【お寺が足りない!】(上) 人口減で寺院消滅より深刻なのは、お寺が足りない現実なのだ!

人口減少・地方の過疎化は深刻だ。だが一方で、大都市の人口密集地域でも重大な問題が起きている。折しも、昨年12月には大手インターネット通販サイトで、僧侶まで注文できると話題になった。こんな“商売”が世間で大手を振れるのも、人口に比して寺院が少な過ぎるからではないのか?

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『寺院消滅』(日経BP社)というタイトルの本が昨年、一部で話題になった。サブタイトルの「失われる“地方”と“宗教”」の通り、人口減少地域における寺院の厳しい運営実態を中心にルポしたものだ。寺院を取り巻く地方自治体の未来像を“消滅”という言葉でリアルに示したのは、2014年5月の民間研究機関『日本創成会議』の発表だった。本誌でも同年8月号で報じたが、同会議は20歳から39歳の女性の人口動態に注目し、この世代の女性の数が2040年にどうなるかから、各自治体の未来予想を推計した。その結果、2010年と比較して5割以下に減る自治体を“消滅可能性都市”と見做したところ、何と全国の49.8%に及ぶ896市区町村がこれに当たったのだ。しかも、523の市区町村は総人口1万人を割り、「消滅の可能性が高い」自治体だという。まさに、「日本全国が消滅可能性の只中にある」という分析だ。 また、國學院大學の石井研士教授は日本創成会議の発表を受け、消滅可能性都市にある宗教法人数を割り出した。その結果、「今のままでは約35%の宗教法人が消滅する可能性が見えてきた」と試算。最早、一寺院ではどうにもならない問題だけに、どの宗派も対応を求められる。だが、果たして“消滅”だけが問題なのか? 昨年12月7日、成道会の前日に、「12月8日からAmazonで、全国どこでもお坊さんを注文できるようになる」とマスコミが報じたのだ。その商品名は『お坊さん便』。何と、インターネット大手通販の『Amazon』で僧侶を“注文”できるというのだ。見ると、3万5000円で買えるのは“法事法要手配チケット”。その仕組みは、先ずAmazonのサイトで僧侶手配のチケットを購入。その後、業者からメールが来たら、法事法要の希望日時・場所・宗派等を購入者は返信。因みに、“戒名授与手配チケット”(2万円)もある。墓前読経等を希望するなら“3万5000円+法要場所追加1万円”プランだ。購入者の希望に従い、業者は僧侶を手配。その後は、僧侶と購入者の間で直接、連絡を取って実行…という流れである。実は、このサービスをAmazonに出品したのは、インターネットを通じて葬儀の手配や僧侶派遣をしている『みんれび』(東京都)だ。何のことはない。Amazonを利用した事業拡大に他ならない。とは言え、こんな商売が臆面もなく罷り通るのは何故かと言えば、同サイト自体にその答えが明記されている。「菩提寺とのお付き合いがある人はご利用になれません」と。早い話が、菩提寺を持たない人が大勢いるのを前提にした商売なのだ。では何故、菩提寺を持たぬ人が多いのか? その第一は、身近にお寺が無いからではないか。ここにこそ、仏教界に重大な問題がある。今日、葬儀をしない者が増えたり、仏教儀礼を軽視する向きがあるのも、寺院との付き合いが無いからだ。この事態は、お寺だけの責任ではない。日本社会の動態と連動する問題である。

