【誰がテレビを殺すのか】(09) テレビ広告の不都合な真実…収益多角化に活路はあるか

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それは、目を疑いたくなる数字だった。ある大手広告主が昨年、テレビ広告の効果を測定する為、一般家庭に調査をした時のことだ。調査では全国1000世帯以上を対象に、テレビの録画再生機に専用のモニター機器を設置。テレビで録画再生された番組を、視聴者がどのように見ているかを詳細に探った。何故、リアルタイムの視聴ではなく、録画した番組の視聴動向を調べるのか。それは、偏にテレビ局が視聴率の地盤沈下の言い訳として、「録画再生を足し合わせれば、番組はある程度見られている筈だ」と、これまで声高に主張してきたからだ。調査会社の『ビデオリサーチ』も、今年初めから番組の“録画再生率”の集計を本格的に開始。昨秋には試験データを公開し、リアルタイムでは視聴率が低かったドラマが一部上位に食い込む等、視聴行動の変化が窺える結果となった。一方で、録画した番組はCMをスキップして見るのが通常の為、広告主にとっては、どれだけ自分たちのCMがスキップされずに視聴されているかがなによりも重要になる。しかし、蓋を開けてみれば、1時間の番組中に4回あるCMの再生率は全体の15%前後(左図)。業界内では、それまで3割はCMを見ているとされていたものの、その半分しか実は再生されていなかった訳だ。更に言えば、15%という数字は、飽く迄も録画番組を再生した世帯を分母にしている。録画しても番組を再生していない世帯や、録画すらしていない世帯を母数に含めれば、再生率は僅か2%に留まる。テレビ局や広告代理店もそうした“不都合な真実”を理解しているのか、如何に録画再生率が高くても、それを「広告の営業資料として提示してくることは一切無い」(広告主)という。結局、「テレビはリアルタイムの視聴率が全て」という世界なのだ。一方で、2014年度に三冠王となった日本テレビでさえ、20年前には10%を超えていた全日視聴率(午前6時から午前0時まで)が、今は8%台という状況だ。民放を取り巻く環境が年々厳しさを増す中で、視聴率の潮減に依るダメージはテレビ局を徐々に蝕み始めている。特に、単発のスポット広告に影響が及んだ場合は死活問題になりかねない。何故か。簡単に解説していこう。

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先ず、スポット広告の取引にはGRP(延べ視聴率)という指標が使われる。直近4週間の世帯視聴率を基にして、10%の番組に5回CMを流せば50%、10回流せば100%という計算だ。GRPの単価は現在、民放キー局で7万円前後とされる。「今回は、1000GRPでどうでしょうか?」。新商品のPRを考える企業に広告代理店はそうした営業をかけ、ターゲットとする顧客にCMがしっかりと届くよう、曜日や時間帯の最適な割り振りを練り上げ、最後にテレビ局と調整をするというのが大きな流れだ。では、1000GRP分のCMを実際に流した時に、番組の入れ替え等に依って、仮にその時間帯の平均視聴率が20%から10%になってしまった場合はどうなるのか。結論から言えば、500GRP分しか結局は流れなかったとしてそれで終わりだ。「じゃあ、1000%に到達するように2倍の量のCMを流せばいいじゃないか」と思うかもしれないが、それは不可能だ。何故なら、『日本民間放送連盟』の自主基準に依って、週の全放送時間の18%分しかCMは流せないことになっているからだ。視聴率が落ちても、全てのスポット広告を注文通りのGRP分に到達させることは、枠の総量が決まっている為にできない訳だ。同じお金を払っても露出効果が半分になってしまっては、広告主にとっては痛手だ。その場合、アメリカ等の一部では返金をする仕組みもあるが、日本には無い。それどころか、その18%という限られた枠を巡って、広告主は今も争奪戦を繰り広げている。視聴率の低下で番組提供のタイム広告は減少しても、スポット広告だけは人気で、これまで大きく減少することがなかったのは、そうしたカラクリがある。フジテレビの場合、民放の収益を支える“最後の砦”だったそのスポット広告が今年に入って大きく減ったことが、初の営業赤字転落を招いたと言える。「250億円あるから。大丈夫です」。苦境のフジテレビにあって日枝久会長がそう強がってみせたのは、250億円を超える営業利益を稼いでおり、テレビ局頼みの一本足打法の経営ではないということをアピールする意図があったと見られる。確かに、フジテレビは『サンケイビル』に依る都市開発事業を始め、放送外収益が約4割を占めている。1割前後の日本テレビやテレビ朝日と比べても、その差は歴然だ。突出しているのはTBS。“赤坂不動産”と揶揄されるように、営業利益の半分近くが不動産に依る収益だ。最早、業種分類を不動産業に変えたほうがいいかもしれない水準と言える。こうして、民放のグループ連結の財務を眺めると、フジテレビの営業赤字についても特段騒ぎ立てることでもないように思えてしまうが、それは違う。単に、「テレビ局がグループの中核企業である」というだけではない。これまで、公共の電波を使うことで自らの知名度を高め、報道・情報番組を通じて形振り構わず子会社の手前味噌な宣伝を繰り返してきたからこそ、ここまで順調に収益を多角化することができたとも言えるのだ。メディアグループとしてのテレビ・放送事業の在り方とは何か。業界に改めて問い直す時期が来ている。




