「温排水が漁獲量を減少させる」――浮き彫りになった川内原発再稼働の影響

政府は、『原子力規制委員会』が新規制基準に適合すると認めた原発を再稼働させる方針で一貫している。原発は、地域住民に何を齎すのか? “第1号”となった九州電力川内原発の周辺住民の声から考える。 (取材・文/毎日新聞鹿児島支局 杣谷健太)

20160223 05
昨年8月、東京電力福島第1原発事故後の新基準下では国内で初めて、九州電力川内原発1号機が再稼働した。続いて2号機も10月に再稼働し、鹿児島県薩摩川内市は福島原発事故前の姿に戻ったが、住民の間で原発事故前から抱えていた問題が再燃している。川内原発1号機の再稼働2日前の8月9日。約2000人が約2kmをデモ行進した。その中には漁師の姿もあった。原発からの最短距離5kmに位置するいちき串木野市に住む室園栄一さん(67)は、力を込めた。「原発の温排水で海藻が無くなり、貝類もいなくなった。原発が止まってからは海藻が増えてきたのに、何故また動かすのか」。これまで、原発から海に放出される温排水に依る漁への影響は、市民団体からも指摘され続けてきたが、具体的に証明するには至っていなかった。九電は、温排水の海洋生物への影響を否定する。「定期的にモニタリング調査をしている。プランクトンや海洋生物の生息調査もしており、海洋への影響は少ないと確認している」という立場だ。川内原発1号機が再稼働した直後の9月、地元の出版社『南方新社』から『原発に侵される海』という本が出版された。著者は、長年に亘って原発の温排水問題を調査してきた東京海洋大学の水口憲哉名誉教授だ。「原発事故後に色々な研究結果が出てきたことで、原発が海洋生物に与える影響が見えてきた」と語る。水口教授が問題にするのが、“温排水”という言葉だ。原発から出る大量の温排水で海が温められ、局地的な温暖化状態になることに依り、本来の生態系とは違う魚が生息することが知られている。これだけでも“環境への影響”と言えるが、水口教授は「温度だけが問題ではない。“温廃水”だ」と強調し、①廃熱②塩素ガス③金気④取水に依る連行――に依る複合汚染を挙げる。“取水に依る連行”は、遊泳力の無い稚魚が原発に吸い込まれていく現象だ。2008年、イギリスの新聞『タイムズ』に、『原発がドーバー海峡から海の生き物を吸い取っていると研究者が警告』との見出しで、取水に依る連行を警告する記事が載った。川内原発1・2号機は、毎秒計125トンもの海水を取り込み、排出している。生息するプランクトンや小魚等、様々な生物を大量に吸い込んでいる。

そこで水口教授は、2013年に発表された川内原発の南に位置する“吹上浜”の3地点での稚魚採取調査(2006~2007年に実施)結果や、アメリカの取水に依る環境影響調査を分析した。例えばカタクチイワシは、吸い込まれる数は多いが、周辺海域から入ってくる魚も、それを維持する母集団となる群れも多い為、減少していないように見える。一方で、キスの一種であるシロギスは取り込まれる量が圧倒的に多く、減少するだけだ。問題は取水だけではない。川内原発から南の“南薩摩”では、回遊魚であるクロマグロの未成魚・ヨコワが取れなくなっている。ヨコワは、日本海生まれと太平洋生まれのものが、薩摩半島の南を回って太平洋側へ出て北上すると考えられている。その為、五島(長崎県)と南薩摩の漁獲量には相関関係があり、五島でよく取れる年は南薩摩でもよく取れた。川内原発1号機が1984年に稼働し、1986年以降は五島の漁獲量に拘らず、南薩摩は低水準だ。川内原発で事故が起きた場合、放射性物質は海にどのように拡散するかについて、九州大学の広瀬直毅教授が福島原発事故後にシミュレーションを実施した。ヨコワの遊泳経路を知る為に標識を付けて放流し、再び捕獲する調査では、ヨコワが甑島海峡より南に行っていないことが明らかになっている。水口教授は、シミュレーションと標識放流調査を合わせてヨコワの行動を分析した。すると、放射性物質が広がると想定される範囲と、ヨコワ南下の限界地点が粗重なった。現在、原発から排出されている温廃水についての放射性物質濃度は、国の基準を下回っている。また、温廃水に含まれている有害物質の拡散範囲についてのデータは無いものの、水口教授は「海流等を基にした放射性物質の広がりは、有害物質にも応用できる」という立場だ。「五島から南下してきたヨコワの多くは、南薩摩に行き着く前に温廃水に撥ね返されるように引き返さざるを得ない状態になっている」と指摘する。九電は有害物質のうち、塩素の影響について「常時監視しており、1リットル当たり0.01mg未満となるよう管理している」とする。また、薩摩川内市民の中にも「チリメン漁はできているし、影響は無いだろう」と話す人もいる。水口教授も九電も、海水中の金属含有量の調査等はしておらず、海水について直接科学的なデータがある訳ではない。しかし水口教授は、漁獲量や魚の行動が川内原発に依って変化していることを提示しており、少なくとも「海洋への影響は少ない」という九電の主張を覆す材料になっている。「温廃水の影響は、魚種に依って全く違う。1つひとつの魚種について影響調査をしなければいけない」という水口教授の主張は、傾聴するべきだろう。




原発は、厳しい財政事情に悩む自治体にとって、明るさを齎している部分も確かにある。薩摩川内市は、2014年度の原発関連交付金13億6650万円の約8割を人件費に充てている。原発関連交付金が市の財政に占める割合は3%程度。しかし、義務的経費は簡単には削れない。市が昨年5月に作成した“公共施設白書”に依ると、耐用年数を考慮した今後40年間の公共施設の建て替え・更新に必要な費用は、総額約2620億円に上る。年間約66億円の計算となる。市は、「66億円を投じることはできない。施設の機能集約等の必要がある」と説明する。原発の運転期間は、原子炉等規制法で原則40年と決められている。安全性が確認されれば、1度だけ最長20年延長できるものの、川内原発1・2号機は共に残り30年で“60年”を迎える。財政的に行き詰まれば、市は「新たな経済活性化の為」として、福島原発事故後に凍結された3号機増設計画を求めることも考えられる。元川内原発次長で、市に48ある地区コミュニティー協議会連絡会長の徳田勝章さん(77)は、今後の市の在り方を強く懸念する。「今の行政の進め方では、『3号機増設しかない』という話になりかねない。地元にメリットは何も無い」。原発は、地元に何を齎しているのだろうか? 山之口自治会長の川畑清明さん(59)は、「原発があることで、『町をどうするかについて皆で知恵を出そう』という意識にならない」と再稼働後の町の現状を嘆く。原発には“明るさ”と、市民の活力を奪っているという功罪がある。「市民運動で廃炉を勝ち取って、廃炉の先進地にすることで活路を見い出すべきだ」。福島後の再稼働“先進地”では、以前は上がらなかったそんな声が確実に増している。多くの原発が止まっている今は、そういった声に耳を傾け、原発ありきの街作りから新たな可能性を探るチャンスとも言える。再稼働は、それからでも遅くはない。


キャプチャ  2016年2月2日号掲載
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