「死にたい」とその子は言った――貧困家庭の子供たちが過ごした年末年始に密着

子供の貧困問題が深刻だ。世帯の可処分所得を基に算出した“子供の相対的貧国率”は親世代の非正規社員増加などを受けて、2006年には14.2%だったのが、最新の調査では過去最悪の16.3%まで上昇している。この数字は、OECD加盟国でも平均を下回る。食事どころかライフラインさえ享受できず、生命の危機に脅かされる子供たち。親の貧困から否応なしに巻き込まれる“無防備な被害者”たちの現状に密着。拡大する負の連鎖をルポする。 (取材・文/フリーライター 小山田裕哉・フリーライター 高島昌俊・フリーライター 古澤誠一郎・岡野孝次)

20160211 07
新年のお祝いムードも冷めやらぬ正月某日、筆者は豊島区の『要町あさやけ子ども食堂』に足を運んだ。有楽町線要町駅から程近い場所で、生活に困っている家庭の子供への支援の為にNPO法人が運営している。到着したのは17時前。ボランティアが台所で和気藹々と準備をしている。献立を聞くと、「生活費を稼ぐ為に、年末年始も親御さんが働き詰めで、正月らしいことができなかった子も多いから、おせち料理が楽しめるように、お雑煮や煮染めを出します」と自宅を提供し、食堂を運営する山田和夫氏。参加者は貧困家庭だけではないので、「母子家庭の方の場合、周りと壁を作ってしまい、来辛くなるお母さんもいるから」と、敢えてここでは参加者の事情を聞かないことにしている。参加費は1人300円。しかし、それすらも苦しい人には無料で食事を提供しているという。オープンの17時半。受付で参加者の様子を見学させてもらう。来る親子、来る親子、きれいな身なりで生活に困っている様子は窺えない。配膳される食事を食べる子供たちからは弾けるような笑顔。食事の終わった子供が「早く遊ぼうよー!」と食事中の他の子を急かして楽しそうに遊んでいる。筆者が話を聞いた中で先ず印象に残ったのが、岸田加奈子さん(仮名・29歳)。3年前に離婚したシングルマザーで、6歳の男の子と4歳の女の子を連れて、北海道から働き口の多い東京に移った。「心機一転、人生をやり直したいと思って。今は飲食店のパートでキッチンの仕事をしています」。年末年始も働いていた岸田さんにとって、この日は久しぶりに子供とゆっくりできる貴重な時間。「生活は本当に苦しくて。保育施設が17時までなので、働く時間が限られているんです。一番困っているのが、児童扶養手当が貰えないこと。お金が無いので、友達の家に転がり込むしかなかったんです。そうしたら、『住まいが本人名義ではないから申請できない』と区の窓口で追い返されました」。居候の身を気にしてか、長男は「掃除機をかけるのが楽しいから僕がやる!」と岸田さんの友人に言い、率先して掃除を手伝う。そんな姿を目にしているので一刻も早く自立したかったが、「目の前が真っ暗。私たちは夫だけでなく、国からも見放されたんだなって」と岸田さん。普設は仕事で一緒にいる時間が取れないからだろう。取材中、ずっと4歳の二女は「ママ、ママ、遊んで」と彼女の腕にしがみ付いていた。子供に寂しい思いをさせて働いても、月収は10万円を少し上回る程度。「お正月らしいことできなくてごめんね。でも、今日はお餅が食べられた。よかったね」と声をかける岸田さんに、二女は「お雑煮おいしかった!」と笑顔で返した。

小声で話しかけると「はい」と恐る恐る答えてくれたのは、小澤佳子さん(仮名・45歳)。一緒に来た10歳の男の子と高校生になる娘がいる。結婚して地方に住んでいたが、夫のドメスティックバイオレンス(DV)で5年前に家を飛び出し、子供を連れて東京に移住した。未だに夫とは正式な離婚が成立しておらず、1人親に給付される児童扶養手当を受け取ることができない上、養育費も支払われていない。ダブルワークでも月収は約15万円。家賃等の諸費用を引いた4万円ほどで暮らす。そんな状況で、長女は同級生たちが塾通いする中、「これ以上、お母さんに負担をかけられない」と学校と自宅学習だけで希望の進路を勝ち取った。喜ばしいことだが、彼女が春から通うのは隣県にある全寮制の高校。学費以外に仕送りも必要になるという小澤さんは、「スーパーのパートだけではやっていけないので、下の子を寝かしつけた後、深夜はコンビニでバイト」の日々。小澤さんが留守の深夜、目を覚まして「ママはどこ?」と不安がる下の子を、「お母さんは私たちの為に頑張っているんだから我慢しよ!」と論す長女も、4月からはいない。「娘の進学で更にお金がかかるので、週末も仕事を入れてトリプルワークするしかないと思っています」と疲れた顔で話す。「せめて離婚が成立して、児童扶養手当が貰えたら…」。食堂で母親たちの会話の中心にいた安田恵さん(仮名・45歳)は、18歳と14歳の子供を持つシングルマザー。18歳の長男は今年、大学に合格。春から新聞奨学生として学業に励むという。傍らにいた長男は、「貧乏で苦労したなんて思っていないですよ。もっと大変な子もいますから」と話す。安田さんも続ける。「ここに来る人の中には、病気で働けないので生活保護だけで必死に子供を育てている人や、明日のお米にも困っている人もいるんです」。前出の山田氏は言う。「誰だって、自分が貧しいなんて知られたくないですよ。だから、表向きは何事も無いように振る舞っている。声無き声に気付き、如何に援助に繋げるかがこれからの課題です」。比較的、生活水準の高いとされる23区内ですら、親子がお腹一杯食べられる、ただそれだけで救われる人がこれだけいる。しかし、これは氷山の一角に過ぎない。




