【言論の不自由】(07) ミニマリストとコスパ男に未来はない

20160224 01
世に貧乏具い話柄がある。貧乏は構わない。でも、“清貧の思想”等と開き直られると片腹痛い。そして、似たような話が繰り返されるのが常である。巷に“ミニマリスト”と称する種族がいるらしい。美術にも建築にも音楽にもミニマリズムはあるから、最初は正体不明だったが、どうやらモノを持たない幕らしを表看板にしている。「断捨離からミニマリストへ」という謳い文句が躍る『ぼくたちに、もうモノは必要ない。』という本の表紙は、粗ノートPCだけのガランとした部屋の写真が使われている。夏ならば兎も角、晩秋の雨のタ方など、さぞかし寒々しいだろう。微妙なラインだが、まあ『人生がときめく片づけの魔法』までは許せる気がする。誰しも、決して整頓されることのない部屋の中で「全部捨ててやれ」とむかっ腹が立ったことはあるだろう。“断捨離”にしても、仏教調のネーミングが少し倫快だった。 しかし、「モノが少ない、幸せがある。」と自分に言い聞かせているミニマリストにどんな未来が待つというのか。「結婚もしておらず、いい年の割に大したお金も持っていない。僕のことを『この負け犬が!』と思う人もいるだろう」と言うのだから、ちゃんとわかっている。クローゼットにほんの少ししか洋服がなく、テレビも本棚も無い(スマホで全部賄えるらしい)暮らしで幸福を味わっている若者…。“シンプルライフ”御用達のスティーブ・ジョブズやへンリー・デイヴィッド・ソローを引き合いに出すのも、貧相さがより際立つ。

テレビやブログでピカピカの床だけが目立つ部屋を見る度に、衰え切った欲望にげんなりする。夫婦でミニマリストという人々もいて、エコでシンプルな暮らしぶりの自慢に熱心だが、ちまちましているだけで全然羨ましくない。“爆買い”する中国人でもあるまいし、今時、物欲ギラギラの日本人など、あまりお目にかかったことがない。“中道ミニマリスト”を自称する編集者の佐々木典士氏(36)は「モノを写真に撮ってから捨てた」と言うが、その画像をどんな顔つきで見るんだろう。何れにせよ、欲望から逃れ切っている訳でもない。そして、勝手な想像だが、若しミニマリストが悦に入るような空間の中で「結婚ってコスパが悪いでしょう?」と嘯かれた日には、もう気分は地獄に直行である。元凶は大体『AERA』にある。確かに、結婚を費用対効果という観点では考えることはなかった。尤も、家柄の釣り合いや収入格差で現実的判断を下していたのだから、“コスパ”を忘れていた訳でない。問題の特集を読んでみると、別に“コスパ男”の生態が暴かれている訳ではない。寧ろ、「社会の中で揉まれた自活し得る女性との“恋愛”があまりにハードルが高い」という話が書かれている。キャリアアップを迫られながら仕事に忙殺される日々の中、テレビドラマのような恋愛などできず、況してや結婚というゴールなどあり得ない。“嫌婚”という愚痴が本音のようだ。平成24年版『子ども・子育て白書』に依ると、2022年時点で、50歳までに一度も結婚したことの無い“生涯未婚率”は、男性は20.14%・女性は10.61%で、過去最高を記録したという。年を追って、数字は上がっていくだろう。




あの分厚い結婚情報誌『ゼクシィ』の気の遠くなるほど事細かな結婚までの段取りを瞥見すれば、当然かもしれない。「一人口は食えないが二人口は食える」という牧歌的な時代は遠い昔。ミニマリストは、厄介になり過ぎた世間に対して、体裁良く降りる“イデオロギー”で武装した訳か。序でにAERAにケチを付けておくと、「受験に恋愛は無駄です」という攻め方も出てきた。あの“灘→東大理Ⅲ”3兄弟の母である佐藤亮子ママの『受験は母親が9割』の話である。何しろ、「3歳までに絵本1万冊を読み聞かせる」、「試験会場近くのホテルを1年前から確保する」という“プロママ”だから凄まじいが、闘志はAKBの如く“恋愛禁止”に向かっている。あまりに頑張り過ぎる母親に皆がドン引きしていたが、22歳の次男がフェイスブックで、「つまるところ子供自慢が行き過ぎてしまったようです。子供自慢は親なら誰しも当たり前でしょうが、自慢は行き過ぎると嫌味になりかねません」と冷静に反応したおかげで貧乏臭さから脱した。3兄弟がマザコンで恋愛不能に陥らないことを祈る。東大と言えばついつい、尾崎放哉のあの名句を思い出してしまう。「咳をしても一人」。放哉は東京帝国大学法学部卒。通信社や保険会社に勤め、一旦は出世コースに乗ったものの、酒癖の悪さや病気が重なり、妻にも逃げられてしまう。無所有を奉ずる『一燈園』に身を寄せたが、安住の地とならず、寺等を転々とした挙げ句、小豆島の庵で41歳の生涯を終えた。確かに名句は生まれたけれど、放哉は厄介な性格過ぎて、“1人”になる“ミニマリズム”の極致のような生き方が望みだったのか。どうせ死ぬ時は1人。墓には何も持っていけない。所詮凡夫、いっそ煩悩に塗れたほうが清々しい。


川東吉野(かわひがし・よしの) フリージャーナリスト。1961年、兵庫県生まれ。早稲田大学文学部卒。昭和文学愛好家。趣味はJR中央線沿線探訪。


キャプチャ  2015年12月号掲載
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