【ソニー・熱狂なき復活】(02) ソニーを継ぐ者は誰か…平井社長6月退任へのカウントダウン

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「今年こそ本当に復活です」――。今年元旦、ソニーの社員や取引先に届いた年賀状には、こんな言葉があった。差出人は鈴木智行。エンジニア出身で、昨年4月に副社長に昇格し、デバイス事業と研究開発を担当している。静岡大学で電子工学を学び、キャリアの殆どを神奈川県厚木市等の撮像素子半導体(CCD・CMOS)生産拠点工場で積み重ねたという、近年珍しい叩き上げの経営幹部。彼が今、エレクトロニクス系の社員の間で急速に求心力を高めている。福島県郡山市にある電池子会社の『ソニーエナジーデバイス』。鈴木は2014年春から昨年3月まで同社の社長を務めていたが、着任早々、ここの社員食堂に巨大なパネルを掲げた。それは、創業者の盛田昭夫と井深大が腕相撲を楽しむ姿を捉えた写真。社員なら、誰もが両人に対する敬慕の念を掻き立てられる1枚だ。この写真に鈴木は、業績不振と売却観測に意気消沈していた電池部門への激励を込めたのである。「復活には技術しかない」「アメリカ企業に奪われたイノベーティブという称号を取り戻そう」「ソニーに2番手・3番手は似合わない」。鈴木は会議や文書でこんな発言をし、「エレキのソニーの黄金期は再来する」という愚直なメッセージを繰り返し発している。平井一夫社長より6つ年上で、半導体以外は粗未経験の鈴木は、本来であればトップレース圏外。だが、社内の人心を1つにするこの言葉の力に依って、“鈴木待望論”が着実に形成されている。「新年はエレクトロニクス事業の回復を盤石にする。エンタテインメント事業にも時間を割く。個人的にはスロージョギングを続け、健康に留意していこうと思う」。平井は昨年のクリスマス頃、社員向けブログにそう綴った。ジョギング以外にも、アメリカで家族にローストビーフを振る舞い、大晦日は衛星放送で紅白歌合戦を見るといった、年末年始プランが満載のほのぼのとした文面だった。「もうご隠居モードなんだな」。ある中堅社員は、そう感じたという。トップ就任から丸4年を迎える平井には昨秋から、今年6月退任という観測が浮上している。エレキの構造改革にある程度の目途を付け、今期は3期ぶりの最終黒字を見込む。就任時より株価も上昇している。それでも退任説が流れる理由は、1つにはソニーのパフォーマンスに対する社内外からの期待の高さだ。単なる業績回復ではなく、市場ナンバーワンの製品や、嘗ての銀行参入のような「予想の斜め上を行く事業展開があってこそソニーだ」と考える人は多い。そしてもう1つは、平井が就任に至った経緯に由来する。平井のトップ就任は、ハワード・ストリンガー前会長兼CEOの退任に伴うものだ。2012年2月、ストリンガーは突如、取締役会議長に退くことを発表した。退任に至る経緯は、これまで殆ど明らかになっていなかったが、今回、ある関係者が絶対匿名で、尚且つ退任劇に関わった人の名を明かさないことを条件に、全てを語った。

