【日曜に想う】 税の行方、ヒツジたちの沈黙

「納税に感謝します。あなたが昨年支払った税金2万オーストラリアドル(約160万円)の使途は次の通りです。福祉 7356豪ドル、防衛 1642豪ドル、教育 1636豪ドル。国の借金はいま3200億豪ドルです。前年は2570億豪ドルでした」――。オーストラリアの納税者には年1回、政府から税金受取証が送られる。1豪ドルは約80円。納めた税が何に使われたか一覧できる。自分が防衛費や教育費をいくら負担したかわかれば、国政への関心も高まるだろう。ところが、同国最大の都市・シドニーで聞いてみると、地元では腰が抜けるほど不評だった。「紙と印刷費の無駄」「福祉を切る言い訳」「もう廃止を」――。シドニー大学で税法を教えるマイケル・ダーキス教授(58)に依ると、受取証が導入されたのは2年前、自由党のアボット前内閣の時だ。減税の旗を掲げ、6年ぶりに労働党から政権を奪ったが、公約を実現できずにいた。「歳出の透明性を高める」と受取証を発行したが、納税者には見え見えだった。「減税できないのを、労働党の残した財政赤字のせいにしている」。責任転嫁と受け止められた。地元の税理士であるゲーリー・タミネロさん(58)は、「人々は日頃、税金の高さに不満を募らせているので、新税や増税の話には敏感です」。富裕層は所得の半分を税に取られ、一般層は3分の1を納める。日本の消費税に当たる物品サービス税を引き上げる案には、世論の8割が反対する。タンポンの着ぐるみに身を包んだ女性たちが「生理用品を非課税に」とデモに繰り出す。

そんなオーストラリアの納税者たちが今、熱心に応援するのは、『Amazon』や『Google』等のアメリカ系企業に対する課税強化だ。国外に税法上の拠点を散らす手口が発覚したからだ。イギリスでは、同じ方法で法人税を回避した『スターバックス』に抗議して、市民が店を取り囲んだりした。我が従順なる納税者意識と比べると、まるで別世界である。ヨーロッパの人々が憤るあくどい節税を知っても、スタバを取り囲んだりしない。5%から8%への消費増税に際して、反対デモの火が各地で燃え広がることもなかった。私たちは鈍感なのだろうか? 「鈍感です。日本では、納税者の8割が給与所得者で納税者意識が乏しい。記者も同じ。ご自身も昨年の納税額をご存じないのでは?」。痛いところを突くのは、東京都の税理士・青木丈さん(43)。昨春、税法学者らと共に『民間税制調査会』の立ち上げに加わった。「国際的に見て問題なのは年末調整ですね。所定の用紙に名前や控除を書くだけで納税作業が終わる。日本人の多くは、税務署との接触が無い。持つべき健全な痛税感が育ちません」。言われて思い当たることがある。私たちは、小選挙区制の欠陥を一通りは理解している。投票率が情けないほど低いものの、一票の格差に憤りもする。なのに、税金のこととなると、総じてもの言わぬヒツジになりがちだ。納めた税の行方を追わない。年毎の税制変更に関心を寄せない。一部企業に恩恵が偏る租税特別措置の実態も知らない。有権者としては二流、納税者としては三流の国なのだろうか。




反省ばかりしていても始まらない。冒頭のオーストラリア版に倣い、日本版“税金受取証”を試作してみた。オーストラリア版と同じ税額160万円を日本政府に納めたと仮定すると、その使途は――。「福祉48万9000円(オーストラリアは約59万円)、防衛8万2000円(同約13万円)、教育9万5000円(同約13万円)」。電卓を弾いて日豪の税の使い道を見比べてみた。福祉・防衛・教育とも日本のほうが少ない。多いのは国債の元利払いで、日本が約36万円、オーストラリアは740豪ドル(約6万円)。日本はもう、借金でクビが回らなくなってきたのだ。税制にもの言わぬヒツジにも、負担を将来世代へ先送りして懲りない日本の危うい姿がはっきり見えた。 (特別編集委員 山中季広)


≡朝日新聞 2016年2月28日付掲載≡
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