【少子化対策・どこが間違いなのか】(後編) 20年以上続けても止まらない少子化対策2つの誤算

わが国は依然として深刻な少子化状態である――。少子化に対する原稿を書く際、このフレーズを用いることが多い。出生数は減っており、2013年は戦後最少の103万人になった。この年の合計特殊出生率(その年の15~49歳の女性の年齢別出生率を足し合わせた値。仮にその年の出産パターンで子供を産んだ場合、全体平均として1人の女性が生涯にもうける子どもの数をあらわす。以下“出生率”)は前年よりも微増したとはいえ1.43にとどまる。長期間にわたって国の人口を維持するためには出生率が2.07は必要であるが、現状はこの水準をはるかに下回る。このままでは、少なからぬ自治体の“消滅”が避けられないどころか、社会全体を持続することも難しい。

わが国は、出生率がそれまで最も低かったひのえうまの年の1.58をはじめて下回った、1989年の“1.57ショック”をきっかけに少子化を“問題”と認識して、過去20年以上少子化対策を行ってきた。それにもかかわらず、少子化状態から脱することができていない。ポイントは、以下にあげる2つである。




第1は、結婚・出産・子育てで困っている層と少子化対策のメインターゲットの間にミスマッチがあったことだ。従来の対策のメインターゲットは、出産・育児期に継続就業する正規雇用者同士の共働き夫婦であった。具体的には、保育所の待機児童解消と育児休業や正規雇用者の育児短時間勤務などのワークライフバランスを両輪として進められてきた。それは正規雇用者同士の共働き夫婦に対しては効果をあげている。だが、少子化の実態をみると、出生率低下の9割は“未婚化”によってもたらされている。意識調査をみると、若者たちが結婚したくなくなったわけではない。年長の世代と同様に結婚したいと思っているが、若者の間で非正規雇用が増え、正規雇用者も収入が伸び悩んでいるために、結婚できないのである。適当な結婚相手に出会うことができない若者も多い。かつてはあった見合い婚(団塊の世代が結婚した頃も相当数あったが)がすたれ、恋愛婚が主流になったことで、結婚の世話を焼いてくれる人がいなくなったためである。

また、夫婦の働き方をみると、第1子出産後に継続就業する妻は4人に1人で、意外に思うだろうが、この割合は過去25年間変わっていない。このうち育児休業を取得して継続就業する割合は15%程度である。つまり、出産後の家庭の4分の3は、妻が専業主婦であり、妻の就労パターンをみると子育てが一段落してからパートなどで働く者が多い。これらの層は、育児休業や正規雇用者の育児短時間勤務など従来の中心的対策によっては、子育てしやすくなることはなかった。出産動向基本調査によると、夫婦の理想子ども数は2.42人だが、予定子ども数は2.07人にとどまる。理想子ども数を持てない理由としては、「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」が60%で最も多く、以下「高年齢で産むのはいやだから」(35%)、「欲しいけれどもできないから」(19%)などが続く。大半の夫婦にとって問題であるのは、子育てや教育のための負担費用の重さなのだ。しかし、従来の対策では家庭の子育てや教育費の負担軽減は十分でなかった。

第2は、地方の視点が欠けていたことである。最近になり地方における少子化の進行と人口減少が注目されるようになったが、従来の対策はもっぱら都市向けであった。保育所の待機児童は首都圏など大都市に集中しているため、力を入れてきた保育サービス拡充は主に都市の保育環境を改善するものだった。育児休業や育児短時間勤務を利用する正規雇用者も都市に多い。地方は、都市ほど労働時間・通勤時間が長くはなく、親族も近くに住んでいることで親族が保育を支えることができていた。このような対策が行われた背景には、1990年時点においてわが国の出生率は首都圏や近畿などの都市で低く、それ以外で高かったために、暗黙のうちに都市における出生率回復が課題と捉えられてきたためである。しかしながら、その後20年間に地方、特に東日本の出生率は下がってしまった。少子化の背景は、都市と地方で異なる。地方は子どもを育てるための環境に優れ、職住も近接であるが、進学先や雇用機会が少ない。若い世代は、進学や就職等で都市に流出してしまう。また、地方の状況もさまざまである。特に北海道・東北・中国・四国・九州・沖縄という列島の両サイドにおいて、子育てや教育にお金がかかりすぎることが子どもを増やすにあたっての課題になっている。これらの地域では、子どもが大学に進学するには郷里から離れた遠方になることが関係している。従来の対策は全国一律であり、各地域の状況に応じた対策は実施されてこなかった。

今後出生率及び出生数を本格的に回復させるために、いま特に必要であるのは、従来欠けていた前記2点を解消した少子化対策を行うことである。まず、対策のターゲットを、継続就業する正規雇用者同士の共働き夫婦のみでなく、未婚の若者や夫が主に働き妻が主に子育てする夫婦にも広げることである。従来の対策に加えて、希望する若者らが結婚できるように、雇用対策・婚活支援等を充実させる。育児期のマスを占めている、夫が主に働き、妻が主に子育てをする夫婦も子育てしやすいように、手当・税制等で子育て・教育の経済的負担を軽減し、母親の孤立を防ぐ地域子育て支援や低廉な一時保育を行う。育児期に専業主婦である女性に対しては、育児が一段落した後の復職支援を拡充する。また、地方の少子化対策を充実させることである。地方の若者が地元で働き、家族形成できるように、地方の若年雇用を創出し、定住を促進する取り組みが求められる。各地域にあったきめ細やかな対策として、少子化対策は全国一律の部分と各地域に応じた部分の2階建てで実施することが求められる。


松田茂樹(まつだ・しげき) 中央大学教授。1970年生まれ。慶應義塾大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。専門は少子化対策・子育て支援・家族論。自身も3人の子どもを子育て中。著書に『少子化論 なぜまだ結婚・出産しやすい国にならないのか』『何が育児を支えるのか』(ともに勁草書房)など。

               ◇

■平均寿命を延ばし、出生率を上げるには?
1人当たりGDPと平均寿命には明らかな正の相関がある。1人当たりGDPが多いほど、平均寿命は長い。特に1人当たりGDPが4000ドル(購買力平価ベース)までは非常に相関が強い。4000ドルまでは1人当たりGDPが増えると、平均寿命は大きく延び、およそ65歳に達する。それ以降は、1人当たりGDPが増加しても、平均寿命の延びは緩やかになっていく。一方、合計特殊出生率(以下“出生率”)と相関が強いと指摘されているのが、女性の労働参加率である。スペイン・ポルトガル・ドイツなど参加率が比較的高くても、出生率があまり高くない国もあるが、おおむね正の相関が認められる。その相関を女性の労働参加率を共働き率に替えて、都道府県別に調べたのが、図3である。こちらもおおむね正の相関が確認される。日本の女性の労働参加率はOECDの平均以下で、出生率も低い。2014年に発表された世界経済フォーラムの報告書によれば、女性の労働参加率や収入などから女性の地位を測ったところ、142ヵ国中104位。1人当たりGDPが同水準の国で日本より低いのは、韓国と中東の数ヵ国のみであった。

【図1】
baby 01
【図2】
baby 02
【図3】
baby 03


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