【経済の現場2016・マネー迷走】(03) 原油覇権争い、消耗戦

20160221 06
「GOD BLESS MIDLAND(ミッドランドに神のご加護がありますように)」。石油産業が盛んなテキサス州ミッドランド市。原油やガスの価格を知らせる電光掲示板には、“街の祈り”を込めるような言葉が流れる。幹線通り沿いには、アメリカを一大産油国に押し上げた“シェールオイル”開発に使う掘削機械が放置されていた。地元で石油会社等に地図を販売するトーマス・ノイベルトさん(66)は、「開発は殆ど止まった。地図の注文も減ったよ」と諦め顔だ。街中の活気は急速に失われつつある。イタリア料理店の支配人であるブライアン・バースさん(36)は、「平日の売り上げの落ち込みが酷い。勤務時間を短くしたり、賃金を引き下げたりして、何とか従業員を雇っている」と嘆く。そして、こう続けた。「ワインをボトルで注文していた客も、グラスで注文するようになった」。代表的な原油の指標であるテキサス産軽質油(WTI)の価格は、1バレル=150ドルが近かった最高値(2008年)から30ドル前後に下落した。採算が取れるのは50~80ドル程度との試算もあり、大半のシェールオイル業者は採算割れと見られる。ミッドランド市の昨年12月の売上税(日本の消費税に相当)の税収は、1年前より約4分の1減った。開発会社の多くは、金融機関からの融資の借り換えを4月に迎える。お金を借り続ける為、法律事務所の『へインズ・アンド・ブーン』には、シェール開発会社から「設備投資を削減したい」といった相談がひっきりなしに舞い込む。バディー・クラーク弁護士は、「とても忙しい。皆、原油安が短期間で終わるよう願っていたが、そうならなかったからね」と話す。2000年代半ば以降の“シェール革命”は、世界の原油市場を一変させた。今では、原油の生産量でアメリカはロシアやサウジアラビアと粗肩を並べる。アメリカの原油生産の半分近くをシェールオイルが占めるまでになった。そんな現代版“ゴールドラッシュ”に沸いたシェールオイル業界も、原油安で危機に直面した。ただ、「原油価格が上がれば業者が井戸の掘削を再開して、また生産量が増える」との声は強い。掘削コストの削減や技術革新への取り組みが進み、生産量は市場の予想ほど減っていない。テキサス州の開発会社『アプローチ・リソーシズ』のセルゲイ・クリロフ上級副社長は強気だ。「破綻してもオーナーが交代し、より健全な会社として戻ってくる。シェール革命は強力になることはあっても、死ぬことはない」。

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アメリカの石油業界は生き残りを目指し、国内より高値での販売が見込める輸出にも目を向け始めた。輸入の約8割を中東に依存する日本にとっては好機でもある。「品質に問題は無かった」「それなら、アメリカからもっと原油を輸入するか検討しよう」――。東京都港区にある『コスモ石油』本社。今月8日に開かれた社内会議で、担当者ら約20人が調達方針を話し合った。コスモは先月、アメリカから原油等100万バレルの輸入を決めたばかり。中東よりも遠い北米は船賃が高くなる。「それでも、安く買える可能性がある。安い時に直ぐに買える場所を増やしたい」(原油外航部の中山真志部長)。日本経済にとってはプラスとなる原油安。この状態は、いつまで続くのか。鍵を握るのが、原油市場を牛耳ってきた『石油輸出国機構(OPEC)』だ。嘗ては5割を大きく超えていた市場での占有率は、約4割まで低下している。減産に応じなければ原油安が止まらず、原油市場で覇権を争うアメリカを追い込める。そして、存在感を取り戻す。これが、OPECの盟主であるサウジアラビアが描く戦略と言われる。だが、アメリカの粘りは想定以上で、サウジアラビアには誤算だった。欧米に依る経済制裁が解除されたOPEC加盟のイランも、国交を断絶したサウジアラビアへの不満を隠さない。「経済制裁を受けている間に一部の国が生産を増やし、原油安の原因を作った。その代償を払う為に、何故イランが(増産凍結に)協力しなければならないのか」。ロイター通信は今月17日、イラン政府高官の発言をこう伝えた。原油安は“経済”とは離れ、国際的な“政治”のパワーゲームの材料と化している。解決の糸口は見えず、原油価格の低迷が長期化するとの見方が強まっている。


≡読売新聞 2016年2月19日付掲載≡


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テーマ : 経済・社会
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