過疎の問題は、政府が目指した戦後の産業構造のせいである。では、その流れの中でお寺の数はどう変化したのか? 下の表をご覧頂きたい。約50年間(昭和37年~平成25年)の都道府県別に見た人口と仏教系の寺院数のデータだ。では、表の総数から見よう。先ず人口変動だ。昭和37(1962)年と比べると、平成25(2013)年の人口は3211万7000人増の1億2729万8000人。約1.3倍となり、人口が増えた都市は28都道府県に上る。この中で、お寺はどうなったのか? お寺の数も人口に比例したのか? 2013年の寺院総数は7万7329ヵ寺。50年間で1764ヵ寺増えた。都道府県で見ると、寺院が増えた都市は33都道府県で、人口増加地域よりも多い。平均すると、1都道府県につき約37ヵ寺増えた。人口変化は約1.3倍だったが、お寺は計算すると1.02倍。お寺は微増した程度なのだろうか? 詳しく見よう。人口を単純に寺院数で割り出したのが、“1ヵ寺当たりの人口”だ。全国平均は、1962年が1ヵ寺につき1259人で、2013年は387人増えて1646人だ。全国平均を1つの基準として、都道府県別に見る。全国平均に近い1000人台は、全体の約3割を占める。中でも、平均に近い1600人台は、群馬県・愛知県・兵庫県・広島県である。しかし、群馬県と愛知県の人口差は約3.7倍。愛知県は、この50年で300万人増えた。それでも近い平均値が出るのは、愛知県がお寺の数も4倍近いからだ。兵庫県も同様で、この50年間で人口は約150万人増えたが、全国で3番目にお寺が多い県だ。他府県に目を転じるとどうか。平均値の半数以下(1ヵ寺当たり800人)もまた3割近く、北陸や近畿地方に集中している。中でも、滋賀県・福井県・島根県は人口密集ならぬ“寺院密集”地域と言える。福井県と言えば、思い出されるのが“幸福度ランキング”で1位の県。同ランキングの2位は富山、3位は石川と、北陸勢が並んだ。お寺の数と幸福度は関係あるのではないかと思えるが、どうだろう。幸せの最適値は、1ヵ寺1000人以下という数字も出る。勿論、お寺からすると、1ヵ寺当たりの人口が少ない県は「支える人が少ない」ということではあるのだが。




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※都道府県名欄の色分けは、人口増加地域は白抜き文字、現象地域は青色文字。人口は、総務省統計局の『人口推計』(各年10月1日現在)に依る。昭和37(1962)年の沖縄県は本土復帰前の為、空欄。寺院数は、文化庁『宗教年鑑』(当該年12月31日現在)に依る。

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一方、1ヵ寺当たりの人口の平均値を上回るのが17都道府県。中でも倍近いのが、東京都・神奈川県・埼玉県だ。しかし、同じ首都圏でも東京都と千葉県を見比べると、寺院の増加数は粗等しい。増加数も過去50年で200ヵ寺超。全国平均では37ヵ寺だったから5倍だ。にも拘らず、1ヵ寺当たりの人口が倍近いのは、人口の項目を見ると一目瞭然だ。千葉よりも東京は人口が倍以上なのに、お寺の増えるスピードが同じだということになる。1都3県は、1962年時点では総人口の1割だったが、2013年時点では1都3県だけで総人口の約3割(28%)を占める。このスピードにお寺の数がついていっていないのではないか。直近はどうか。表には無いが、各都道府県の人口増減率を見ると、2013年10月と2014年9月時点を比較して人口が増えたのは、東京都・沖縄県・埼玉県・神奈川県・愛知県・千葉県・福岡県だ。首都圏の人口増加が続く。扨て、こうして見ると都道府県でかなりの差があることがわかる。果たして、お寺は本当に“足りている”のか? 後述するが、首都圏開教に力を入れる浄土真宗本願寺派では、新寺建立の適正配置に「1ヵ寺が運営していくに当たって必要な安定門信徒は約300世帯」という数字を出している。そこで、本誌では1世帯を2.5~3人と考え、300世帯を約1000人と想定した。1ヵ寺につき檀家1000人として、人口から割り出したうち、3分の1はお寺を求めている人と推定し、その数を必要寺院数として試算した。すると、お寺が足りない県が明確に表れたのだ。表②がそれである。東京・神奈川・埼玉・大阪は全く足りないことになる。東京だけでも、あと3800ヵ寺近く必要だ。前述した愛知県は東京の人口の約半分で、寺院数が4602ヵ寺。となると、東京には必要寺院数の6650ヵ寺は妥当ではないだろうか。いや、これでも少な過ぎるかもしれない。1都3県の合計では7860ヵ寺の不足となる。1ヵ寺1000人とすると、首都圏で786万人も“お寺に深い縁を持ち難い環境”だと言えるだろうか。1ヵ寺に複数の僧侶がいれば少しは解消するかもしれないが、現実はそうではない。「今の法務で手一杯。これ以上、檀家を増やしたくない」が本音だろう。けれども、一般の人にはカルチャーセンターに通っても、仏教書を読んでも、本当の安心はお寺という場で、教えを伝える僧侶と仲間(サンガ)が無くては得られない筈。だから、お寺が必要とされてきた。

