【宮崎哲弥の時々砲弾】 何度でもいう。われわれは皆、長期的には死んでいる。

『朝日新聞』夕刊で酷い連載が始まった。『日本銀行』に依る積極的な金融政策は“バブル製造装置”だそうな(原真人『バブルをたどって<01> なんと魅力的で、罪深い』・1月27日付)。バブルとは、経済実勢から大きく乖離した株価や不動産価格の高騰、即ち“過熱した資産インフレ”の謂である。だが、黒田東彦総裁の下で大規模な量的緩和を行っても、現在の株価収益率は高々15倍程度。1980年代後半から1990年代初頭のバブル期には、これが70~80倍にも肥大していたのだ。今、どこにバブルの徴候が見えるというのか? バブル崩壊当時、日銀総裁の座にあった三重野康は、無体な金融引き締めを強行し、その行き過ぎで“資産デフレ”を惹き起した。続く歴代総裁たちも、デフレが一般物価にも波及して長期化しているのに、“羹に懲りて氷塊を吹く”が如き消極的・場当たり的な対応に終始した。

日銀は、黒田氏が総裁に就任するまで“デフレ製造装置”として作動し続けた。これが、20年の長きに亘って国民経済を損壊し、人々を苦境に追い込んだ元凶だ。それをサポートしてきたのが、朝日の原真人氏に代表される金融タカ派・財政タカ派・構造改革派の経済記者たちである。彼ら経済右翼の“罪深さ”については、何れリベラル左派の経済学者である松尾匡氏の新著『この経済政策が民主主義を救う』(大月書店)を参照しつつ、剔抉するつもりだ。今回は、『フィナンシャルタイムズ』の経済論説主幹で、世界で最もインフルエンシャルなエコノミストとして尊敬されているマーティン・ウルフのアべノミクス批判を見てみよう(『アべノミクス、核心は民間需要の不足』・引用部は日本経済新聞電子版掲出の全文訳に依る。1月12日付)。ウルフは、アベノミクスの2本目の矢、即ち「機動的な財政出動の矢は放たれていない」と断言している。前々回にも取り上げたが、この見解は国内メディアの報道や解説とあまりに異なっているので、再度引いておく。「国際通貨基金(IMF)によると、2013年の日本の財政拡大は景気循環要因調整後でGDPの0.4%に過ぎない。同調整後の財政赤字は2014年、同年春の消費税率5%から8%への引き上げという誤った政策を主因としてGDP比1.3%減少している。2015年も同様の緊縮となる見通しだ」。財政政策の不発。それどころか、2014年以降は緊縮に傾いていること。これこそ、民間需要が喚起されない最大の要因ではないのか。




ウルフは、「日本経済を苦しめているものをアべノミクスが正しく特定しているかどうか」極めて怪しいと観測している。「真の問題は民間需要の弱さにある。その表れが民間部門の巨額の資金余剰、すなわち民間投資に対する民間貯蓄の超過だ」。企業や家計の彫大な資金余剰を解消する為、ウルフは5つの選択肢を用意している。その中には、朝日社説が勧めるような徹底した緊縮策も一応挙げてあるが、「日本では極めて現実味が薄いようにみえる。むしろ深い景気後退に行き着く可能性のほうがはるかに高い」と早々に却下される。特に、弊害の指摘が無い選択肢は2つ。1つ目は、日銀が国債を直接引き受ける財政ファイナンスだ。「政策が実際にマネタイゼーションであるということを認めることだ。日銀は財政ファイナンス、つまり家計への移転について政府に同意するだろう。その意思はインフレ目標の達成まで続く。さらに加えて、公的部門の債務に覆われた日本では、債務負担の軽減を見据えて、より高いインフレ目標を再設定することもできる」。もう1つは、「民間部門の慢性的な貯蓄過剰に真正面から切り込むこと」。「したがって、消費増税はなすべきことの真逆になる」。企業が溜め込んだ巨大な内部留保を、賃金と税に移していくのだ。


宮崎哲弥(みやざき・てつや) 研究開発コンサルティング会社『アルターブレイン』副代表・京都産業大学客員教授。1962年、福岡県生まれ。慶應義塾大学文学部社会学科卒。総務省『通信・放送の在り方に関する懇談会』構成員や共同通信の論壇時評等を歴任。『憂国の方程式』(PHP研究所)・『1冊で1000冊読めるスーパー・ブックガイド』(新潮社)等著書多数。


キャプチャ  2016年2月11日号掲載


スポンサーサイト

テーマ : 経済
ジャンル : 政治・経済

Categories
Profile

KNDIC

Author:KNDIC
Welcome to my blog.

Latest articles
Archives
Counter
I'm participating in the ranking.

FC2Blog Ranking

information
Search
RSS Links
Link
QR Code
QR