「ストリンガーは辞めたんじゃない。辞めさせられたんだ」――。4期連続の最終赤字が免れなくなった2011年秋、ソニーの株価は1500円を割り込んでいた。主力製品のシェアも『Apple』『サムスン電子』等に水を開けられる一方。トップの経営責任は誰の目にも明らかだった。にも拘らず、ストリンガー自身は続投に意欲を示していた。これに声を上げたのが、株主でもある創業者親族と、複数のOBに依るグループだった。当時、議長だった小林陽太郎(昨年9月死去)ら取締役会のメンバーを個別に訪ね、経営難を辛辣に伝える雑誌記事等を示しながら、「今直ぐにストリンガーを退任させるべきだ」と訴えたのだ。この当時、現状を憂うOBがソニーに対して直接・間接に意見を述べることは珍しくなかったが、多くは「ご意見承りました」程度であしらわれ、取締役会の議論に上ることは無かったようだ。その中にあって、このグループの声だけは、議長の小林にとって無視できないものだった。自身が公私に亘り家族ぐるみで交際してきた創業家からの批判であり、懇願だったからだ。「ストリンガーさん、もう潮時です。私も議長を辞めますので、一緒に退きましょう」。小林は、そう痛み分けを持ちかけたのだった。ところがこの時、創業家・OBグループは「次は誰か?」については全く提案や示唆をしなかったという。「そこまでは口出しすべきでない」という境界線であり、「何をおいても、ストリンガー退任を実現するのが重要」という考えもあった。その結果、ストリンガーの指名を受けて平井が後継者となった。出井伸之会長が2003年に委員会等設置会社制度を導入して以来、ソニーでは取締役会の指名委員会が経営トップの人選を担う。当時について言えば、ストリンガーと元社長の中鉢良治や小林議長ら社外取締役6人が指名委員会のメンバーだった。だが、社外取締役は年に10回程度、1回当たり数時間の会議を通してしかソニーの経営に関わらない。実際には、ストリンガーの意向を追認する組織になっていたようだ。ストリンガー自身、エレキ事業の見識が皆無なのに、「アメリカ財界に人脈を作ってあげた」(OB)という功績で出井にトップとして指名されている。経営課題はエレキの立て直しと成長事業の創出だと明白だったのに、何れの経験も無い平井を指名したのは、当人にとっては当然の選択だったのかもしれない。だが、長期低迷を招いた人物の後継者であるが故に、平井の力量は殊更厳しく関係者に注視されている。在任中のパフォーマンスは勿論のこと、ストリンガーの轍を踏んだ“仲良し人選”をすることなく、本当に有能な人物を後任に選べるかも問われている。上段左表は、現在の取締役会メンバーの一覧である。社内出身の指名委員は現在、平井だけだ。その他には、議長の永山治(『中外製薬』会長)、宮田孝一(『三井住友フィナンシャルグループ』社長)、ジョン・ルース(元駐日アメリカ大使)が名を連ねる。実際に指名するのがいつかは別にしても、ポスト平井の人選について検討はされているだろう。正常に機能しているのであれば、以下のような面々が候補者リストに載っている筈だ。




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序列で言えば、鈴木と並んで副社長を務める吉田憲一郎が先ず1人。インターネット子会社『ソネット』の社長から平井に請われて本社に復帰。現在は、CFOとして平井を支えている。ソニーは、日本で初めてCFO職を置いた企業であり、金庫番が非常に重要な役割を担ってきた。「利益は意見、キャッシュは事実」。ソニーの財務マンは折に触れ、この警句を口にする。これは、盛田家の番頭だった元常務・成田光三の方針を語り継いだもの。どんなに赤字を垂れ流しても、買掛金や給料の支払いができるキャッシュがあれば、企業は基本的に破綻しない。この鉄則が守られてきたことが、ソニーが生き残った理由だ。2000年代に入り、事業の稼ぎが乱高下すると、『ソニーフィナンシャルホールディングス』の上場や、不動産や子会社の売却でキャッシュを創出し、社債償還やリストラの原資を捻出した。また、リーマンショック直前の2008年前半、外資銀行への依存度が高かった融資枠を日系メガバンクに大きく切り替え、いつでも手元流動性を高められる態勢を整えておいたのも、財務畑の知られざる貢献だ。吉田も連綿と続く役割を引き継ぎ、昨年は公募増資等で最大4400億円の資金調達を実現している。吉田の課題は「キャッシュをどう投資に分配するか」という、攻める金庫番の役割を果たせるか否かだ。年齢や経歴から見て、鈴木や吉田を上回る最右翼と見られているのが、スマートフォン等の事業を担当する『ソニーモバイルコミュニケーションズ』社長の十時裕樹だ。十時は、自ら申し出て『ソニー銀行』を立ち上げたばかりでなく、ソネット時代にベンチャー投資を経験した。50代に突入したばかりという若さもあって、新しい時代を切り開くには理想的な人材と言える。