20160211 08
■我慢を重ねた子供が追い詰められた末に口にした「死にたい」
企業や個人から寄付された食料を生活困窮者等に配布するフードバンクも、子を持つ貧困家庭を支える生命線だ。筆者は、川崎を中心に活動する『フードバンクかわさき』を訪れ、代表の高橋実生氏と利用者の島田文子さん(仮名・38歳)に話を聞いた。同団体が食料を配布する約150世帯の半数は、子供のいる家庭だという。「電気やガスを止めている家庭もあり、電子レンジや冷蔵庫が無い家も。その為、配布する食料は缶詰が中心です。利用者にはシングルマザーも多いです」と高橋氏。島田さんもシングルマザー。夫のDVから逃れて家を出て、7歳と4歳の2人の男の子とアパート住まいだ。DVの後遺症から鬱病を発症し、現在は無職。障害年金とフードバンクの食料を頼りに暮らす。主食はご飯と、5食で135円のインスタント麺だ。「節電の為、夜も明かりは基本無し。子供が怖がるので、100均の蝋燭を明かりにして『今日はキャンドルナイトだよ~』って」。食事がご飯だけの日はおにぎりにして、弁当箱に態々詰めているとも。部屋にレジャーシートを敷いて「今日はピクニック!」と言えば、子供たちも「楽しいね」と喜んで食べる。「貧乏なんて思ったことないよ」と言う次男に、「あんな小さな子にまで気を使わせていると思うと胸が苦しくなります」(島田さん)。仕事を辞めてから2年経つが、島田さんに復帰の目途は立たない。「元々はフルタイムの仕事で稼ぎもありましたが、今は難しい。下の子を18時に保育施設に迎えに行かねばならず、仕事の選択肢が限られてしまうのも悩みです」。そんなある日、長男が唐突に「死にたい」と泣き出した。突然の告白に仰天する島田さん。恐る恐るその理由を尋ねると、泣きながら母親に語り出した。「僕も大きくなったら、お父さんみたいな男の人になるのかな。お母さんを苛めたお父さんみたいに。そんな大人になるくらいなら死にたい」。夫のDVが幼い息子の心をここまで傷つけていたとは。島田さんも泣きながら、「そんなことはないよ。君が生きてくれてお母さんは幸せだよ」と精一杯伝えた。高橋氏は言う。「DV家庭にいた子供は、周りが思う以上に心へのダメージが大きいんです。不登校や自傷行為に及ぶ例も少なくない。成長してDVをする大人になることを恐れるケースも多いです」。

20160211 09
■「寒くて辛い…」、雪国を暖房無しで凌ぐ子供の悲鳴
雪国で暮らす貧困家庭にとって、冬は1年で最も辛く厳しい季節だ。「灯油代を含む冬場の光熱費は、夏場の2倍。節約しないと月1万8000円近くになります。でも、ウチにはそのお金を払う余裕が無いので、冬場も暖房を使わないようにして月1万円に抑えるように しています」。そう語るのは、6歳と3歳になる2人の男の子を育てる札幌在住のシングルマザー・河村弥生さん(仮名・30歳)。両親は既に他界。頼れる親族もおらず、収入はパートの平均月収手取り8万円に児童扶養手当の4万6000円、児童手当2万5000円の計17万1000円と、家族3人が暮らしていくにはギリギリの金額だ。「今は灯油代が安いけど、シーズン全体の出費だとやっぱり痛いので。その為、暖房を入れるのは朝1時間と夜3時間の1日4時間だけ。午前中はパート先の託児所に子供を預けるのでいいとして、帰宅後も日が暮れるまでは基本的に暖房を付けません」。実際、河村さん宅を訪れた年末の某日午後も、子供はダウンジャケットを着込んでいた。不慣れな記者には耐えられない寒さだ。「冷え込みが厳しくなる21時前には寝るようにしています。お風呂もガス代節約の為に3日に1回で、入浴しない日はタオルで体を拭く程度です」。夜は湯たんぽ入りの布団で子供と抱き合って寝るという河村さんだが、暖房を切ると深夜には室温が3~4℃にまで下がり、幼い次男は「ママ、寒くてツラいよ~…」とぐずりだす。「そんな息子を見る度に母親として申し訳ない気持ちになり、胸が締め付けられます」。そんな中、今春には長男の小学校進学を控え、家計は火の車だ。「元夫と月5万円で約束した養育費は最初の4ヵ月しか払われず、今では音信不通です。フルタイムで働くにも、下の子がもう少し大きくなるまでは難しいので…」。フルタイムで働けない以上、あまりの貧窮ぶりから「風俗で働くことを考えたのは1度や2度ではありません」と河村さん。雪国の貧困家庭の子供には、暖かい部屋すら許されない…。

