【シャープの選択】(01) 薄氷の“全会一致”

日本のものづくりを象徴する大手家電の一角である『シャープ』を、台湾企業と日本政府系のファンドが奪い合う構図となった今回の買収劇。何故、シャープは『鴻海精密工業』を支援先に選んだのか。舞台裏を探る。

20160227 13
「全会一致でした」。今月25日夕、シャープ東京支社。社長の髙橋興三は報道陣に対して言葉少なに語ると、その場を後にした。前日24日の最終協議では、全会一致の決議とは全く異なる景色が広がっていた。髙橋らシャープ生え抜きや、『産業革新機構』を所管する経済産業省出身の取締役らが強く機構案を推した。関係者に依ると、その数は全取締役13人中、5人に上っていた。「先祖返りは許されない」。5人は、鴻海案が経営危機の引き金となった液晶等のパネル事業に再び積極的な投資を行うとしている点を激しく非難した。ただ、態度不明の1人を除き、鴻海案を支持する取締役7人の態度は変わらなかった。このままでは議決は割れる。「真っ二つの採決結果では、今後の再建に不安と誤解を与えかねない」。議長の水鳴繁光ら生え抜きの取締役から不安の声が上がった。シャープでは、採決を全会一致とする“伝統”がある。鴻海への賛成姿勢を表明している社外取締役らが引き揚げた後、残るメンバーで極秘裏に会談が持たれた。全会一致に向けた調整がなされ、深夜の東京支社で、どんな結果になっても過半数の支持を得た案を全会一致として議決することが決まった。“全会一致”は、実は薄氷の結着だった。そしてその裏では、鴻海・産業革新機構・主力取引銀行に依る水面下での熾烈な駆け引きが繰り広げられた。「機構案を採用した場合、本当に主力行の金融支援を取り付けることができるのか?」。何れの陣営に入るかを決める24日午後の全取締役に依る最終協議。機構か鴻海か態度を決めかねていた取締役を中心に、金融支援の実現性を確かめる質問が集中した。機構案は、『みずほ銀行』『三菱東京UFJ銀行』の両行に事実上の債権放棄を含む最大3500億円の金融支援を前提としている。ここが確約されないと機構案には賛成できない。ただ、機構案を支持していた社長の髙橋興三は、「応じないとは聞いておりません」としか答えられなかった。この時点に及んでも、銀行側が間違いなく債権放棄等に応じると確認できていなかった為だ。銀行は、負担の発生する機構案を嫌がっていた。

機構も手を拱いていた訳ではない。言質を取るべく、今月19日、会長の志賀俊之(『日産自動車』副会長)と社外取締役の三村明夫(『新日鉄住金』相談役名誉会長)の大物2人が、『みずほフィナンシャルグループ』社長の佐藤康博との会談に臨んだ。「一度は金融支援に合意した筈だ」と迫る志賀に対し、佐藤は「今の段階では明言できない」と突き放した。佐藤と親しい三村が「産業再編を進める良い機会だ」と向けても、佐藤は「機構案には事業計画が無く、検討できない」と躱し、会談はすれ違いに終わった。佐藤は、言質を与えて鴻海優位が揺らぐことを警戒した。既に、鴻海派固めに向けた水面下の銀行側の動きは進んでいた。「懸念された金額の引き下げはありませんでした。もう鴻海でいいですね?」。シャープ役員が台湾を訪れ、鴻海との交渉を終えた今月中旬、両行の審査担当役員が髙橋を取り囲み、鴻海案への賛成を迫る場面もあった。シャープには、両行から送り込まれた取締役も2人いる。出身行の意向を踏まえ、「切り崩し工作を展開していた」(シャープ関係者)との証言も多い。非公式の面談の場を設けて機構案を採用した場合、再建の前提となる金融支援に協力しない可能性をちらつかせ、鴻海案への賛成を追ったという。「出向ではなく、うちとは切れている人たちですから」。三菱東京UFJ銀行の幹部は事も無げに話す。だが、「2人が出身行の影響下にある」との見方は根強い。銀行の発言力は違約金の額にも表れている。今月上旬、シャープは条件を守らなかった場合の違約金として、「実は2000億円を求めていた」(幹部)。鴻海幹部にあっさりと半額まで値切られてしまったのも、鴻海との話を早期に纏めたい銀行団の「十分多額だ。贅沢を言っていられる場合じゃない」との主張が丸呑みされた。「銀行は表向き公平な態度でも、その実、強い立場から鴻海案を迫っていた。力の乱用だ」。25日夕、機構関係者は吐き捨てるように言った。ただ、この敗北は戦略ミスに依る必然の結果でもあった。 《敬称略》


≡読売新聞 2016年2月26日付掲載≡
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