“最後の弟子”が語った真実――没後20年特別ドキュメント! 天才芸人・横山やすしの“最期の800日”

1996年1月21日。今から20年前に“やっさん”こと横山やすしは急死した。知られていないことが沢山ある。死んでから皆が少しずつ話してきたが、未だ全部じゃない。それも、肝心なところが未だである。「やっさんは、何故アルコールに溺れて自滅するように死んでいったのか?」と。 (取材・文/フリーライター 市力)

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「実は、他人と仲良くなろうと常に努めてはったんです。横山やすしという人は」――。これは、横山やすし晩年の2年半、約800日を間近で見た“やっさん最後の弟子”こと横山ひとし氏(46)の証言である。横山やすしが没してから今年で早20年になるが、今や日本人の記憶から彼の姿は薄れつつある。“日本一の天才漫才師”と称されたやっさんの言動・行動はまさに掟破り。デビュー当初から“破滅型芸人”と言われ続けた。横山ひとし氏は1969年7月、京都府生まれ。彼がやっさんへの弟子入りを志願したのは、1993年8月27日のことだ。この頃、彼は既に上京しており、葬儀屋でアルバイトをしながら何かチャンスを狙っているような毎日だった。「師匠を扱った東京スポーツの記事を見て、気付いたらもう受話器を握っていましたね」。当時のやっさんは、前年の8月6日に起きた暴行事件で受けた脳挫傷の後遺症でリハビリを続けている時期だった。ひとし氏が目にしたのは『漫才で復活したる! もう一度、漫才をやりたいんや』という記事で、紙面に掲載されたやっさんの姿とその言葉が胸に突き刺さったという。「お前、何になりたいんや? ボートか? 歌か? 役者か?」。ひとし氏が初めて会った“憧れの人”横山やすしは、最初にこう投げかけてきた。「師匠みたいになりたいんです! 師匠みたいな芸人になりたいんです!」「よっしゃ、お前はマルや!」。晴れて直弟子となったひとし氏は、やっさんの家族の意向等もあって、内弟子ではなく東京-大阪の通い弟子ということになった。「大阪にいる時は、師匠がいいと言うまで帰れないんです。極度の寂しがり屋でしたから。大阪にいる時は、朝から先ず呑みに行って、そこからまた師匠の馴染みの店を廻って、夜中に帰るみたいな毎日でした」。ひとし氏が東京での仕事が忙しく、暫く大阪に顔を出さないでいると留守電が入る。「おーさかの、よ・こ・や・まです…」。自分の身近にいる者が少しばかり姿を見せないだけで、やっさんの寂しさは頂点に達する。しかし、その旺盛な愛情が時に暴発することもあった。やすし・きよしの全盛期に弟子の1人が逃げてしまったのだが、実家に押しかてきたやっさんを見たその弟子は、あまりの恐怖に2階の窓から外へ飛び降りた。「下の路上で苦しんでいるその弟子に向かって、師匠は窓のサッシに足をかけながら、『ドアホッ! もうちょっと遠くへ飛ばんかい! ボケッ! カスッ!』」。しかし、この常軌を逸した行動だけが“破滅型”と言われた所以だったのであろうか。

やっさんは、本名を“木村雄二”という。芸人・横山やすしを知る人は多いと思うが、木村雄二という一個人の素顔を知る人は少ない。彼の幼少期は家族の縁に恵まれず、随分と寂しい思いをしたようだ。「今だから言えますけど、師匠はマザコンだったと思います。酒を呑んで自分の生い立ちの話をして泣いていたこともあって、母親の愛情・家庭の愛情に飢えていたと思います」。このせいか、やっさんの家族愛は尋常ではなかった。「家族といる時が唯一、木村雄二に戻る瞬間やったと思います。特に、末っ子のひかりちゃんのことは溺愛していましたね」。だが、木村雄二という1人の家庭人としての愛情表現は、芸人・横山やすしが顔を出した瞬間に型破りな行動となってしまう。“飛び降りた弟子”の1件のように、噴出する愛情が木村雄二の手に余り、それを横山やすしが引き継いだ途端に暴発する。「家にいる時は、師弟関係を忘れそうになるくらいフレンドリーな人でしたし、表で喧嘩を売られて師匠がキレる前に僕がキレると、慌てて止めに入るような人やったんです」。芸人としての姿が全ての人格だと思っている者たちが木村雄二を傷付け、その行為が横山やすしの神経を逆撫でする。「家を一歩出るなりスイッチが入るんでしょうね。常に横山やすしを演じていましたから」。確かに、この二面性がやっさんの真骨頂ではあるが、同時に生涯を通したジレンマになっていたのではないか。そして、それはやっさんの金銭感覚にも表れてくる。「中卒でも1億稼いどるわ! アホッ! ボケッ! カスッ!」――。これは、『久米宏のTVスクランブル』(日本テレビ系)のレギュラーをやっていた際、番組内の電話相談で学歴社会を嘆く若者に対して発した言葉だ。やすし・きよしの全盛期に、彼は年間5億円以上を稼いでいたと言われる。「やっさんはカネにだらしない」と言う人がいる。確かに、セスナ機等で抱えた莫大な借金の返済を滞らせたことも事実だが、だらしないと言うよりは持ちつけなかったのだろう。「『漫才さえしていれば、カネは後からついてくる』と言っていましたね。中学を出て直ぐ漫才師になって、30代前半には既に億単位のカネを稼いでいた訳ですから。その感覚は抜けへんでしょ」。確かに、世間一般の経済観念など持ち得る筈もない。しかし晩年、木村雄二はも既にあのように稼げないと知っていた筈だ。だが、表で横山やすしを演じている以上、派手に浪費して見せるのも横山流儀であったのだろう。「あの頃、師匠はどうやってカネを稼いではったんか…。偶にイベントなんかに呼ばれましたけど、それほどのギャラとも思えませんしね。若しかしたらいくらか残してはったのか、その辺はわかりませんわ」。それでも、生活費や呑み代に困っている様子はなかったという。「毎日呑みに行ってツケもしないし、小遣いもくれていましたからねえ」。確かに、不動の人気を誇った横山やすしに経済的支援者がいたとしても何ら不思議ではない。だが、それも今となってはその真相を知る術も無い。




