【経済の現場2016・マネー迷走】(01) マイナス金利スタート…「影響は?」、金融機関に衝撃

『日本銀行』は、“マイナス金利”という未踏の領域に踏み込んだ。景気浮揚への乾坤一擲の策と言えるが、海外経済の低迷に押し流され、今のところ、市場の動乱を止める特効薬にはなっていない。早くも試練に直面している日銀。原油安や中国経済の減速等で冷え込んだ投資家心理を好転できるのか? そして、マネーの世界に何が起きているのか? “経済の現場”を追った。

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今月上旬、メガバンクの経営会議で指示が飛んだ。「一体どういう影響が起こるのか、全部洗い出せ!」。日本の金融市場初の事態に、金融機関に衝撃が走った。日銀の試算では、260兆円の当座預金のうち、マイナス金利の適用対象は当面、10兆円程度に過ぎない。それでも波紋が広がった。「手数料を取られるよりはマシだ」と考えた銀行の資金は、国債に殺到した。世界市場の動乱も安全資産としての国債人気を高めた。国債の価格が上がれば、投資額に対する儲けの割合を示す利回りは下がる。長期金利は、9日に初めてマイナスを記録した。投資家には、「日銀が高い値段で買ってくれるので損はしない」との安心感がある。銀行のディーリングルームは騒然となった。日銀の狙い通り、世の中の金利は下がり始めた。週末の13日、『新生銀行』の東京住宅ローンセンター(東京都中央区)は、相談窓口の予約が満席となった。神奈川県川崎市に一戸建ての新築を予定する自営業の柿内暢昌さん(36)は、妻の由貴さん(32)と訪れた。「半年前よりも金利が下がっている。できるだけ安く借りたい」。資金を調達して海外IT企業に積極的に出資している『ソフトバンク』グループの孫正義社長も、「我々にとって有難い」と歓迎する。だが、企業の大半を占める中小企業に恩恵が及ばなければ、景気を刺激する効果は十分ではない。墨田区の金属加工会社『浜野製作所』。浜野慶一社長(53)は言う。「安定的に受注できる仕事が少なくなっている。今後は、金利が低くても借り入れには慎重にならざるを得ない」

「何があったのか?」「どんな影響が出るのか?」。日銀がマイナス金利の導入を決めた先月29日。メガバンクのニューヨーク支店に、アメリカの投資家から問い合わせが殺到した。日米の金利差が広がる為、円相場は一時、1ドル=121円台まで円安が進み、円安に依る企業収益の改善を期待して株価も急反発した。狙いは的中したかに見えた。だが、“サプライズ緩和”の効果は一瞬だった。今月に入り、ヨーロッパでは世界有数の金融機関である『ドイツ銀行』の経営不安が浮上した。原油安も止まらず、不安心理が世界を覆う。日銀のマイナス金利導入に依って、日本国債の金利は下がった。通常なら、金利が低くなった通貨は売られ、円は安くなる筈だ。しかし、そんな理屈を吹き飛ばして、円相場は1ドル=110円台まで急騰した。日経平均株価(225種)の年明けからの下落幅は3000円近くに達している。「世界中の投資家が、必要以上にリスク回避に動いている」。今月2日、ニューヨークで講演した日銀の中曽宏副総裁は、市場の反応に苛立ちを隠せない。マイナス金利の狙いは、企業がお金を借り易くすることで景気を下支えするものだが、企業の現場ではそれ以上に世界経済の変調が重く伸し掛かる。墨田区で鋳造業を営む『東日本金属』では、昨年10月頃から、それまで粗毎日あった残業が無くなった。中国の景気減速等が主因だという。鋳造部門主任の小林亮太さん(34)は、「小さな町工場は、これからより厳しくなる」と話す。




「国債を買い増す現在の金融緩和が限界に近付いているとの声に対する答えだ。“武器”が増えたことは大きい」。マイナス金利の狙いを、日銀幹部は解説する。黒田東彦総裁が拘ったのも、「政策の余地を広げる」という点だった。年明け以降の急激な株安・円高に対し、日銀は動かない。これ以上、事態を放置すれば経済の悪化に繋がる――。そんな見方が広がった。「仮に、追加の金融緩和をやるなら、何ができるか考えてほしい」。先月21日、スイスで開かれる『世界経済フォーラム』の年次総会(ダボス会議)へ旅立つ直前、黒田総裁は幹部を自室に呼び出した。本心は明かさなかったものの、総裁の本気度を周囲は感じ取った。金融政策の実務を担う日銀企画局の職員らは、マイナス金利を導入済みの『ヨーロッパ中央銀行(ECB)』等と、現状や課題について密かに意見交換を続けた。だが、ECBは日銀と違って、金融機関から大量の当座預金を預かっていない。ECBのようにマイナス金利を“全ての当座預金”に適用すれば、銀行の経営に打撃を与える恐れがあった。参考にしたのが、日銀と似た状況にあるスイスだ。適用範囲を限定すれば銀行に大きな負担をかけず、政策効果も期待できる。帰国した黒田総裁は25日、事務方から説明を受け、腹を固めた。「総裁は、今の金融市場の混乱が一時的なショックではないことを強く感じて帰ってきた」(関係者)。参加者の危機感が浮き彫りになったダボス会議での議論も、決断を後押しした。

先月29日。日銀の金融政策決定会合は荒れた。総裁・副総裁2人・外部出身の審議委員6人の計9人が多数決で決める仕組みだ。「マイナス金利が実体経済に大きな効果を齎すとは判断できない」「回復基調は悪化していない」。マイナス金利の導入案に反対意見が相次いだ。それでも、黒田総裁の決意は揺るがなかった。結果は、賛成5・反対4の僅差。1票差での可決は、2014年10月の追加緩和以来のことだった。だが、市場は容赦なく“反対票”を突きつけた。円安・株高を演出してきたアベノミクスに黄信号が灯る事態に陥った。安倍首相は今月15日、国会で「日本経済の基礎的条件は確かなものだ。株価の動向に一喜一憂すべきではない」と言うのが精一杯だった。日銀の誤算は重なる。堅調に見えたアメリカ経済に陰りが生じていた。『アメリカ連邦準備制度理事会(FRB)』のイエレン議長は「海外経済の変化がアメリカの成長にとってリスク」と述べ、利上げのペースを緩やかにする考えを示唆した。それがドル安・円高の一因になった。ギリシャの債務危機で揺れたヨーロッパ経済も、低空飛行が続く。ECBのドラギ総裁は今月15日の議会証言で、「ユーロ圏経済は緩やかに回復しているが、投資は依然弱い」と語った。ECBは、来月にも追加緩和する見通しだ。試練を迎える日米欧の中央銀行。日銀に“次の手”はあるのか? 市場は、来月の追加緩和に目を向け始めた。


≡読売新聞 2016年2月17日付掲載≡
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