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しかし、見た通り今、首都圏で圧倒的に拠点(お寺)が足りない。お寺の縁が薄れてきた結果、仏事も満足にできず、心の安心さえも得られなくなった。伝統教団は、この大問題にどう対応してきたのか? そこで、寺院数の多い10宗派に、首都圏の1都3県における約25年前と現在の寺院数を取材したところ、天台宗・真言宗智山派・真言宗豊山派・浄土宗・浄土真宗本願寺派・真宗大谷派・臨済宗妙心寺派・曹洞宗・日蓮宗から回答が寄せられた。表③がその結果だ。尚、真宗大谷派は平成3(1991)年と平成27(2015)年の統計が基だが、1991年は教区ベース、2015年は都道府県ベースからの統計。この為、単純に比較はできないものの、プラスマイナスは参考として挙げておく。宗派でかなり違いがある。現在、1都3県で寺院数が多い宗派順に、曹洞宗(1614ヵ寺)・真言宗智山派(1469ヵ寺)・日蓮宗(1432ヵ寺)・真言宗豊山派(1071ヵ寺)・浄土宗(1000ヵ寺)・天台宗(791ヵ寺)、浄土真宗本願寺派(324ヵ寺)・真宗大谷派(284ヵ寺)・臨済宗妙心寺派(150ヵ寺)となる。しかし、25年間に首都圏で最も寺院数が増えたのは浄土真宗本願寺派だ。48ヵ寺増えた。逆に、最も寺院数が減ったのは日蓮宗で53ヵ寺の減。特に、東京と神奈川の減少傾向が大きい。日蓮宗宗務院伝道局伝道部の高桑正路主事に聞くと、こう話す。「寺院・教会・結社別に見ると、減少傾向の幅が大きいのは教会と結社です。教会は宗教法人ですが、結社は非法人。恐らく、閉じてしまったのでしょう。他地域のお寺が首都圏に教会や結社を作ることは多いのですが、信者さんが主体なので、代替わりの際に信者さんが離れる等して、結果的に維持が困難となり、止めてしまうという例もあるんです」。東京と神奈川で寺院が増えたのが曹洞宗だ。曹洞宗の広報担当者が語る。「恐らく、霊園経営の為に新たにお寺を作ったのだと思います。他地域から首都圏に霊園を作ろうと進出されたところもあるでしょう」。臨済宗妙心寺派の増減については、「都内の1ヵ寺は、平成8(1996)年に本派復帰したお寺です。千葉県は平成19(2007)~平成20(2008)年に合併解散しました」という話だ。では、この寺院数の変動には、各宗派の首都圏開教に対する姿勢がどう反映されているのか? 取材をすると、方向性の違いがはっきりと見えてきた。

①天台宗…新寺建立よりも人材育成重視
首都圏においては四半世紀、寺院数に変動が無かった天台宗。教学部布教課から次の回答が寄せられた。「天台宗では、首都圏一円に関わらず、都市部間部あらゆる地域の寺院が難しい状況に直面しています。そうしたことから現在のところ、首都圏に限定した方策ということは考えていません」。寧ろ、お寺を増やすよりも、人材の育成に力を入れる方向だという。「木ノ下寂俊宗務総長は就任時に、阿前内局が掲げた三本柱――“人材の育成”“教えの普及”“寺院の存続”を引き継ぐことを発表しました。その中の“人材の育成”に関する1つの方策として、天台教学の素養に裏付けられた布教師を育成すべく、平成26(2014)年に『天台宗中央布教師養成所』を創設しました。中央布教師養成所研修生には、天台宗教師研修会の全単位履修が義務付けられており、教師並びに布教師として、教義面・実技面の両面において他の僧侶を率先刺激し、全体の資質向上を牽引し得る存在となるべく、研鑚を積んでいます。布教師は文字通り、布教の要であり、布教こそが寺院存続の生命線と考えます。今後、中央布教師養成所が継続発展し、天台宗布教師の資質が向上することで、首都圏並びに地方都市での開教の課題解消に繋がるものと考えております」

②真言宗智山派…法人化に向けて宗派の指導
真言宗智山派の総務部担当者は話す。「新寺建立に際して特に奨励したり、助成制度を設けるなどしていません。関東は真言宗智山派のお寺が多く、大本山や別格本山もあり、教化機関には東京都内の別院真福寺内に智山伝法院もあります」。昨今はどちらかと言えば、過疎対策に力を入れているという。とは言え、新寺建立の申請もコンスタントにあるそうだ。「一寺を構えようと志される方もおられますが、昨今は所轄庁の規制が非常に厳しいです。新しく設立された宗教団体、又は新たに包括を提携した宗教団体には、法人化を目指されるよう、寺院規制等についても指導しています」

