【宮崎哲弥の時々砲弾】 リベラル再装填のために part.1

2月13日の新聞朝刊は、前日の日経平均株価が15000円を割り込んだことを一斉に報じている。そして、その紙上には必ずといっていいほど、“アベノミクスの限界”とか“アべノミクス試練”といった政策要因を示唆する中見出しが付されている。だが、紙面を捲ると、次のような記事が目に入ってくる。『高卒就職内定率25年ぶり90%』『12月末時点 バブル期並みに回復』…。文部科学省の発表に依ると、今年3月に卒業する高校生の昨年12月末時点の就職内定率が90%だったという。9割の大台に乗るのは実に四半世紀ぶりで、記事では、「人手不足に悩む企業等が即戦力の若い働き手を得ようと、高校生に採用の網を一段と広げる現状を鮮明に反映している」とある。

アべノミクスの効果の観測点として適切なのは、疑いもなく後者である。既に何度も指摘しているように、株価や為替等の短期変動市場の動向は、マクロ政策の善し悪しを評価する為の資料として不適切である。私は、“株高円安”の頃からそういい続けている。「(株式市場等の“乱高下”について)市場はつねに不安定なものです。短期的な動きに目を奪われるべきではない」(ジョセフ・E・スティグリッツ…『朝日新聞』2013年6月25日付朝刊)「労働市場はすばらしい状態にある。失業率は3%台前半にとどまっている。労働力が減っていることを考慮すれば、経済成長率も悪くはない」(マーティン・ウルフ…『日本経済新聞』電子版2016年1月12日付)。完全失業率・就業者教・有劾求人倍率・正社員有効求人倍率・企業倒産件数の全てが好況期の水準に達し、尚も改善に向いつつある。新聞やテレビは何故、これらの数値に注目しないのか。もっとはっきり言おう。反・安倍晋三政権を標榜するリべラルは何故、この現実を直視しないのか。例えば、朝日新聞の社説は「(アべノミクスの金融緩和は)円安と株高はもたらしたものの、経済成長率や物価はほぼ横ばいで目立った効果はうかがえなかった」と明白な虚偽を繰り返している(2月10日付朝刊)。金融政策が雇用に効果を及ばすことはアメリカでは常識。だからこそ、『アメリカ連邦準備制度理事会(FRB)』は利上げに際し、雇用統計を最大の判断材料としたのだ。雇用の質や賃金の低迷ばかりに焦点を絞っても徒論である。先に挙げた雇用統計等が一定の水準に達すること無しに、それらは向上していかないからだ。




では、「実際は非正規雇用が増えただけで、悪化の一途を辿っている」というのは本当なのだろうか? これから幾度か参照することになるリべラル再装填の指南書、松尾臣『この経済政策が民主主義を救う 安倍政権に勝てる対案』(大月書店)に依れば、その認識は正しくない。リベラル左派の松尾氏は、私と同じく、アべノミクスの1本目の矢である金融緩和と2本目の矢である財政出動しか評価しない。これらは、アメリカ民主党最左翼の大統領候補者であるバーニー・サンダースや、イギリス労働党最左派の党首であるジェレミー・コービンも主要公約として掲げる、謂わば世界標準のリべラル経済政策である。そして、3本目の矢の“成長のための構造改革”はリベラルではなく、新自由主義や経済右翼の施策に他ならない。だから、3本目の矢に当たる“雇用流動化政策によって非正規化が進められている実態”には批判的だ。それを踏まえた上で、アべノミクス以後の労働市場の変化を具に見ている。本書にグラフでも示されている通り、15歳から65歳未満の“生産年齢人口”に占める正規雇用者の割合は、この2年半で明白に上昇している。他方、65歳以上の非正規雇用者数が顕著な伸びを見せ、35歳から44歳の女性の非労働力人口については減少が確認できる。これは一体、何を意味するのか?


宮崎哲弥(みやざき・てつや) 研究開発コンサルティング会社『アルターブレイン』副代表・京都産業大学客員教授。1962年、福岡県生まれ。慶應義塾大学文学部社会学科卒。総務省『通信・放送の在り方に関する懇談会』構成員や共同通信の論壇時評等を歴任。『憂国の方程式』(PHP研究所)・『1冊で1000冊読めるスーパー・ブックガイド』(新潮社)等著書多数。


キャプチャ  2016年2月25日号掲載


スポンサーサイト

テーマ : 経済
ジャンル : 政治・経済

Categories
Profile

KNDIC

Author:KNDIC
Welcome to my blog.

Latest articles
Archives
Counter
I'm participating in the ranking.

FC2Blog Ranking

information
Search
RSS Links
Link
QR Code
QR