【経済の現場2016・マネー迷走】(05) ドル高、アメリカに逆風

20160226 08
イリノイ州イーストピオリア。アメリカを代表する企業で建設機械大手の『キャタピラー』本社に近く、同社の工場やオフィスビルが集中する。女性社員が肩を落とした。「グローバル企業なのに、リストラが続いてびっくり。同僚が辞めるのは残念よ」。キャタピラーは先月末、追加リストラ策を社員に通知した。イーストピオリアでも建設・掘削機械の部品工場が閉鎖され、約3100人の従業員のうち、1割以上が異動か解雇になる。地元商工会議所のリックスワン常任理事は、「取引先も多く、地域に影響が出るのは心配だ」と語る。ドル高・資源安・新興国の減速という三重苦が名門企業に襲いかかる。新興国での建設ラッシュや鉱山開発ブームに乗って売り上げを伸ばしてきたが、昨年10~12月期連結決算で純利益が赤字に転落した。昨年から全世界で約1万人減らしている。ダグ・オーバーへルマン会長兼CEOは、「今年も難しい状況だ」と話す。底は見えない。『Apple』のティム・クックCEOは先月26日、昨年10~12月期決算の記者会見で悔しさを滲ませた。「通貨の変動が無ければ、売上高は50億ドル(約5600億円)多かった筈だ」。2008年の金融危機後、一時は10%に達したアメリカの失業率は4.9%まで低下した。皮肉にも、景気の改善が“ドル高”を齎す。ドルは、主要国の通貨に対して軒並み値上がりしている。この1年で、対レアルで約4割上昇した。対円では、2年前と比べて1割以上のドル高だ。ドル高はアメリカの輸出産業に逆風となる。昨年、アメリカの輸出額が6年ぶりに減少したのは、海外経済の不振に加えて、ドル高の為でもある。現地通貨で販売した商品の収益をドル換算すると目減りする為、決算にも響く。クック氏が嘆く。「1年前に海外で稼いだ100ドルの収入は、今は85ドルにしかならない」。主要国で金融政策の方向が異なるのもドル高の一因だ。『ヨーロッパ中央銀行』や『日本銀行』が金融緩和に動く中で、『アメリカ連邦準備制度理事会(FRB)』は昨年末、景気の過熱を警戒して7年間続けた事実上のゼロ金利政策を止め、利上げに転じた。金利が高い通貨は買われ易いが、マネーの動きは予想を超えた。FRBのイエレン議長は今月の議会証言で、「ドル高がここまで進むとは想定していなかった」と認めた。

不満の矛先はFRBに向かい始めた。共和党のトゥーミー上院議員は、「世界は、一段と過激な金融政策を求める新たな時期に突入した。通貨を安くした国が勝利する“通貨戦争”の最中にある」と危機感を示す。11月のアメリカ大統領選に向けて、為替に関心の低いアメリカの世論にも変化が見られる。共和党指名候補争いでリードする不動産王のドナルド・トランプ氏。集会では、「日本は通貨の価値を下げている。コマツ製を買わせ、キャタピラー製を買えないようにしている」と繰り返す。他国の通貨安を批判し、「強いアメリカを取り戻そう」との訴えが支持を広げている。アメリカの国内総生産(GDP)の約7割は個人消費が占める。昨年の新車販売が過去最高を更新するなど堅調さを示すが、異変の兆しも垣間見える。“セレブ”が高級別荘を構えることで有名なニューヨーク州ハンプトン。ここでは、超高級住宅の価格が値崩れする。業界調査では、特に価格が高い住宅に限れば1年前より20%近く下落した。映画俳優らを顧客に持つ不動産ブローカーのリンダ・ホージェビックさんは、「富裕層は(株等の)金融資産が減り、様子を見ている」と話す。ダウ平均株価(30種)は、昨年半ばにつけた1万8000ドル台から10%弱値下がりした。アメリカでは、10%の株価下落が個人消費の伸び率を0.4ポイント押し下げるとの試算もある。競売大手の『サザビーズ』では、オークションへの出品が減った。美術品部門を率いるエイミー・カペラッソさんは、「美術品は、先行きが見通せない時期ほど買い手が現れる資産だが、売り手が自分の判断に自信を失っているようだ」と話す。小売り世界最大手の『ウォルマートストアーズ』は、アメリカ国内で154店に上る大規模な閉店に踏み切った。FRBは当初、今年中に4回で1%程度の利上げを模索していた。シナリオは早くも修正を追られ、「次の利上げが翌年になる」との予想が出始めた。サマーズ元財務長官は、利上げの時期について「FRBは間違いを犯した」と手厳しい。日本やヨーロッパに比べて堅調と見られていたアメリカの足取りが重くなれば、世界経済は牽引役を失う。市場の動乱は、そうした不安心理を映し出している。


≡読売新聞 2016年2月23日付掲載≡


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テーマ : 経済・社会
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