③真言宗豊山派…既存の寺院で積極的に布教を
「寺院数については、余所の宗派から転派される等で多少の変動はあります。ただ、宗派が特に新寺建立を推進するということはありません」。そう話すのは、真言宗豊山派の総務部担当者。豊山派でも天台宗や真言宗智山派と同じく、既存寺院を拠点とした布教と、僧侶の育成に力を入れる方針のようだ。布教師を対象とした積極的な講習会を開催し、真言宗智山派との合同講習会も開いている。教化部の担当者の話。「現在、豊山派では“南無大師遍照金剛お大師さまとともに”を布教テーマとして掲げています。寺院離れと言われる中、宗派の布教方針に沿って、全教師・僧侶が自坊やその他で布教活動を展開することで、宗教者が本来果たすべき役割や体制が生まれるのではないでしょうか」

④浄土宗…国内開教寺院11ヵ寺を建立
浄土宗は、四半世紀で1都3県に新たに14ヵ寺ができた。うち11ヵ寺は“国内開教寺院”として設立されたものだ。その背景には、同宗の“国内開教に関する規程”に基づく積極的な都市開教事業があるようだ。同規程は平成2(1990)年の制定。平成15(2003)年の改正を以て、現在の事業に本格的に蛇を切った。現規程の第1条『目的』には、こう定められている。「この宗規は、国内における地域人口の流動等にともなう過疎、過密化及び社会構造の変動に対応する本宗の有機的教化方策を策定して、教化施設の復興又は新設するなど開教活動の促進と寺院の活性化を促し、もって本宗の教宣の拡張を図ることを目的とする」。実際に、どのように進められているのか。社会国際局の担当者が語る。「先ず、地域の選定・国内開教使の派遣は“国内開教委員会”で検討しております。具体的には、宗務庁にある“地理情報システム”で抽出した人口増加率・寺院分布等のデータを基に、全国の無寺院地域を幾つか選定。その中から、国内開教委員会でターゲットとする候補地を選定し、これに基づき宗務総長が開教地域に指定します。また、委員会の選定に依らずに宗務総長が特に必要と定めた地域については、当該地域の教区長・組長の同意を得て開教地域に指定しております。開教地域が指定された場合は、速やかにその地域に国内開教使を置き、開教活動に従事して戴きます」。だが、課題があるという。「1つが、寺院設立の面です。新寺建立については地域の選定、それに資金調達が重要になってきます。首都圏においては、本宗の寺院は比較的、満遍無く寺院が建立されていますが、それでも都市部周辺のベッドタウン等は本宗寺院が全く無い地域もあります。その中から、国内開教委員会で戦略的にターゲットとする候補地を選定し、その後、候補地を包含する教区・組・周辺寺院の協力を得て、受け入れてもらうことが重要です。しかし昨今、都市部の寺院でも寺離れ・宗教離れが進み、既存の寺院でも将来に不安を感じています。そうしたことから、教区等への協力依頼が不調に終わる場合もあるという実情もあります。国内開教事業の目的は、『浄土宗のお念仏の御教えに、如何にご縁を持って戴けるか』であることを積極的にアピールしていく必要があると考えています」

資金面の調達についても課題がある。同宗では助成金制度がある。けれども、「原則としては、国内開教使の自己資金で布教施設を建立して頂いています。問題は、建立する地域が決まった場合でも、特に首都圏では不動産価格が高額な為、余程の資金力が無ければ1ヵ寺を建立することは不可能です。特に、設立した宗教団体を法人化させる為には無借金が原則となりますので、寺院を設立したはいいが、法人格取得までの道程が長く険しいものとなります。本宗としても助成金や貸付金制度を設けていますが、実際はそれだけでは十分と言えず、その為に国内開教使になることを躊躇される方もおられるのです」。国内開教使を希望する僧侶は、面接や委員会の審査を経て、候補地に係る教区・組・周辺寺院ともすり合わせの上、受け入れを協議する。「都市部に住む人々は菩提寺を持たない場合が多く、特定の宗教・宗派に拘りが無い傾向があります。そのような方々に、日頃の交流・葬儀・法事等様々な機会を通じて、如何にお念仏の教えをお伝えするかが重要になってきます。国内開教使の条件として重視されるのは、本人の熱意や僧侶としての習熟は勿論、既存の檀信徒とのお付き合いがある寺院に比べると、一から檀信徒との繋がりを構築する必要がある為、社交性・協調性等も挙げられます。一般社会から僧侶はどのように見られているのか、客観的に観察する能力も必要となるでしょう。既存寺院の僧侶にも当然必要な素養ですが、国内開教使には“一社会人”としての素養や人間的魅力が、より重視されると言えます」。これらの条件を満たす為にも、地域のお寺の理解や支援が必要となる訳だ。「昨今、都会に出て、一寺院を構えずに葬儀等を請け負う僧侶が“派遣僧侶”や“マンション僧侶”と揶揄されることも少なくないようです。しかし、葬儀や地域との関わりの中で善きご縁が結ばれるとも考えられます。それだけに、宗公認の“国内開教使”として、地域で自信を持って活動できるように、後方支援体制をこれからも整えていきたい。今後も多くの念仏道場を作ると共に、法然上人の御教えを伝え、新たなご縁を結んでくれる国内開教使を育てたいと考えています」

