されたり、文句を言われることを嫌がって、幹部たちが号令をかけても嘗てないほど動きが鈍る可能性があるからだ。抑々、創価学会の婦人部や壮年部には安倍政権に対する嫌悪感が強く、「たとえ公明党の比例票を出す為だとしても、安倍自民党には協力したくない」という雰囲気があるという。だが、野党再編が進まず、非自民勢力が前回の衆院選と同様にバラバラのままであれば、仮に学会票があまり得られなくても、安倍政権は参院選を乗り切る可能性が高いし、公明党も比例では票を減らしても、7つの選挙区では勝てる可能性が高まる。更に、野党結集が進まないと見れば、安倍が衆参同日選挙に踏み切る可能性が出てくる。民主党とおおさか維新等が互いに潰し合うという、政権にとって都合のいい状態がいつまでも続くとは限らないからだ。だが、創価学会は同日選挙には絶対反対だ。創価学会の選挙運動は、投票日に向けて様々な行事を組んで運動員を鼓舞し、段階的に候補者名を組織内に浸透させた上で外に票を獲りに行かせる“スケジュール闘争”だ。それ故、選挙の半年以上前から段階を踏んで準備を進めるのだが、衆参ダブル選挙になればそうした計画的な準備ができない。それ以前に、「支持者に4種類の名前を一度に覚えさせるのは困難で、最初から負け戦を覚悟しなければならない」(創価学会幹部)のだ。それ故、何としても同日選挙は阻止したい考えだが、安倍はダブル選挙を真剣に検討していると言われており、安倍が決意を固めた場合にどこまで抵抗できるかは未知数だ。何れにせよ、野党結集の行方と政権の中で公明党の意向がどこまで通るのかが、今後の政局の鍵を握る。結党時から“平和と福祉の党”を標榜している公明党。だが、その看板である“平和”(=安保関連法)と“福祉”(=低所得者対策としての軽減税率導入)は、自民党との連立を優先させてきたが故に一層揺らぎ、2016年夏の参院選を前に大きな不安を抱えてたじろいでいる。 《敬称略》 (取材・文/フリージャーナリスト 中野潤)


キャプチャ  2016年1月号掲載


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テーマ : 創価学会・公明党
ジャンル : 政治・経済

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