性的マイノリティー、企業を動かす――玩具売り場もジェンダーフリーに、一斉に動き出した生保業界

2015年11月に渋谷区で同性カップル向け証明書の発行が始まり、LGBTに配慮する動きが本格化している。『パナソニック』が社内のルールを全面的に見直す等、日本の大手企業にも影響が広がってきた。 (広岡延隆・河野祥平・齊藤美保・熊野信一郎)

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パナソニックは、今年4月を目途に社内のルールを見直す。全社統一の指針を改定し、“同性カップル”を結婚に相当する関係として認める予定だ。“LGBT”(レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダーの頭文字)を差別しない姿勢を明確にする。具体的には、「性的指向や性自認で差別しない」といった表記を指針に加えることを検討している。就業規則上の“結婚”や“配偶者”の定義が変わることになり、同性パートナーを持つ社員でも慶弔休暇や介護休業等の福利厚生の対象になる。国内の大手メーカーがLGBTに配慮して大幅にルールを見直すのは初めてと見られる。見直しに動き出したのは昨年の夏頃。人事労政部の讃井由香主幹は、「世界の潮流や国内の行政の対応、そして当社の状況等を鑑みて、真正面から向き合い対応していくべきだと考えた」と話す。昨年6月のアメリカ連邦最高裁判所に依る同性婚を認める判決や、東京都渋谷区に依る同性カップルを結婚に相当する関係と認める“パートナーシップ証明書”の発行等が1つの契機となった。加えて、ある社員から「同性婚を考えている」と申し出があり、「対応は待ったなし」(讃井主幹)と実感したという。パナソニックは、2020年の東京オリンピック・パラリンピックの最高位スポンサー。五輪憲章に“性的指向に依る差別禁止”が盛り込まれていることも、全社挙げてのLGBT対応の背中を押した。指針は、子会社を含めた国内外の全従業員25万人を対象としており、20以上の言語に翻訳されている。欧米の現地法人では、既に同性パートナーを配偶者として認めているケースはある。一方、宗教上の理由等から同性愛が刑事罰の対象となる国もある為、全社としての方針は同性婚容認として、細かい規定は各国に任せる方針だ。近く、人事労政部内で識者を招いての勉強会を開催。今年4月以降も、組織責任者・現場の社員等の順でLGBTへの理解を深める為の研修を実施する予定だ。

『日本IBM』も先月から“IBMパートナー登録制度”を新設した。社員は同性パートナーの存在を会社に登録することで、有給休暇・育児や介護休職・慶弔見舞金や転勤先への赴任旅費といった制度を利用できるようになる。同社は同性パートナーにも結婚祝い金を支給する等、元々はLGBT支援に積極的だった。ダイバーシティ&人事広報部の梅田恵部長は、新たに制度を設けた理由について「制度は活用してもらえなければ意味がない。自治体の動きやLGBTに対する社会の意識が変化し、機が熟したと判断した」と説明する。渋谷区のように、同性カップル向けに証明書を発行している自治体は未だ多くない。全国の社員が同じような権利を得る為に、自治体に代わって企業が同性パートナーを“公認”する。それに依って、「組織や会社への愛着や帰属意識の高まりも期待できる」(梅田部長)。既に3件の登録があるという。LGBTの人材活用に動き出したのが、東証マザーズに上場するパッケージソフト開発の『インフォテリア』。同社は昨年11月、同性婚の場合でも社員が祝い金や結婚休暇等を取得できるようにした。自治体の証明書が無くても、パートナーと同居していること等を証明すれば柔軟に対応するという。狙いの1つは、優秀な人材の採用にある。同社の平野洋一郎社長はアメリカのソフトウエア企業での勤務経験があり、性的マイノリティーがエンジニアとして活躍する姿を見ていた。「異質な人が集まるほうが、革新的なアイデアやイノベーションが生まれる。我々のような小さい会社が前例となることで、大企業も動き出すのでは」と説明する。社内の人事や福利厚生のルールのみならず、自社の製品やサービスを見直す動きも広がっている。目立つのが生命保険業界だ。『第一生命保険』は昨年11月、「渋谷区の証明書があれば、同性パートナーをスムーズに保険受取人にできるようにする」と発表した。社内に“LGBT相談窓口”を設置し、12月には1300人の幹部社員全員を本社に呼び、LGBTについての研修を実施。結婚や出産に伴う休暇や社宅貸与基準についても、同性パートナーを家族と見做して活用できるように制度の運用を変更した。その他、『日本生命保険』等の多くの生保会社が昨年秋以降、渋谷区等の証明書があれば同性パートナーを保険金の受取人に指定できるように動いている。今年4月に向けて規程を改定する予定の『メットライフ生命保険』の海老名敦尚執行役員は、「性的な指向も個性の1つ。保険会社として多様な人々を受け入れていきたいという思いで、改定に踏み切った」と言う。




