【震災5年・証言】(05) 潮位急降下「巨大津波だ」、“想定外”減らす責務――東北大学教授 今村文彦氏

20160212 01
東日本大震災の発生時、東京の霞が関にいました。海上保安庁のデータを調べると、岩手県宮古市や釜石市で潮位が下がり、引き波が始まっていました。その後に来る津波の高さは、潮位の低下分の数倍になります。「巨大な津波になる」と直感しました。午後4時過ぎ、テレビに映ったのは仙台平野を襲う巨大な津波でした。見た瞬間、869年の『貞観地震』の津波が頭の中で重なりました。2000年以降の地質調査で貞観地震の津波の実態がわかり始めていましたが、防災対策に反映させるには至っていませんでした。実際に津波の被害を目の当たりにしたのは、震災発生の2日後でした。テレビ局のヘリコプターに同乗し、岩手県陸前高田市の上空を飛ぶと、市街地が粗水没し、以前の地形を想像することさえ困難でした。津波研究者として、きちんと対応できなかったショックが込み上げてきました。震災数日後、最初に陸路で向かった津波の被災地は、大学の地元である仙台市の平野部です。太平洋に面した荒浜地区では、土台だけになった住宅、壊れた家屋の残骸が散乱する無残な様子に声が出ませんでした。津波被害の現場調査は研究者の使命ですが、足が竦む思いでした。地域の津波対策作りを手伝いながら、これほどの被害を出してしまいました。住民からどんなことを言われてもしょうがない。正直、住民と話をするのは怖かった。「何で…。ハザードマップを見て避難したのに」と詰め寄られたこともありました。津波対策の検討に関わった地域の1つ、宮城県東松島市の野蒜地区を訪れた際、ある中年の女性に出会いました。地震が起きた時、女性は高校3年生の娘さんが自宅の2階にいるのを確認し、「大丈夫だろう」と安心して近所に避難を呼びかけに回ったそうです。しかし、津波で自宅は流され、娘さんを失いました。野蒜地区で想定していた津波は、精々高さ50㎝。2階は安全な場所の筈でした。私にも当時、同学年の娘がおり、姿が重なりました。女性に返す言葉が見つかりませんでした。実は、貞観地震に関する津波堆積物の調査結果が、日本周辺で起こる地震の発生確率等を纏めた政府の“長期評価”に反映される矢先でした。

長期評価が見直され、津波の想定も再検討されていれば、被災地域でも住民の備えは変わっていたかもしれません。想定を上回る津波が来る可能性があることは、自治体のハザードマップに但し書きで追加していましたが、もっと強調するべきでした。仙台の沿岸部では、盛り土で作った『仙台東部道路』を避難場所として使う検討もしていましたが、間に合いませんでした。今後、津波の研究で“想定外”をできるだけ減らす為に、重要なことは2つあります。1つは、古文書の記録や津波堆積物を基に、数千年前に遡って、地震や津波の発生履歴を徹底的に調べることです。もう1つは、コンピューターを使って地震の規模や断層のずれ方を少しずつ変えながら、様々な津波の発生パターンを考えることです。地震や津波の起き方は未だわからないことも多く、地震の規模を単に大きくするだけでは現実的な想定になりません。震災の2次被害に対する警戒も必要です。東日本大震災の強い揺れで、建物や堤防等に見つかっていない亀裂が残っている可能性があります。昨年9月の豪雨では、東北地方でも堤防の決壊が発生しましたが、震災の影響があったかもしれません。日本では、南海トラフ巨大地震や首都直下地震も懸念されています。東日本大震災を上回る被害が予想されており、その復興策を被災してから考えるのでは遅過ぎます。今から、復興のことも考えた防災・減災対策をすべきです。行政と住民の“連携”は欠かせません。東日本大震災の被災地では、住民の要望をよく聞いて対応している自治体ほど、復興も早い傾向があります。連携を支援するのも、我々研究者の役割です。“複合災害”への備えも考える必要があります。昨年は豪雨や火山の噴火が相次ぎましたが、豪雨の時に巨大地震が起きたり、地震の後に噴火が起きたりすると、ただでさえ困難な避難や救援活動が混乱し、被害が拡大し易くなります。専門家は自分の専門領域に留まることなく、複合災害を想定した研究を充実させる必要があります。 (聞き手/伊藤崇)




■東日本大震災震源域は南北450km…“南海トラフ”想定見直し
5年前の東日本大震災は、どんな地震・津波だったのか。地震は、海側のプレートが陸側のプレートの下に沈み込む境界に当たる日本海溝沿いで発生した。宮城県沖から始まった断層の破壊は3分間も続き、震源域は南北450km・東西200kmに及んだ。地震の規模はマグニチュード9.0で、そのエネルギーは阪神大震災の約1400倍に達した。陸側のプレートの先端部分が、海底で大きく跳ね上がった為に、海水が大量に持ち上げられ、巨大な津波になった。研究者の合同調査グループが、建物等に残った津波の痕跡を調べたところ、浸水の高さが20m以上に達した地域は、三陸海岸の沿岸約200kmに及んだ。仙台平野も、広い範囲に高さ10m以上の津波が押し寄せた。山手線の内側の9倍に相当する561㎢が津波で浸水した。仙台平野等の浸水範囲は、貞観地震の津波堆積物の分布と重なり、今後起こり得る地震・津波を考える上で、津波堆積物や古文書の記録を検証する重要性を示した。東日本大震災は、日本の防災体制に大幅な見直しも迫る。静岡沖から四国・九州沖の南海トラフ(浅い海溝)沿いでは、過去約300年に5回もマグニチュード8級の地震が発生し、次の巨大地震も同規模と想定されていた。国は大震災を踏まえ、マグニチュード9級を新たに想定し、津波は最大30m超、死者は最悪で32万人以上と予想した。首都圏で懸念されるマグニチュード7級の首都直下地震でも、被害想定が見直された。東京都心南部を震源とする地震は、中央官庁や大企業の本社が集中する都心を直撃し、古い建物の倒壊等で死者は最大で2万人を超える。関東大震災と同タイプの地震が関東の沖合で発生した場合は、最大10mの津波が千葉県や神奈川県を襲い、死者は最大約7万人と想定される。東北地方の太平洋沖も依然、警戒が必要だ。東日本大震災のような海溝型地震の後には、海溝外側の盛り上がった場所(アウターライズ)で大きな津波を伴う地震が起こることがある。明治三陸地震(1896年)の37年後に起きた昭和三陸地震(1933年)は、このタイプだったと見られている。日本海側も油断できない。北海道から九州にかけた沖合の海底には、60以上の断層が見つかっている。断層が海岸に近く、浅い場所にある為、津波が地震後直ぐに到達する。国の試算では、北海道・青森・秋田・山形・新潟・石川県で10mを超える津波が襲来する恐れがある。今村さんは、「東日本大震災を教訓に、想定を超えるような地震・津波への対応も検討し、被災しても直ぐに復旧・復興できるような街作りを普段から進める必要がある」と話す。


≡読売新聞 2016年1月29日付掲載≡
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