ただ、十時にはモバイル事業を少なくとも黒字に転換し、可能ならば成長を取り戻すなど、現ポストでの実績を上げる必要がある。その為には少し時間がかかり、今のタイミングでは難しいかもしれない。デジタルカメラや放送機器等のイメージング事業とメディカル事業を担当する執行役・石塚茂樹を推す声もある。通称“エレキのプリンス”。ビデオやカメラ事業に長く携わり、ミラーレスカメラ『NEXシリーズ』を成功させた実績が評価されている。東京大学工学部卒業で、大学の同期生に『シャープ』元社長の片山幹雄がおり、「プライドの高さや鼻っ柱の強さはよく似ている」(ソニー取引先の商社役員)という人物評がある。暫く前は“ソニー復活の請負人”として、『プレイステーション』を成功させた元副社長・久夛良木健の再登場を期待する声があったが、現実的には難しい。ただ、久夛良木の元懐刀は現在の経営幹部に残っている。デバイスソリューション事業本部副本部長の清水照士だ。プレイステーションの基幹半導体だった高性能プロセッサー『Cell(セル)』の開発当時、生産ラインの設計等を手掛けた。現在は鈴木の直下で、デバイス事業の中でも最重要な車載向け撮像素子の事業化を担う。『トヨタ自動車』を始めとする大手自動車メーカーの“Tierlサプライヤー”の座を獲得するのがミッションである。『ソニーエナジーデバイス』社長の江連淑人や、CMOS生産拠点の『ソニーセミコンダクタ』で社長を務める上田康弘も優秀との呼び声が高い。出世街道とされる経営企画・財務畑では、武田和彦が「先ずはCFO候補」(OB)と頭角を現している。

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鈴木・清水・江連・上田と名前が挙がる社長候補は、デバイス事業の関係者が多い。その理由は、1つにはデバイス事業が好調なことにある。今期は営業利益1210億円(前期比36%増)を叩き出し、エレキ全事業に依る利益の過半を占める見通しだ。AppleのiPhone等といった高価格帯のスマートフォンには、暗い場所でも高画質の写真が撮れるソニーのCMOSは不可欠な基幹部品。金額ベースでは市場の半分を掌握し、「特に需給がタイトだった昨年前半は、ソニーの価格主導権は強かった」(『テクノシステムリサーチ』アナリストの大森鉄男)。今や唯一となった世界ナンバーワンの事業。そしてもう1つの理由は、撮像素子はソニーらしさの象徴でもあることだ。「士農工商・犬・猫・半導体」――。これは嘗て、ソニー社員が撮像素子を含む半導体事業を軽んじて使った表現だ。創業期の1950年代に日本初のトランジス(最も基本的な半導体)を開発し、トランジスタラジオ『TR-55』のヒットに漕ぎ着けた。だが、1960年代に入ると、『日立製作所』や『日本電気(NEC)』等が資本力を生かして積極的に投資を行い、ソニーの半導体開発は劣後した。そんな中、世界的にも実用が難しいとされるCCDに着目したのは、当時の副社長だった岩間和夫だ。「回収は21世紀になる。それでもやり抜く」と投資を傾注した。岩間は、CCDの本格普及を見ること無く、社長在任中に癌で死去したが、大賀典雄が社長のポストと共に遺志を継いだ。

