「大阪の言葉は難儀だす」――NHK朝の連続テレビ小説『あさが来た』主演・波瑠インタビュー

20160209 05

高視聴率を獲れていることは、とても有難いことですし、私の演じるあさの口癖で言えば「びっくりぽん」です。ただ、現在放送されている場面を撮ったのは実は何ヵ月も前でして、今は全然違う撮影をしているので、舞い上がったりすることはありませんね。プロデューサーさん等、ドラマを企画して制作する裏方の皆さんは視聴率を気にされていると思いますが、私たち役者は高い視聴率を獲る為だけにお芝居をしている訳ではないですし。それに今は、「いい作品だから必ず高視聴率を獲れる」という時代でもありません。ですので、数字に踊らされるのではなく、自分たちが納得できるお芝居を日々していくことが一番大事。25%という数字は勿論有難く受け止めて、でも調子に乗らず、いつ突き落とされてもおかしくないという気持ちで撮影をしています。

2015年9月に放送がスタートしたNHK朝の連続テレビ小説『あさが来た』(原案・古川智映子著『小説 土佐堀川』)が絶好調だ。平均視聴率は20%を越え、第8週目には何と25%を記録した。今作の舞台の中心は大阪。波瑠(24)が演じるヒロイン・白岡あさのモデルとなったのは、明治から大正にかけて活躍した実業家の広岡浅子。三井家の一族に生まれた彼女は、17歳で両替商の加島屋に嫁ぐ。激動の時代に炭鉱事業に乗り出し、『加島銀行』や『大同生命保険』の創業に携わり、日本女子大学校の設立にも尽力した女傑だ。

実在の広岡浅子さんもそうだったと思うのですが、ドラマのあさもパワフルなキャラクターです。あの時代に、女性でありながら実業家として様々な事業を起こしたエネルギッシュさは桁外れですよね。発想力・行動力・根性…どれもズバ抜けていて、中々真似できません。私は落ち着いて見られがちなんですが、実は負けず嫌いで、力技で切り抜ける時もあるんですよ。例えば、撮影を長く続けていると体も疲れてきますし、あまりに多い台詞の量に頭が追いついていかないこともあります。特に両替屋の役なので、商売の話をする時は難しい言葉が続くことが多いんです。専門語や数字が並んでいたり、難しい漢字が何個もくっ付いていたり。だからといって、自分の都合で撮影を止めてもらう訳にはいきませんよね。そういうときは気合です。「なにくそ!」と思って、何とか頭に入れるんです。また、私は東京出身なので、大阪の言葉で台詞を覚えるのはかなり大変なんです。お箏や算盤、所作等も習うのは難しかったですが、言葉に比べれば未だマシでしたね。方言を喋る役は何度かやってきたのですが、大阪の人の役というのは初めてです。撮影に入る前は方言のお稽古の為だけにNHKに来て、方言指導の先生と1時間半ずっと台本を読んでいました。撮影中も、朝ドラは月曜日がリハーサルの日なのですが、私だけ他の役者さんたちより早く入って、方言の稽古を受けていました。それに、現場にも先生がいて下さるので、間違える度に「違う!」って言って飛んできてくれます。中でも、“お姉ちゃん”と“旦那様”のイントネーションが難しかったですね。この2つは嫌でも毎日言っているので覚えられましたが、“ようけ”とか感情が入る言葉は、今でも音を外してしまうことがあります。それに音程だけ合っていても、気持ちが籠っていないセリフになってしまっては駄目。その折り合いが難しいんですよ。共演者の方々にも関西出身の方がいらっしゃるので、イントネーションに迷ったりした時は教えてもらうこともあります。台本を読んで練習している時に「OKです」って言ってくれたり。私以外にも、旦那様の玉木宏さんは愛知県出身で、関西出身以外の役者さんは皆さん苦労されていますね。不思議なのが、自分が教えられている時は「うーん、わからない」となってしまうのですが、人が教えられているのを聞いていると、面白いぐらいに音程が間違っているのがわかること。だから、他の方が自分のセリフを教えてもらっているのを傍から聞いて覚えたりする等、助け合って何とか乗り越えています。撮影開始から半年以上が経ちましたが、新しい台本が出来る度に新しい言葉が出てくるので、苦労に終わりはありません。きっと、クランクアップまでずっと苦しんでいることでしょうね。




物語は、あさの実家の豪商・今井家、嫁ぎ先の自岡家が経営する両替屋・加野屋、あさの姉のはつが嫁入りした眉山家の3家族の人々を中心に展開していく。脇を固めるキャストも豪華だ。芸事が好きで商売に興味の無い夫の新次郎は玉木宏(35)。あさの姉のはつ役は、2006年に『純情きらり』で朝ドラのヒロインを演じた宮崎あおい(30)。加野屋を取り仕切る義父の正吉は近藤正臣(73)、ちょっとあさに厳しい姑のよのは風吹ジュン(63)が務める。皆、朝ドラに出演経験のある演技派揃いである。