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『日本トイザらス』は、来年度内にも玩具売り場の“男の子”“女の子”といった区分を止める予定だ。イギリスでは、一部の小売事業者が男女別の衣料品や玩具の売り場を見直している。欧米で進む売り場の“ジェンダーフリー”の流れが日本にも及び始めている。新たなビジネスも登場している。LGBT関連の研修やメディア運営を手掛ける『レティビー』(東京都品川区)は先月20日、コミュニティーアプリ『nesty』(右写真)の提供を始めた。LGBT当事者や理解者が、趣味や悩み等のテーマ毎に集まる場をインターネット上で提供する。個人のユーザーが集まることで、LGBT向けの広告やマーケティング手段として企業の活用も見込む。既にフィリピンでも提供を開始しており、アジア各国も含めて年内に100万人のユーザー獲得を目指している。企業が俄かに動き出すきっかけとなったのは、複数の自治体が同性パートナーを認める証明書を発行し始めたことだった。渋谷区では既に6組に発行済みで、「各自治体や地方議会の視察が相次いでいる状況」(渋谷区)。東京都世田谷区も、昨年11月から同性カップルにパートナーシップの“宣誓書”の受領証を交付し始めた。同年末までに15組に交付済みで、予約も断続的に入っているという。兵庫県宝塚市も、今年6月から世田谷区と同様の受領証を交付予定だ。これらに法的な拘束力は無い。だが、自治体が積極的に企業や病院等に、同性パートナーを異性間の夫婦と同様に扱うよう求めており、企業に与える影響は大きい。流れは国政にも及んでいる。昨年3月に超党派でLGBTに関する議員連盟が発足したのを足がかりに、民主党は『LGBT差別禁止法案』(仮称)を議員立法として登録済みで、各党に連携を呼びかけている。自民党も今年に入って、党内でLGBT関連のプロジェクトチームの立ち上げを決めた。

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東京オリンピックも近づき、法制化への機運も高まっている。ただ、社会全体のLGBTへの理解が進まなければ、政府として動き難いという側面もある。左のグラフは、全国の1200人以上を対象とした同性婚についての意識調査の結果だ。合法化に肯定的な層が20代では約7割なのに対し、60代では4割以下。世代間ギャップが大きく、社会全体で見ればLGBTへの理解は道半ばだ。地方議会で“問題発言”が相次いでいることが、それを象徴している。「『同性愛者が集まり、HIV(エイズウイルス)感染の中心になったらどうするのか』という議論が市民から出る」(兵庫県宝塚市議)、「(渋谷区の条例は)日本社会の価値観を否定するもの」(東京都練馬区議)、「同性愛は異常」(岐阜県議)…。NPO法人『虹色ダイバーシティ』(大阪府大阪市)の村木真紀代表は、「LGBTが注目されるようになり、これまで見過ごされてきた発言が取り上げられる状況になった。経営者の差別的発言がリスクとなる可能性がある」と指摘する。今後、企業が難しい判断を迫られる局面が増えてくるのは確実だ。昨年12月、『コナミスポーツクラブ』の会員が同クラブに損害賠償を求める訴訟を起こした。この会員は、戸籍上は男性だが“性同一性障害”と診断され、治療を受けた上で女性として生活している。女性用施設の利用を求めたが、同クラブは「戸籍上の性別で判断する」ことを原則としており、申し出を拒否した。どこにでも起こり得るケースであり、LGBTの存在を前提に社内のルールを再点検することが不可欠だ。それだけでは十分ではない。LGBT当事者は、「制度があっても、安心してカミングアウトできる環境がなければ意味が無い」と口を揃える。多様な価値観を受け入れる社内文化が作れているかが問われている。

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■アメリカ大統領選でも論点に
各州での予備選が始まる等、今年11月の本選に向けた候補者選びが本格化しているアメリカ大統領選。今後を占う上で各種ロビイング団体の動きに注目が集まる中、LGBT支援団体の影響力も無視できなくなってきている。アメリカ最大のLGBT権利団体である『ヒューマンライツキャンペーン(HRC)』は先月19日、アメリカ大統領選で「民主党のヒラリー・クリントン氏を支持する」と発表。HRCのチャド・グリフィン代表は、「ヒラリー・クリントンは国内及び世界中のLGBTの権利の前進に向けて戦っている」との声明を出した。クリントン氏は、同性婚等に否定的な姿勢を見せていた時期もあった。大統領選出馬を意識してか、この数年は性的マイノリティーの権利拡大に向けて国内外で積極的に発言してきたことで支持を集めた。一方、ドナルド・トランプ氏やテッド・クルーズ氏等、共和党側の有力候補の多くは同性婚等のLGBTの権利拡大に慎重な姿勢を示している。保守的なキリスト教徒等、アメリカには伝統的な家族観を重視し、同性婚等に根強く反発している有権者が少なくない。共和党の各候補者のスタンスは、ここ数年で一気に進んだLGBTの権利拡大に反発する声を代弁しているとも言える。LGBTの権利団体は、共和党各候補の同性婚やLGBTの権利に関する過去の言動を網羅し、姿勢を評価するウェブサイト(右写真)を立ち上げる等して警戒している。LGBTの権利が論点となるのは、2009年からのオバマ政権下のアメリカでLGBTの権利向上が進んだ為だ。昨年6月には、連邦最高裁判所が同性婚を合憲と認める判決を出しただけでなく、陸軍長官に初めて同性愛者を公言する人物が指名された。オバマ氏は先月の年頭演説でも、LGBTの権利について改めて言及。最後まで性的マイノリティーの権利拡大に熱心だった政権の姿勢が、アメリカ国民や海外での意識の変化にも繋がった。台湾では、先月の総統選で民進党の蔡英文氏が勝利した。蔡氏は、以前から同性婚の合法化に前向きな発言をしている。提出済みの関連法案の審議が進めば、台湾が“同性婚合法化”でアジア初のケースとなる可能性が出てきている。


キャプチャ  2016年2月8日号掲載


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テーマ : 経済・社会
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