■電機メーカーが見限ったテレビ事業の多難な行く末
日本で初めて国内量産の白黒テレビが登場したのは1953年1月。テレビ番組の本放送が始まる1ヵ月前のことだ。『シャープ』が開発した第1号テレビの当時の価格は17万5000円。公務員の初任給が5400円の時代だった為、月給の32ヵ月分もする超高額品だった。それから60年余りが経ち、一般家庭への爆発的な普及で“家電の王様”と呼ばれたテレビは、今や電機メーカーから完全に見限られる事業になり果ててしまった。それも、たったここ10年での出来事だ。原因は勿論、経営者の失策だ。韓国・中国等といった急伸する海外勢の動向を読み誤り、「高精細で機能が優れた製品を作ってさえいれば生き残れる」と盲信していた訳だ。しかし、液晶等の部品の水平分業が進み、サプライチェーン(供給網)を確保すれば、品質は大きくは変わらず、しかも数万円でテレビが買える状況が急速に広がり、価格競争力で太刀打ちができなくなった。同じ大阪市を本拠地とするシャープと『パナソニック』は、その後、合計で1兆円を超える巨額赤字の計上を余儀無くされ、大幅な人員削減と共に事業の極端なスケールダウンを迫られた経緯がある。今年に入ってからも、パナソニックは北米と中国で、『東芝』はヨーロッパでテレビ生産から撤退する方針を表明。シャープも、北米でのテレビ事業から手を引くことを決めている。唯一、北米で腰を据えた事業を展開する『ソニー』でも、2014年度に漸く10年続いたテレビでの営業赤字を脱したばかりだ。事業自体は分社化をしており、戦略上の“事業変動リスクコントロール領域”として経営資源を積極的に投入するようなことは、全く考えていない。それでも、テレビは世界的な需要を見れば年間2億台以上が売れる巨大市場の為、各社とも外部から基幹部品の液晶パネルを調達する形で、細々と事業を続けている状態だ。未だに自前で液晶パネルの巨大工場を抱えるシャープが、業界の大きな変動に呑み込まれ経営危機に陥っているのは言うまでもない。

4K・8K――。今、家電量販店には、現在主流のフルHDよりも更に高精細なテレビがずらりと並ぶ。日本では、電波の帯域の狭さというテクニカルな要因で、地上波で4K放送がいつ始まるのかも未だ決まっていないが、ハード側のテレビだけは激しい技術競争に依って、後続が見えないほど先に行ってしまっている。ただ、その進化も終わりを迎えようとしている。何故なら、仮に8Kを超える液晶テレビを開発できたとしても、人間の視覚認識では最早その違いを判別し難いからだ。その8Kテレビですら、4Kとの違いを直ぐには判別できないというから悩ましい。8Kテレビの最適な視聴距離は、テレビ画面の高さ×0.75とされる。仮に55インチの大きさだと、高さは80㎝程度。その0.75倍となると、最適距離は60㎝だ。そこまで近付かないと、8K映像の持つ臨場感や高精細さを物理的に実感し難いというが、自宅のリビングでそんな距離で画面を見詰める人はいないだろう。その為、8Kテレビは100インチ以上の画面でないと実用に耐え難く、そうなると一般家庭に普及することは先ず無いと言える。「将来のテレビのあるべき姿は未だ描けていない」。パナソニックの津賀一宏社長は、技術が高原状態に陥り、液晶パネルありきのテレビ開発が限界を迎えていることについて、そう率直に語る。価格面で差別化しようにも、コストの7割を占める液晶パネルを外部から調達する今の仕組みでは、それも難しい。これまで、主に地上波の映像を流す“四角い箱”だったテレビは、人々の生活様式の変化と共に、今後どうその形を変えていこうとしているのか。各社とも4Kプロジェクターや3Dホログラム等、新たな可能性を探り始めているが、斜陽事業だけに大きな研究開発投資もできていない。未来の受像機を私たちが見る日は、当分先になりそうだ。

               ◇

■日枝会長が描く“20年の計”…お台場カジノ実現にアクセル
フジテレビご執心の“お台場IR(統合リゾート)構想”。1997年のお台場進出時、日枝久社長(当時)の頭にはカジノ構想があったという。東京都・舛添要一知事の慎重姿勢で消滅も囁かれたが、当のフジテレビは実現への動きを加速させている。2015年3月に、グループ会社のサンケイビルが『グランビスタホテル&リゾート』を買収。同社は洞爺湖サミットで拡大会合の運営を担った実績があり、『鴨川シーワールド』の運営も担う。国際会議等のイベントやシーワールドのような“海洋エンターテインメント”は、日本が目指すシンガポールのIRの特徴で、カジノ招致への布石であることは明らかだ。フジテレビが前のめりになる裏には、沖縄や大阪というライバルの自滅に加え、羽田空港の機能強化もある。国際競争力の強化や急増する訪日観光客の為、発着便の増加が検討される羽田は、お台場とバスで20分の距離。国際的な会議やイベントが収益の柱の1つとなるIRは、国際空港との距離が鍵となる。ライバルである横浜の山下埠頭が同40分かかることを踏まえると、一歩リードという訳だ。何よりの追い風は、IRの“総合エンターテインメント化”だ。ギャンブル依存症の増加を指摘する声を封じるべく、政府は「IRは総合エンターテインメントで、カジノはその1つ」とし、AKB48等との連携も囁かれる。多様なコンテンツを有し、お台場のイベントで400万人を動員するフジテレビには好都合だ。極め付きは『シルク・ドゥ・ソレイユ』。フジテレビが初招致したのは1992年、アメリカで注目される前年だった。このパイプを生かし、目玉にする為の準備なのか、2014年の東京公演からお台場に仮設劇場を造っている。視聴率では敗れても、“20年の計”であるお台場IRは負けられないのだ。 (ノンフィクションライター 窪田順生)


キャプチャ  2015年11月14日号掲載


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