【言論の不自由】(05) 家電売り場に、もう買いたいものが無い

20160217 01
買いたいものが無い。家電量販店の店先で、どうにも物欲が刺激されない。“ヒノマル家電”企業群が、どん底に近付いているからだ。たった2年前でも、状況は全く違っていた。思い返してみると、『NTTドコモ』がiPhone5を発売開始した2013年9月20日に、何かが終わったのかもしれない。あれよあれよという間に国産モバイルメーカーは殆ど撤退し、消費者の選択肢は極めて限られる。嘗ては花形だったパソコンや液晶テレビの売り場も、場末感が漂っている。先ず、問題は『シャープ』である。今更持ち出すのも物悲しいが、吉永小百合が微笑んでいた“世界の亀山モデル”を擁する超優良企業はどこへ行ってしまったのか? 分析はもういい。国内社員の13%に当たる約3200人の希望退職や、阿倍野の本社ビルを『ニトリ』等に売却すると発表する等、決死の頑張りが続くが、「資金ショートは免れない」と噂されている。いつ倒産するかわからず、従業員の環境も荒れている企業の製品を買いたくなる筈もない。どうでもいい個人的な拘泥だが、私はどうしても『Apple』の製品を買いたくない。理由は、スティーブ・ジョブズが1960~1970年代のカウンターカルチャーの最良の部分を企業化して、資本主義社会で成功した人間だからだ。格好良過ぎるのが不愉快な訳で、つまりは男の嫉妬である。ジョブズは、インドでずっとヤクに溺れたままでいてほしかった。だから、スマホはずっとAQUOSを選んできたが、もう心が苦しい。次の機種変更は、気が進まないけれど、『ソニー』のXperiaを選ぶことになるだろう。“おサイフケータイ”機能を使うことで、日本人のアイデンティティーを辛うじて保っている今日この頃である。

ソニーのリストラ話も聞き飽きた。ハワード・ストリンガーや平井一夫という2代のCEOの“ものづくり軽視”路線が生んだのは“キャリアデザイン室(=リストラ部屋)”で、“戦力外”の烙印を押された社員は日々、壁を見ながら社内資料のPDF化で過ごすそうで、7万人リストラしたというのだから気が遠くなる。VAIOブランドも売り、構造改革を進めた成果が出て、今年、漸く黒字が出たのは目出度い限りだが、円安の恩恵もあるし、スマートフォン用のイメージセンサーの好調がどこまで続くのか。何だか、池井戸ドラマの『ルーズヴェルト・ゲーム』のようだが、日本で唯一、Appleになる可能性のあった企業は、もう別物になっている。尤も、ソニーにイメージセンサー事業を200億円で売却する『東芝』の1518億に及ぶ利益水増しには驚いた。『フォルクスワーゲン(VW)』のディーゼルエンジン不正ソフト問題が飛び出して衝撃が薄れたものの、石坂泰三や土光敏夫という2人の経団連会長を輩出した名門企業の威光は地に堕ちた。東芝は、ノートパソコンのdynabookや白物家電の他は、あまり家電は印象に残らず、福島第1原発の事故で原発事業が大打撃を受けたのが不正の原因と言われているが、いったいどう収拾をつけるのか、桁が違い過ぎて想像できない。3億円の損害賠償を請求したとはいえ、引責辞任した筈の西田厚聰・佐々木則夫・田中久雄の歴代3社長は社用車で本社に出勤しているというのだから、まだまだ泥仕合は続くだろう。粉飾決算といえば『オリンパス』である。嘗ての名機であるオリンパス・ペンのメーカーは今や内視鏡が主力だが、デジカメの不振は企業の体力を奪っている。“カメラ女子”ブームも一時。スマホのカメラがここまで進化したら、低価格帯の商品は売れないだろう。私の愛機は『リコー』のGR DIGITAL Ⅳなのだが、同社が極秘の“追い出しマニュアル”を使ってリストラを進めていると知って悲しくなった。そういえば、デジカメ売り場で心躍る新製品をあまり見かけなくなったのも2年ほど前のことだった。




自動パン焼き器や電気炊飯器の進化には驚かされるし、羽根の無い扇風機は面白い。『ダイソン』の掃除機を嬉々として試している主婦を見るのは心温まる光景だが、まあ、メイン商品には成り得ない。4K・8Kテレビの画像は確かに素晴らしいが、50型以上でないと変化を享受できないそうで、収める壁面が無い。「あれだけ大騒ぎした地上波デジタルの後に、大転換を望む人は少ないだろう」という予測で、メーカーも及び腰だという。オリンピックもケチがついてばかりで、スタ ジアムすらどうなるかわからない始末では、“ヒノマル家電”にまで恩恵が及ぶかどうか。“エコポイント”が最後の栄光ならば本当に情けない。『下町ロケット』が当たっている。確かに、ドラマとしては作り込まれていて出来がいいが、あまりに昭和臭いという気がしないでもない。例えば、携帯のバイブ機能を実現した小型モーターのメーカー『シコー』は、Appleの大量受注を受けて『東証マザーズ』に上場し、増産に備えて設備投資をしたら、いきなり切られて倒産した。Appleの厳しい注文と気紛れを知るだけでも、グローバル化した企業がどれだけ厳しい環境に置かれているかがわかる。だから、「買いたいものが無い」。今後は、自動運転の電気自動車がいつ商品化されるかに注目が集まる。家電と自動車のジャンルが近付き、『トヨタ自動車』すら安泰でない時代がもう目前だ。しかし、ハンドルを持たないでいい車が、徳大寺有恒の言う通り、果たして、1967年に出た狭苦しい軽自動車・N360に乗り、初めて旅に出る4人家族の喜びと同等の感動を与えられるのかどうか。今や、人類の想像力が問われている。そして、中国人の楽園と化している家電量販店の店頭もまた、もう一度活力と好奇心の温れる空間として甦ることを、一家電愛好家として望みたい。


風上太郎(かざかみ・たろう) フリーライター。1960年、東京都生まれ。秋葉原好きを拗らせ、家電量販店の店頭を観察し続けて今日に至る。ホームグラウンドは『ヨドバシカメラ』マルチメディア吉祥寺。


キャプチャ  2015年12月号掲載




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テーマ : 経済
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