【少子化対策・どこが間違いなのか】(中編) 若者だけが悪いのか…草食系男子批判に応える

近年、“恋愛やセックスに消極的な男子”という意味合いで『草食系男子』という言葉が使われるようになった。今の社会における男子の性の語り方・語られ方は非常に貧困である。“常に性欲に満ちている野獣”という一面的な見方しかない。それゆえに「男子たるもの、セックスに積極的であるべき」という言説が支配的になり、消極的な男子は“草食系”と一括りにされ、批判や揶揄の対象になる。そもそも男子の性はそんなに単純なものではない。女子の性と同様、年齢や時代によって変化する多様でデリケートなものだ。だが、男子の性に対する社会的理解や支援・教育は皆無に等しい。例えば、初体験の成否は、本人のその後の性生活の質を大きく左右しかねないが、学校教育や家庭は言うまでもなく、性教育の場ですら“自分と相手の心と身体を傷つけずに、幸せな初体験を送る方法”は一切教えられない。そのため、性に対する不要な劣等感や過剰な幻想に悩まされる男子、30代や40代の中年童貞が大勢生み出されている。

私は、新しい“性の公共”をつくるという理念のもと、性の世界から疎外されている障害者、性の世界に参入できない童貞処女、性の世界で差別や偏見の対象になっている性労働従事者を支援する非営利組織『ホワイトハンズ』を運営している。この仕事を始めるきっかけは、東大在学中に行った性風俗産業の研究調査だった。性風俗は“巨乳”“JK(女子高生)”“人妻”“素人”など、女性の身体的特徴・性格や言動・社会的属性を抽象化した、非人格的な“記号”が価値を持つ世界である。調査では、都内の風俗店で当時流行っていた“恋人プレイ”の実態を分析したのだが、そこで行われていたのは、単なる記号の売買=“恋人っぽく見える仕草や言動の商品化”に過ぎなかった。女子高生とデート気分で散歩や会話ができ、追加料金を払うと、裏メニューでボディタッチやハグができる『JKビジネス』が今年メディアで話題になったが、男性向けの性産業の中で行われていることの大半は、昔も今も記号の売買にすぎない。近年、AVや成人向け雑誌等の市場は縮小する一方だが、平成男子が“草食化”したというよりも、むしろ単純な記号の順列組み合わせで興奮できていた昭和男子の性こそが特殊だったとも言える。




明治以前には、若衆宿や夜這いなど、信頼できる生身の相手を介して若者に性知識を伝達する仕組みがあった。しかし西洋近代化の流れの中で、性に関する風習を“野蛮”とみなす明治政府による取締、都市化による村落共同体の崩壊によって、こうした仕組みは消滅した。人間の性行動や性意識は、決して単純な本能ではなく、歴史と文化の産物だ。男子を性に動機づけさせるためには、性に対する科学的な知識と、性にコミットすることによって得られるメリットが、社会の中できちんと伝達され、学習される仕組みを作る必要がある。自民党の某閣僚が主張するような「お花がきれいに咲く姿、ちょうちょが飛んでいる姿を見れば、十分に命の尊さは学べるので、性教育は不要」といった素朴な信念は通用しない。

だが、残念ながら今の社会にはそうした仕組みが無い。公教育の場では、避妊や性感染症などのリスク面のみが中心に語られ、相手との関係性をベースに豊かな性生活を送るための方法は教えられない。市場では性を記号化した商品やサービスのみが売買され、メディア上では「お前が恋愛できないのは、コミュニケーションスキルを磨かないからだ」といった、全ての原因を個人化・自己責任化する無慈悲なメッセージだけが飛び交う。こうした環境下では、相手が不要で、傷つくリスクのないネットや二次元の世界に耽溺し、生身の恋愛やセックスから退却すること=“草食化”することこそが、最も合理的な適応になる。この現実に少しでも抗うために、ホワイトハンズでは、童貞処女の卒業支援を目的とした『ヴァージン・アカデミア』を開講し、大学での講義やテキストの発行を行っている。また、年齢や障害の有無を問わず誰でも参加できるバリアフリーのヌードデッサン会も開催している。パソコンやスマホの画面ではなく、肉眼で生身の裸を見ることが性の記号消費の呪縛から抜け出せる第一歩になる。実際に裸のモデルを目の前にすると、商品化されているヌードは、日本人女性の平均とはかけ離れたファンタジーに過ぎず、一人一人の裸体に個性と魅力があることが分かる。

「たかがヌードを見るために、デッサンなんて面倒臭いことはできない」と思われるかもしれない。しかし、恋愛もセックスも結婚も、そもそも圧倒的に“面倒臭いもの”だ。相手との幸せな共同生活・性生活を送るためには、多大な時間的・精神的コストをかけて、価値観のすり合わせや妥協を重ねる必要がある。辛い作業だが、それらを乗り越えて初めて得られる“面倒臭い幸せ”がある。そのため、『草食系男子』を恋愛やセックスに動機づけさせるためには、この“面倒臭い幸せ”の意義を教える必要があるが、それをきちんと教えられる人は年配世代にどれだけいるだろうか。むしろ“面倒臭さ”に負けてセックスレスや家庭内別居に陥っている人が多数派ではないだろうか。そうした状況下では、ロールモデルを見失った若い世代が“草食化”するのは当然の成り行きだと言える。“草食化”する若年男子を“面倒臭い幸せ”に動機づけさせるためには、まず、私たち一人一人が、自分と相手の性に向き合うことの面倒臭さやみっともなさ・恥ずかしさに打ち勝ち、彼らに対する“生と性のロールモデル”になるしかない。


坂爪真吾(さかつめ・しんご) 一般社団法人ホワイトハンズ代表理事。1981年生まれ。東京大学文学部卒。新しい“性の公共”をつくるという理念の下、重度身体障害者の射精介助サービス、性風俗産業の社会化を目指す『セックスワーク・サミット』を主宰。著書に『男子の貞操』(ちくま新書)、『セックス・ヘルパーの尋常ならざる情熱』(小学館101新書)。


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