【政治の現場・参院選の焦点】(02) 合区救済、業界票頼み

20160227 08
“最後の清流”と言われる四万十川の下流に程近い高知県四万十市内のJA支所に今月18日、参院選比例選に出馬する前高知県議の中西哲(64)が訪れた。「徳島との合区のせいで比例選に回ります。高知の自民党代表は私1人ですんで、宜しくお願いします」。特産の柚子の出荷に追われる選果場にも足を運び、中西は「お仕事中すみません」と頭を下げながら、箱詰め作業に勤しむ女性らと握手して回った。夏の参院選で“徳島・高知”“鳥取・島根”は選挙区を統合する合区となり、選挙区から候補者を出せない自民党高知県連は、中西を比例に転じさせた。タレント候補のような知名度もなく、業界団体の組織内候補でもない中西が、全国から票を集めるのは至難の業だ。活動は自ずと高知が中心になる。2001年の比例選から、党毎に候補者名の票が多い順に当選が決まる“非拘束名簿式”が導入された。地元票だけでは当選ラインに届かない為、党本部は“苦肉の策”を打ち出した。合区で選挙区候補が不在となる高知・鳥取の“比例救済候補”に、有力支持団体の組織票の一部を回してもらい、票の積み上げを図る作戦だ。2013年比例選の自民党当選者のうち、最少得票は7万7173票だった。『全国農業者農政運動組織連盟(農政連)』や『全国郵便局長会(全特)』等に四国・中国の票の振り分けを要請し、地元票と合わせれば、当選ラインを上回る15万票以上を獲得できると見込む。だが、現場は計画通りに進んでいない。農政連の徳島・愛媛・島根・香川の各県組織は、党本部からの要請を余所に、組織内候補である『JAかみましき』(熊本県)組合長の藤木真也(49)の推薦を決めた。前回選では33万8485票を集めて組織内候補を当選させた農政連だが、安倍内閣が進める農協改革や『環太平洋経済連携協定(TPP)』参加への組合員の反発は強い。藤木の戦いも楽観視できない。中西の地元の高知県農協農政会議でさえ態度を保留し、同会議幹部は「仮に中西を推薦するとしても、その時は藤木にも推薦を出す」と語る。中西は今、飽く迄も“知人の紹介”という形で県内の農家を回っている。

団体の組織内候補は本来、当選後に業界の利益を代弁することが期待されている。全特の組織内候補である前『日本郵便』近畿支社長の徳茂雅之(53)は今月9日、国会内に伊達忠一ら参議院幹部を訪ね、強気の目標を掲げた。「2013年参院選の拓植芳文氏の得票を上回るよう頑張ります」。同じ全特候補だった拓植は前回選で、自民党トップの42万9002票を獲得した。幹部の1人が中西らへの支援状況を聞くと、同席した全特の大沢誠会長は「正直なところ、回せる票は(中国・四国地方の)50%程度かもしれない」と率直に言った。「100%になるよう努力はします」と大沢が付け加えると、伊達は「無理を言って申し訳ない。耐えて、耐え忍んでほしい」と頭を下げた。全特の地方組織では、「郵政に関係ない候補者を何故支援するのか」と戸惑いが広がる。中西陣営は止む無く、『日本歯科医師連盟』の地方組織や高齢者福祉団体等、今回は組織内候補を出さない団体に手を伸ばし始めた。高知県内30団体に推薦依頼を出す。ただ、自民党の組織票も嘗てほど盤石ではない。低成長時代に入り、利益配分型の政治は次第に機能しなくなった。安倍内閣が進める規制改革は、業界団体の目には既得権益を奪う政策に映る。非拘束名簿式の導入後、2001年参院選で約619万だった自民党の候補者名票は、2010年参院選では341万票、大勝した2013年でも438万票に留まり、集票力の低下が窺われる。自民党幹部は、図らずも変則的になった今回の比例選をこう見る。「党本部が示した救済策をどれだけ徹底できるかが、組織の底力を測るバロメーターになる」 《敬称略》


≡読売新聞 2016年2月26日付掲載≡
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