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横山やすしが天才芸人であったことは揺るがぬ事実だ。しかし、彼は飽く迄も漫才師であり、それは2人揃って初めて成立する。やっさんがどれだけ優れていても、相方が無能では始まらないし、その才能も埋もれていくだけだ。「師匠は、舞台の時にその土地柄や客層を事前にリサーチして、ネタに入れていましたね。その時々の旬の話題を敏感にキャッチして、瞬間瞬間でネタに反映させながら漫才を作り込んでいくんです。そういう緻密さと瞬発力を潜在的に持ってたからこそ、天才や言われたんやないですかねぇ」。やすし・きよしの創世記に、やっさんはその時に売れている芸人を徹底的に研究し、消去法に依って自分たちの居場所を確実に探し出し、手にした。やっさんが投げたボールを、西川きよしという完璧な相方が拾って投げ返す。そこに、爆笑の無限ループが産まれたのだ。「本当は静かに淡々と酒を呑む人でした。ただ、そんな時に1人ネタを始めることがあるんです。敏感でサービス精神の塊。何でもネタにしてしまう人やったと思います」。西川きよしの参院選出馬から彼の歯車は狂ったと言われているが、致命傷はやはり、自身の吉本興業の解雇であろう。実際、これに依って黄金コンビは事実上の解散となる。「キー坊(西川きよし)と演りたいなぁ」。ひとし氏は、何度もこれを耳にした。きよしの政界入りや自身の吉本解雇は、“漫才師”横山やすしにとって毛足を捥がれるに等しかった。そして、その焦りや寂しさから暴走を始め、最早、内面の木村雄二には抑えられなくなっていたのかもしれない。「結局、師匠は木村雄二と横山やすしを巧く両立できんかったんやと思います」。この言葉通り、二面が一面と一面に別れた時、彼は破滅的な生き方を突き進んでしまったのだろうか。

1992年8月6日、やっさんは何者かに暴行を受け、脳挫傷という重症を負い、一時は失語症になってしまう。事件後、マスコミ各社に依って苛烈な報道合戦が行われ、「犯人は右翼関係者か暴力団員では?」等と様々な憶測を生んだ。「弟子になって暫くした頃に思い切って聞いてみたことがあるんですが、正々堂々、素手の勝負やった。気持よくやったが、行き過ぎた。お互いに納得ずくのことで、『相手の名前は墓まで持っていく』と言っていました」。見ず知らずの相手だとか、集団で暴行を受けたような事実は無いとハッキリ証言したとのことだ。「況してや、『鉄パイプで叩かれたとかいうことはある訳ない』と言うてました。嘘は無いと思いますよ。実は、全部覚えてはったんです…」。そして、やっさんは1996年1月21日、アルコール性肝硬変の為に51歳で死去。多くの謎を、宣言通り墓まで持って行った。荼毘に付された後、一部の遺骨が広島の宮島競艇場で散骨され、残りは分骨された。それでも残った僅かなやっさんの欠片を、ひとし氏が持ち帰った。「未だに、あんな人は出て来ないです。師匠は20年先を行っとったんですわ。それに、実は師匠と僕でコンビを組むことになって、稽古もしていたんです。その前からずっと勉強させてもろてて、それで思い切って『師匠と漫才やりたいんです!』って直談判したんです。そしたら師匠は『そうか、わかった』と言うて、僕のコップにビールを注いでくれました。師匠が亡くなる半年くらい前でしたかね。本当に実現したかった…」。不世出の天才漫才師だった横山やすしの小さな遺骨は、特別に誂えた小さな骨壷の中で、今でも最後の弟子の胸元にぶら下がっている。


キャプチャ  2016年2月号掲載


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