■誰も存在を知らない…戸籍上“存在しない”子供たちの貧困
子供の貧困について考える時、忘れてはならない問題がある。それは“無戸籍者”の存在だ。日本で生まれたのに戸籍登録されず、学校に1度も通ったことがない。そんな過酷な環境で暮らす子供たちが、確かに存在しているのだ。元衆議院議員として同問題に取り組み、これまでに1000人以上の無戸籍者を支援し、書籍『無戸籍の日本人』(集英社)に彼らの現状を纏めた井戸まさえ氏に聞いた。「親の虐待に依って、抑々出生届が出されていなかったり、貧困の為に出産費用が払えず、病院から出生証明書を受けとっていなかったりと、無戸籍の子供たちが生まれてしまう原因は様々ですが、中でも多いのは、夫のDVから逃げ出した女性が籍を抜けられないままに、別の男性の子供を妊娠するケースです。現在の法律では、離婚が成立しないうちに出生届を出すと、血の繋がりとは関係なく夫の戸籍に入れられてしまいます。しかし、離婚の協議をしようにも、女性はDV夫に居場所が知られるのを恐れ、行動を起こせない。その為、無戸籍のまま育てることになってしまうケースがあるのです」。こうして生まれた無戸籍者たちは現在、「推定で1万人以上いる」と井戸氏は言う。無戸籍の子供を巡る大きな問題は、教育を満足に受けられないことだろう。無戸籍でも小中学校に入学することはできるが、親がその制度を知らず、自宅学習で育てられる子が少なくないのだ。「その為、友人が1人もできず、コミュニケーション力に乏しいまま成長してしまうのです。これまで支援してきた人の中には、成人でも文字が書けない人もいました」。若し小中学校に通えても、高校にまで進学できる無戸籍者は殆どいない。その為、若くして働きに出る人が多いが、職探しにも困難が待ち構える。「公的な証明書が無ければアパートも携帯電話も契約できず、銀行口座も開けない。だから、身元の証明を求められない水商売やアルバイト、若しくは日雇い労働者くらいしか働き口が無いのです」。しかも、国民健康保険に加入できない為、病気をしたら医療費は全て自己負担。予防接種や健康診断等の行政サービスも受けられない。常に不安と隣り合わせのまま生きていくことになるのだ。しかも、マイナンバー制度の運用が始まることで、水商売やアルバイトでも雇用先にマイナンバーの登録が求められる。だが抑々、無戸籍者にマイナンバーは届かない。今後、彼らは限られた働き口さえ無くしてしまう可能性があるのだ。「そうなれば、ただでさえ苦しい生活を強いられているのに、無戸籍者は益々困窮する」と井戸氏。成人の無戸籍者には子供がいる人もおり、恵まれた環境でなくとも必死に育てている。しかし、このままでは無戸籍者たちは益々追い込まれ、貧困の連鎖が続いていくことになりかねない。それを防ぐ為にも、戸籍制度の根本的な見直しが急務だ。

               ◇

■窮地に追い込まれた子供は政府の支援策では救えない
ここまで見てきたように、子供の貧困問題の多くはシングルマザーの貧困に起因している。貧困生活者の支援に携わるNPO法人『もやい』の大西連氏は、「彼女らの多くは、頼れる人がいない“人間関係の貧困”に陥っている」と指摘する。「誰からも援助が受けられない為、タブルワークやトリプルワークで何とか子供を養っているケースが多いです。より生活が苦しいのは、子供が小さかったり、病気で働きたくても働けない人ですが、残念ながら、前者から過労で体を壊して後者に転落するケースも珍しくないです」。昨年、就労支援等を謳った『生活困窮者自立支援法』が制定されたが、大西氏の見方は懐疑的だ。「一方で、生活保護のうち、住宅扶助や冬季加算は削減となりました。冬季加算とは暖房費用の補助。これが削減されれば、前出の河村さん親子のような例が増える恐れがあります」。また、同じく政府が打ち出した『子供の貧困対策に関する大綱』も、医療費の窓口負担ゼロや給食・修学旅行の無償化等は見送られた。「支援の現場で必要としていたものは殆どが棚上げになり、教育支援に終始しました。しかし、貧困の原因を学力だと考えるなら、義務教育の無償化だけでなく、進学の為に多くの子供が塾に通っている現状を踏まえれば、それと同等の教育まで無償化すべき。そこまでやって、初めて平等な社会だと思います」。少子化対策を重大な課題と位置付けながら、生活そのものが脅かされている子供たちに手を差し伸べない政府。彼らに、貧困に喘ぐ子供の悲痛な叫びは届いているのだろうか? (取材・文/フリージャーナリスト 丸山ゴンザレス)


キャプチャ  2016年1月26日号掲載


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テーマ : 貧困問題
ジャンル : 政治・経済

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