撮影現場は本当にアットホームで、和気藹々としています。特に、私の嫁ぎ先の加野屋は、お父様・お母様・旦那様からお店の番頭さんまで、皆さん面白い方ばかりです。近藤さんは現場を笑わせたり、和ませたりしてくれるムードメーカーです。一方で、皆が疲れてきて、どこか弛んだ空気になった時は、ピシッとそれを正してくれます。撮影が終わった後は一緒にお食事もさせてもらいますし、非常に面倒見の良い方です。大先輩が若手を萎縮させる・緊張させるというのは、とても簡単なことじゃないですか。でも、近藤さんはそうせずに、私たちに本当に温かく接してくれるんです。私が言うのもおかしいのですが、全く威張らない方で、「お父様、おはようございます」みたいな感じで普通に会話ができる。そういう雰囲気の方です。近藤さんは、台本通りのお芝居を絶対にしません。ドラマの撮影ってドライ・テスト・本番と3回あるんですが、全部違うんです。勿論、仰っている台詞の内容は間違っていないんですよ。大筋からは外れず、ご自分の言い回しに変えたり、動きを足したりして、凄く自然なものにされる。それだけ沢山の引き出しが、ご自身の中にあるからでしょう。一緒にお芝居をしているだけで毎日勉強になります。お芝居について、「こうやりなさい」「ああしなさい」と言われることはないですね。これは近藤さんに限りませんが、私たちは「先輩たちのお芝居を見て覚えなくちゃいけないし、見習わなくちゃいけないな」って思っています。私が将来、母親役をやるような年齢になった時に、今度は私が若手の女優さんにそうしてあげられるようになりたいですね。宮崎さんとも一緒にランチをしたり、休憩時間に刺繍をしたり、親しくさせて頂いています。刺繍は元々、宮崎さんがお上手で、空き時間にされている姿を眺めていたら、スタッフの方が裁縫道具を下さったんです。それで教えてもらって、私もハマってしまいました。2人とも口数が多いほうではないので、互いに喋らず、ずっと集中してやっていたりしますね(笑)。『純情きらり』でヒロインを務められた“朝ドラの先輩”でもあります。ヒロイン役は長丁場で非常にハードなので、「体調面の管理はしっかり気をつけたほうがいいよ」とアドバイスをして下さいました。沢山食べて寝ること。そして楽しむことが大切だと。夏場の撮影等、着物を着ていると本当に暑いですし、それが長時間続いたりもしますので。だから人一倍気をつけていたのですが、9月の季節の変わり目に一度、体調を崩してしまいました。撮影日以外も生放送があるなど仕事も続いて、熱を出してしまい、情けないことに声が出てこなくなってしまったんです。

共演者の皆さんも心配して下さって、喉に良いものを色々と頂きました。喉飴や蜂蜜、そして風吹ジュンさんには漢方を。風吹さんは本当に漢方にお詳しくて、ご自分でスタジオに持ってこられるんですよ。私以外の役者さんにも「腰が痛い時はあの薬」「この薬は頭痛に効く」とか、勧めていらっしゃって。ドラマの中ではいけずな姑を演じられていますが、カメラを離れれば本当の家族みたいに甘えちゃっています。旦那様の玉木宏さんとは夫婦だけあって、一緒にいる時間は長いですね。現場では、皆さんとよく「台本のこの台詞をどう思う?」とか「私たちは何度も台本を読んでいるからわかるけど、テレビでそのセリフが流れた時に視聴者はどう受け止めるだろうか」という話をしているんです。夫婦の間の話は特に難しいので、玉木さんとはよくそういう話をしていますね。待合所で仲良さそうに話をしていると思いきや、顔を突き合わせて意外と難しい話をしていたりすることも(笑)。玉木さん演じる新次郎は、三味線や茶道に熱中していて仕事はしないけど、働く妻を精神的にサポートする役です。あさが九州の炭坑に行くシーンでは、2人の関係が良く出ていました。炭坑夫たちに相手にされなくても、めげずにぶつかっていくあさ。でもそのうち、周りが見えなくなってしまっていた。そんな時に旦那様がひょいっと現れてアドバイスしてくれたことで、あさは肩の力を抜いて冷静になれたんです。男性が働かず女性が家庭を支えるというのは、当時としては非常に珍しかったと思います。でも、あさが新次郎に「私が働くので、旦那様は支えて下さい」と押し付けた訳ではなく、自然と収まったという感じなんです。新次郎としても、働く女性の背中を支えなきゃいけないという思いでもない。頑張る妻の姿に心を打たれて、「のびのびと頑張ってもらいたい」という思いが、そういう行動を取らせたのでしょう。だから、「こんな夫婦の形もありじゃないですか?」というメッセージになればいいですね。とは言え、いざ自分に置き換えてみると、こんな男性は「どうなんだろう?」という感じはしますね(笑)。私は結婚しても、お仕事を続けることを前提に考えたい。女性の仕事に対して寛容という点ではいいのですが、お勤めというのは男性にとっても大事だと思います。私の座右の銘は「働かざる者、食うべからず」ですから。

