【変見自在】 日曜は寝ていろ

「朝日を読んでいる」と言うと、大方は顔を顰めるか、どう答えていいものか戸惑いを見せる。「大丈夫、仕事で止むを得ず読んでいるだけ」と釈明すると、「何だ、真面な人なんだ」と安堵してくれる。実際、あの新聞は体に良くない。どこか詐欺師っぽくて、サブリミナル的に人の記憶まで歪ませる。例えば、少し前の“フォトアーカイブ”に、半世紀前のスモッグに煙る東京都心の写真が載った。今の北京ほど酷くはないけれど、確かにそんな時代はあった。その下にすっきり空の同じ銀座の写真があって、絵解きに美濃部亮吉が「東京に青空を」と言って都知事選を制したとある。青空を取り戻したのが、まるで美濃部のおかげだったみたいに読める。彼は、「1人でも反対したら橋は架けない」とか馬鹿言って都市計画を止めた。女秘書と懇ろになったりして結局、環七も環八も渋滞させ、スモッグをより濃くしただけだった。東京に青空を取り戻したのは、石原慎太郎の排ガス規制だ。それで東京から富士山が見えるようになった。他人様の業績を無能知事の手柄に挿げ替える。実に性質が悪い記事だ。

そういう小狡さに加えて、この新聞の記事は何か座りの悪さがある。それが何か、先日のお偉い編集委員・山中季広のコラム“日曜に想う”(2015年12月13日付)を読んでやっとわかった。日本が打ち出した『MRJ』の前に、支那印のジェット旅客機が出てきた。コラムは、「インドネシアで新幹線受注を支那に攫われた。空でもまた負けるのでは」と心配する。しかし、専門家から「いや、日本はカナダと競っている」と聞かされ、「妙に安心」する。だって、「欧米の背中を追うのが、私たち日本人には居心地がいい」と宣う。文意が判り難いのは扨措き、そこに徹底した“白人崇拝”が滲む。朝日のもう1つの隠れた特性だ。例えば、夫婦同姓を合憲とした最高裁判所に、「海外では、夫婦同姓を法律で義務付ける国は無い」と社説で非難する。つまり、「白人国家を見倣え」と。朝日は護憲を語る。根拠は、白人のマッカーサーが創ったから。中身も「畏くも米国憲法の理念と同じ」(早稲田大学の長谷部恭男教授)だから。高速増殖炉『もんじゅ』問題もスタンスは同じ。成功すれば「人類2500年分のエネルギーが確保」(北海道大学の奈良林直教授)される。世界が処理に困っている“核のゴミ”も、この炉で焼却処理できる。しかし朝日は、「ドイツもフランスも開発を諦めた」から「日本も止めろ」と言う。「白人ができなかったものを、何故日本人如きがやり続けるのか」と。これが違和感の元だろう。日本人は、そんな白人崇拝を欠片も持たない。




早い話、クオーツだ。通電した水晶の正確な振動は時計にもってこいだ。欧米が競ったが、箪笥より小さくならなかった。『精工舎』は諦めず、腕時計に入るほど小さくするのに成功した。精工舎は特許を世界に開放し、白人は箪笥を背負って歩かずに済んだ。ディーゼルエンジンは箪笥より大きくて、船に載せるだけだった。ドイツ以下が小型化を競った。皆が諦めた時に、山岡孫吉が昭和8(1933)年12月23日、耕運機に載せられるほど小型化するのに成功した。奇しくも、今上天皇のお生まれになった日だった。この技術も、日本から世界に発信された。ドイツは、それを車に積んだ。序でに、独自の技術で排ガスを誤魔化すソフトを併せ、搭載した。白人ができるのはその程度のことだ。実は、増殖炉研究もそれと同じ。日本が原子力規制委員会に邪魔されながら積み上げたノウハウを基に今、フランスが研究を再開(本誌1月28日号)した。米英もそれに倣って、もんじゅの再開を待っている。日本人は“白人の背を追う立場”にはいない。寧ろ、民主主義から礼儀まで彼らに多くを教える立場にある。“日曜に想う”と恥をかく。日曜はゆっくり寝ていたほうがいい。


高山正之(たかやま・まさゆき) ジャーナリスト・コラムニスト・元産経新聞記者・元帝京大学教授。1942年、東京都生まれ。東京都立大学法経学部法学科卒業後、産経新聞社に入社。警視庁クラブ・羽田クラブ詰・夕刊フジ記者を経て、産経新聞社会部次長(デスク)。1985~1987年までテヘラン支局長。1992~1996年までロサンゼルス支局長。産経新聞社を定年退職後、2001~2007年3月まで帝京大学教授を務める。『高山正之が米国・支那・韓国・朝日を斬る 日本人をますます元気にする本』(テーミス)・『アジアの解放、本当は日本軍のお陰だった!』(ワック)等著書多数。


キャプチャ  2016年2月11日号掲載


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