【言論の不自由】(06) 全国どこでも“運賃上限3000円”プラン

20160221 01
政府は“地方創生”の笛を吹くが、東京一極集中は一向に止まる気配が無い。総務省が公表した昨年10月1日時点の推計に依れば、人口増加率は東京都が全国1位だ。人口増加率が前年を上回ったのは東京圏(東京・神奈川・埼玉・千葉の4都県)だけであった。これに対し、「消滅する」と名指しされた自治体は、「人口減少に歯止めをかける」としゃかりきだ。とは言え、全体のパイが縮むのに全てが“定住人口”を増やせる訳はなく、一部では諦めムードも漂う。だが、知恵を絞れば人口減少社会の風景はまだまだ変えられる。その方策の1つとして、公共交通の大幅値下げを提言したい。郵便は82円で全国どこにでも定形の封書が届く。これに倣って、運賃も“片道上限3000円”で日本中どこにでも行けるようにするのである。鉄道も航空機も“片道上限3000円”ならば、人々の移動は活発化するだろう。“消滅”が言われる地方に、定住人口の減り分を埋めて余りあるほど人々が訪れるようにすることで、“存続自治体”に転じさせるのだ。日本列島を縦横無尽に人々が動き回るようになれば、経済は活性化し、社会に活力が漲る。“地方”の既存概念を根底から打ち崩す挑戦でもある。運賃については、既に交通各社が割引サービスを展開しているが、早期の予約を要したり、当日の空席状況に左右されたりと、使い勝手は決してよい訳ではない。これを“安い運賃”をスタンダードとし、一部を別料金が必要な“特等席”として残す形に改める。運賃が安くなれば観光客が増えるだけでなく、“2地域居住”も加速するだろう。こうした交流人口が週末にボランティア活動や街作りに参加するだけで、地域は大きく変わる。2027年の開通を目指すリニア中央新幹線は東京-名古屋間を40分で結ぶが、片道3000円以内ならば街として一体化しよう。航空機も羽田-福岡間が安くなれば、週末毎に帰省して実家の老親の生活サポートをするというライフスタイルも可能となる。

ビジネスシーンだって大きく変わる。東京と長野が片道1000円ならば、サテライトオフィスが続々誕生するだろう。大自然の中で趣味を満喫し、或いは子育てに積極的に参加しながら働き、週に何度か東京本社の会議に顔を出すといったことも当たり前となろう。企業は全国各地に支店網を築く必要が無くなり、軈て“転勤”や“単身赴任”が死語となる日が来るかもしれない。地方移住に対するハードルもぐっと下がる。いざ決断をしようとなると、親戚付き合いや交友関係が途切れることが不安となり、二の足を踏む人は多い。慣れた都会墓らしを完全に断ち切るのではなく、「しょっちゅう都会に戻って知人たちとの会話を楽しみ、コンサートや演劇を鑑賞したい」というのが本音だ。「偶には、ネオン街の馴染みの店に行きたい」と言う人もいよう。交通費が安くなれば頻繁に往来ができ、「都会と繋がっている」という実感が持てる。遠距離に住む家族の交流も活発になろう。北海道に住む娘一家が、月に2度は孫を連れて大阪の実家に帰ってくるといった場面が珍しくなくなるかも知れない。上限3000円と聞いて、「突拍子もない話」と感じた人も多いだろう。だが抑々、人口減少社会において公共交通機関は変化を迫られている。これまでは、利用者が減ると運賃を上げ、それが更なる乗客減少を生むという悪循環を繰り返してきたが、総人口が減少すれば乗客は嫌が応でも減る。しかも、半数近くを高齢者が占める社会だ。年金生活者が高い運賃を払ってそうそう遠出できる訳はなく、こうした層が利用し易い料金設定とすることは、乗客数確保の上で極めて重要なのである。運賃値下げの必要性は、長距離交通に限った話ではない。人口が大きく減る地域にとっては、寧ろ“住民の足”の確保が重要だろう。地方都市が生き残るには、“街の賑わい”を維持するコンパクトな街作りが不可避だ。人々が歩ける範囲で殆どの用事を済ませられるようにする構想だが、それには市内各地からのアクセスが便利でなければならない。




現在、多くの地域では鉄道やバスを乗り換える度に別料金を払うことから、少しの移動でもあっという間に累計が1000円を超す。結果として「自家用車が手放せない」となり、人口が減るにも拘らず、駐車スペースが豊富な郊外型開発が続くことになる。こうした状況を打開し、コンパクトな街作りにシフトするには、市内各地から中心市街地に出掛ける際の公共交通料金を“1回100円”や、“何度乗り換えても同一運賃”とすることだ。最大のハードルは、運賃を低廉化する為の財源である。交通事業者の経営努力に期待したいところだが、公費に頼らざるを得ない。勿論、捻出は簡単ではなく、「行政が関与して公費を投入すれば、事業者の赤字体質を招くだけだ」との批判もあろう。だが、日本が大きく縮み行く中で、施設建設・維持管理・運行に至るまで、全ての費用を交通事業者が運賃収入のみで賄うことには無理がある。海外には、公共交通機関のサービスレベルを向上させる為に、自治体が一般会計の1割程度の予算を割いている例もあるという。公共交通事業単体での黒字を目指すのではなく、社会全体が“黒字化”するような発想の切り替えが必要なのだ。このまま東京一極集中に歯止めがかからないとすれば、政府は更に地方創生の為の税金投入を続けるだろう。それでも多くの地方が“消滅”してしまえば、結果としてその予算は無駄となる。地方の衰退は農業の破綻とも直結する為、政府は食糧確保のコストも増やさざるを得ない。東京の高齢化は確実に進むことから、その対策コストも新たにかかる。こうしたことに要する財源と、運賃低廉化の為の費用を天柄に掛けたら、社会全体としてどちらが効果的・効率的かわからない。公共交通機関は国家の基幹である。鉄道や航空機、更には地域の足となるバス路線等の存廃は戦略的に決定すべきだ。“全国どこでも上限3000円プラン”は、激変期にある日本社会の作り替えの一歩である。生半可な発想の転換では、人口激減時代を乗り越えることはできない。


河合雅司(かわい・まさし) 産経新聞論説委員・拓殖大学客員教授・大正大学客員教授。1963年、愛知県生まれ。中央大学卒業後、『産経新聞社』に入社。政治部記者として歩む。内閣官房有識者会議委員・厚生労働省検討会委員・農林水産省第三者委員会委員等を歴任。専門は人口政策・社会保障政策。著書に『日本の少子化、百年の迷走 人口をめぐる“静かなる戦争”』(新潮選書)。共著として『中国人国家ニッポンの誕生 移民栄えて国滅ぶ』『地方消滅と東京老化 日本を再生する8つの提言』(共にビジネス社)等。


キャプチャ  2015年12月号掲載
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