⑤浄土真宗本願寺派…年に2ヵ寺が新たに包括関係
1年に2ヵ寺のペースで、新たに被包括関係を結ぶお寺が首都圏に生まれているのが浄土真宗本願寺派だ。背景に、昭和50年代から続く都市開教の蓄積とシステムがある。元々、首都圏に真宗系寺院は少なく、平成16(2004)年の統計データでは約5%。この状況に昭和53(1978)年、法灯を継いだばかりの大谷光真前門主は、都市開教を同派の長期発展計画の重点施策に位置付けた。以後、同派では積極的に首都圏の教線拡充に力を入れてきた。都市開教を担う僧侶を“専従員”として毎年公募。研修期間を経て正式に専従員に任用された僧侶は布教所からスタートし、宗教法人に向けて布教活動に励む。宗派は、助成制度や貸付制度を設けて支援してきたのだ。扨て、平成24(2012)年には『宗法』改正で、東京都の築地本願寺は直轄寺院となり、首都圏は“特別開教区”と位置付けられた。が、その後はどうか。平成27(2015)年11月、築地本願寺の安永雄玄宗務長は『築地本願寺首都圈宗務特別開教区伝道推進基本計画』の策定を公示した。重点項目の第二に、“都市型寺院モデルと人材育成方法の確立”が挙げられていたのだ。推進事項の主な内容が次の通り。

1. 業務コンサルティング等に依る分析を基に、今後必要とされる都市開教寺院モデルや方法論と人材育成の構築。
2. 適正配置基準(世帯数の3.0%を“推定門信徒世帯数”、“千二百門信徒世帯数”<一寺院に必要な安定門信徒数300世帯形成の為には4倍の1200世帯が必要という考え>等を基準として出した数値から新規拠点設置目標数を算定。既存寺院との距離の目安は2.5km等)に基づく新たな寺院、開教・活動拠点を推進し、支援する。
3. 専従員の育成と、地方から首都圏に転居した門信徒と所属寺院を繋ぐ『離郷門信徒のつどい』開催を奨励し、“法務委託・代行制度”を推進する。

「我々が本来求めるのは、門徒の集まり(サンガ)です。現代はそういうものが形成し難くなっている時代。そこに、どう手を打てるかが課題です」と築地本願寺の担当者は言う。新たな基本計画には、それへの推進の期待がかけられているに違いない。とりわけ、新寺建立について既存寺院との距離の目安を2.5kmとする宗門の“戦略”は、極めて具体的・意欲的と言える。「菩提寺を持たない人々に念仏の教えを伝えたい」という思いが伝わってくる。

⑥真宗大谷派…仏事代行と宗派主導新寺建立
「東京宗務出張所が行った“都市開教のための全国寺院基本調査”に依ると、首都圏には相当数の真宗門徒の移動があり、その後、無縁となっている方が非常に多いことがわかりました。世代が変わるに連れて“門徒”という意識が薄くなり、何れは縁が切れてしまう転居門徒の現状を重要な課題と受け止めています」とは真宗大谷派の回答だ。この課題に同派では、平成14(2002)年の首都圏教化推進本部の立ち上げと共に、首都圏“仏事代行”制度の運営を開始。同制度は、首都圏に転居した門徒からの突然の葬儀に、所属寺の住職が対応できない場合を想定している。練馬区にある真宗会館が窓口となり、東京教区内の寺院等の協力を得て儀式を代務執行できる。たとえ門徒が郷里から遠く離れても、真宗寺院との縁を繋ぐ制度なのだ。では、首都圏開教はどうか? 「首都圏で一寺建立を志す開教希望者に対しては、開教活動に必要な基本的な知識や技能を習得し、開教活動の実際について学びを深める実習を随時開催しています。また、平成4(1992)年に発足した、首都圏で一寺建立を志す開教者の集まりである“首都圏大谷派開教者会”の活動に対しても、助成を行っています」。しかし近年、課題も見えてきたという。「財的課題を始めとして、個人の努力のみで新寺建立まで辿り着くのは非常に難しくなりつつあります。恐らく、今後は更に厳しい状況になるでしょう。そこで、新たな開教施策として、宗派が主体となった新寺建立を進めています。具体的には、宗派が開教地と開教者を選任し、人の問題や開教活動当初の金銭的な課題を共に担い、新寺建立を確実に進める施策を立ち上げました」。平成22(2010)年12月に、神奈川県川崎市に最初の拠点であるお寺が誕生。同寺の運営は東京教区の協力の下で順調に行われ、平成28(2016)年度中には宗教法人格を取得する予定だという。宗派では、2ヵ所目の宗派立の開教拠点の設置に向けて動いているということだ。