近藤さん・風吹さん・玉木さんのいる白岡家は、賑やかで、遊び心もあって楽しい家族です。炭坑から戻ってきて、白岡家のセットで撮影を始めた時は、凄くホッとしました。「あ、帰ってきたな」って。実際の私の実家も白岡家に近い雰囲気ですね。皆、本当に仲が良いんですよ。父も物腰が柔らかくて、真面目な働き者で、近藤さん演じる正吉っぽいところはあります。母は私に似て感情をあまり表に出さない人ですが、しっかりと私のことを支えてくれています。4歳年上の姉もいるのですが、ドラマの中の宮崎さんと私の姉妹関係とはちょっと違います。ドラマは姉がしっかりしていて、妹はよく問題を起こす。でも、私の実の姉は私よりずっと女性らしいというか、お淑やか。妹が言うのも何なんですが、しっかり者のお姉ちゃんという感じではないんです。その姉も、ついこの間、結婚しました。私、結婚式は姉のが初めてで、どういう感じなのかよくわかっていなかったんですよ。取り敢えずドレスを着て、ケーキを切って「誓います」って言うぐらいにしか思っていなかった。だから、結婚式に至るまでに姉と義兄が「ああしよう」「こうしよう」と色んなことを一緒に考えながら作り上げていくプロセスを見て、「結婚式って凄く素敵な時間だな」って思いました。実際には、結婚は未だ身近なこととしては捉えられていないんですけどね(笑)。

波瑠は、中学1年生の時に所属事務所のオーディションを受けて芸能界に入った。雑誌『セブンティーン』『ノンノ』の専属モデルとして人気を博す。女優としても、宮藤官九郎脚本のドラマ『ごめんね青春!』(TBSテレビ系)や、重松清原作の映画『アゲイン 28年日の甲子園』等、数多くの作品に出演し、着実に実力を磨いていった。朝ドラのヒロインの座は、実に4度目の挑戦で手に入れたものだった。

朝ドラで一番記憶に残っているのは、国仲涼子さんがヒロインを演じた『ちゅらさん』(2001年)ですね。ドラマの中で、国仲さんは恵里という役で「えりぃ」と呼ばれていたのですが、私の家族なんか別の番組でも国仲さんが出てくる度に「えりぃ、えりぃ」ってずっと呼んでいました。しかも、まるで自分の家族かのように親しみを込めて言っているんですよ。私の家族にとって、朝ドラはあって当たり前。日常の中に溶け込んでいるものでした。芸能界に入り、女優として活動するようになってからは、朝ドラのオーディションも受けました。ただ、『てっぱん』(2010年)・『純と愛』(2012年)・『あまちゃん』(2013年)と落選が続きました。『純と愛』と『あまちゃん』は最終選考までは残ったんですけどね。『あさが来た』のヒロインに受かるまでに、多くの俳優さん・女優さんとお仕事をご一緒させて頂いて、沢山のことを学びました。中でも、『ごめんね青春!』で共演した満島ひかりさんと『アゲイン』の中井貴一さんは、改めて凄い方なんだと感じましたね。満島さんは、お芝居に嘘が無いんです。テクニックというより、ハートで演じている。物凄いエネルギーの塊でした。だから、振り回されることもありますけど、常にこちらの予想を裏切られるので、「いつまでもお芝居を見ていたい」という気にさせられる。そんな方です。中井さんは、役を演じているというより、本当にその役の人間が生きてそこにいるという感じでお芝居をされるんです。勿論、ドラマや映画というのは作り物なのですが、その役に人間味が無いと意味が無いと私は思うんです。見ている方々に、嘘のものは届けたくないじゃないですか。中井さんも、お芝居に嘘の無い方でした。あさのモデルになった広岡浅子さんは、「自分が死んだ時、どれだけお金を稼いでも墓場までは持っていけない。自分がいなくなった世の中に、何を残すことができるのかが重要だ」と考え、沢山のものを残していきました。成功に向かって突き進んでいくモチベーションは、そこにあったんだと思います。「世の中に何を残していくか?」「より良い社会にする為にできることは何なのか?」と。「私が女優として残していくことができるのは一体何だろう?」と考えてみると、やっぱり作品しかないんですね。ドラマでも映画でも、その作品で人の心を打つことができて、「頑張ろう」と思ってもらえたり、生きる希望を持ってもらえたりする。貴重なお仕事だと思うんです。お芝居って、ともすると表現をするだけで自己満足してしまいがちです。でも、自分で見て「ああ、いい芝居しているな」じゃ駄目なんです。その芝居を通して何を残せるか、見ている人に何を伝えられるかということを考えないと。私は、この『あさが来た』でヒロインのあさを演じることで、激動の時代に女性として偉業を成し遂げた彼女の言葉を、より多くの方々に伝えられるようにしていきたい。そう思っています。


キャプチャ  2016年1月号掲載
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価格:16,473円(税込、送料込)



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テーマ : NHK:朝の連ドラ
ジャンル : テレビ・ラジオ

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