社長就任翌年の1983年。社内の大規模な会議で大賀は、「今後、あらゆる技術が半導体に置き換えられていく」とした上で、こう宣言したという。「私が21世紀にトップを務めている可能性は無い。だが、今下す経営判断は必ず、新世紀のソニーの業績を左右する。その時になって、私は『大賀は馬鹿な経営者だった』とは言われたくない。CCDを本格生産し、ライバルにも販売する」。この当時、鈴木を始め、現在のデバイスエースは皆入社しており、岩間・大賀の薫陶を“幼心”に受けている。そこで刷り込まれたのは、超長期的視野で不可能を可能にする姿勢であり、これが彼らのリーダーとしての素養に繋がっている。「理論的には、どう考えても不可能」。放送技術の国内権威が集まる『日本テレビジョン学会』(現在の『映像情報メディア学会』)で1980年代後半、そう否定された技術がある。当時の基準で飛躍的に感度を上昇させる『HD-CCD』の実用化で、理論計算した学識者や他社の技術者が全員「無理」と判断した。ところがソニーは、数年で200万画素のHD-CCDを商用化してしまう。社員から軽んじられていた半導体事業は、今や主軸事業に押し上げられた。ただ現状、CMOSの8割はスマホ向け。世界的に普及が一巡すれば、嘗てのテレビのように急失速しても不思議はない。また、スマホやテレビ等に比べ稼いでいるとは言え、7兆円の巨大企業を支えるには未だ事業規模が小さい。本物の屋台骨になるには、自動車・セキュリティー・医療等、スマホに続く大きな需要領域を開拓できるかが鍵だ。今も昔も、ソニーの社長に求められているのは、新しい製品や事業を世に生み出す為の技術に対する目利き力と、投資を実行する決断力だ。現社長の平井、そして取締役会は、どんな決断を下すのだろうか。 《敬称略》

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■ソニーもパナソニックもヘッドハントを活発化
電機業界のトップアナリストが『パナソニック』へ――。『メリルリンチ日本証券』元アナリストの片山栄一氏が今年1月、パナソニックの役員に就任して注目を集めている。片山氏は、『日経ヴェリタス』アナリストランキングの家電・AV機器分野で4年連続1位。『野村証券』を経て、2010年にメリルへ移籍していた。片山氏がパナソニックで担当するのはM&A戦略だ。「前期は、(2013年に発表した3年間の)中期経営計画目標を1年前倒しで達成できた。だが、今期は成長するのが如何に難しいかを実感している」(津賀一宏社長)。パナソニックの昨年4~9月期(上期)の売上高は前年同期比1%増えたが、為替影響を除いた実質ベースでは4%の減収だった。同社は、2019年3月期に10兆円の売上高実現を目標に掲げており、1兆円の戦略投資をする方針を示している。片山氏は、その成長戦略の中核を担う。では、M&Aに証券アナリストの経験はどれだけ生かせるのか? 『ドイツ証券』で電機業界や半導体のアナリストとして活躍し、メリルリンチ日本証券副会長を経て、現在はM&Aの助言会社を営む佐藤文昭氏が語る。「アナリストにM&A案件のアイデアはあっても、具体化するのが仕事ではない。できるのは会社や事業の目利きだ。競争力を高める為には買収だけではなく、事業売却という判断も必要になる。それを実行に移す実務能力が、事業会社での成功の鍵になる」。ソニーも、経営幹部に外部人材を登用している。昨年は、テレビ子会社の副社長に『船井電機』前社長の上村義一氏を起用。上村氏は船井での経験を生かして、調達や新興国でのオペレーションを担う。また、経営企画やM&A等を担当するチーフファイナンシャルストラテジストに、『JPモルガン証券』のマネージングディレクターだった染宮秀樹氏が、情報セキュリティーを担当するチーフアーキテクトに『富士通』の情報セキュリティーセンター長だった塩崎哲夫氏が就任した。元々、ソニーは中途採用等で外部人材を積極的に登用してきた会社であり、「環境変化に迅速に対応する為に必要な人材は、社内・社外問わず登用していく」(広報部)という。パナソニックもソニーも、業績不振でリストラを余儀なくされた。ここに来て外部人材の登用を活発化したのは、成長を追う前向きな姿勢に変わった証左だろうか。


キャプチャ  2016年1月30日号掲載


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