⑦臨済宗妙心寺派…東京に臨済禅布教拠点を置く
臨済宗妙心寺派では、新寺建立よりも既存の寺院や公的施設を会場とした布教に力を入れている。「例年、春彼岸・秋彼岸に布教師を派遣し、首都圏の各寺院において開教をしています。また、平成17(2005)年には妙心寺開山無相大師650年遠諱記念事業の1つ として、東京都世田谷区に“東京禅センター”を設立しました。同センターを首都圏での臨済禅布教の拠点としています。首都圏に住む多くの方に、禅に親しみを感じてもらい、禅の心が伝わるよう座禅体験・禅・仏教講座・法話会等を実施 しています」と担当者は話す。

⑧曹洞宗…新寺建立よりも日常の禅布教
曹洞宗では、「特に宗派として新寺建立への動きは無い」と広報担当者は話す。「既存のお寺との兼ね合いもあります。教区で中々受け入れ難いというのもあるでしょう。現段階では、『新寺建立よりも禅そのものを日常生活に浸透していきたい』という方向で動いています」。宗務庁のある東京グランドホテルを使った早朝座禅『朝活禅』等、会社員をターゲットにした布教もその1つ。企業研修に坐禅を望む声もあるという。

⑨日蓮宗…国内開教規程制定し新寺支援
近年、積極的に“攻めの姿勢”に転じているのが日蓮宗だ。同宗では、平成21(2009)年に新たに『国内開教規程』を制定し、宗派を挙げて新寺建立へのバックアップ体制を取っている。同規程の第1条には、「国内における社会変化に対応し、新たな開教の拠点を設けて行う布教を国内開教という」、第2条は「国内開教は、人口過密地域その他、宗務総長の定める地域において国内開教師に行わせる」。既に、この開教制度から東京都国立市と埼玉県越谷市の2ヵ所に布教所が開設された。前出の高桑主事が語る。「この規程は、都市部に限るものではありません。日蓮宗のお寺の少ない地域に、日蓮宗の寺院を作ろうというものです。背景に、昨今の寺院を取り巻く社会事情があります。これまでも、個々のお寺で別院や布教所のように作られる例はありました。しかし、宗派として最早待っている時代ではない。『積極的に寺院を作り、布教をしよう。その為に、宗門でも助成をしていこう』という制度なのです」。建立地域は、人口密度や地元寺院との協力を得られるか等を勘案しながら、国内開教対策委員会が選定していく。その上で応募をかける。近年、埼玉県南東部地域(越谷市・草加市・吉川市)を対象地に募集したパンフレットを見ると、助成は、布教助成月20万円、家賃助成月上限15万円、その他準備金。任期は4年(助成は原則3年)。応募資格は、“未信徒教化に強い志と新しいアイデアを持つ宗門教師”。志願者は“国内開教師志願書”を提出する。A4用紙には、履歴書と“国内開教のビジョン”を書く欄がある。書類が通れば1次面接。面接通過者は選定地域の現地調査を行う。2次面接は、現地調査を基に立案した“布教計画”を発表。最終選考が通ったら晴れて“国内開教師”に任命される。1ヵ寺の運営は順調で、同宗では3ヵ寺目の建立を目指しているという。宗門の首都圏開教に対する熱意が、新寺建立を実現させているモデルケースと言えよう。

――以上、首都圏開教に対する各宗派の取り組みを見た。「お寺が足りない」と認識していても、宗派に依って、その具体策にはかなりの違いと温度差があることがわかった。後半では、実際に開教を担う現場の住職たちの声を聞こう。


キャプチャ  2016年1月号掲載


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