【宮崎哲弥の時々砲弾】 リベラル再装填のために part.2

引き続き、リベラル経済政策の指南書である松尾匡『この経済政策が民主主義を救う 安倍政権に勝てる対案』(大月書店)と、先頃発表された昨年の『労働力調査』等に沿って、“非正規雇用激増”の実像に迫っていこう。就業者の総数が7年ぶりに6400万人超となる中、15歳から65歳未満の“生産年齢人口”に占める正規雇用者の割合は着実に上昇している。昨年末にも言及した通り、特に在学者を除く若年層の正社員の比率が顕著に伸びている(#186 年忘れ経国問答・其ノ壱)。昨年4月から9月の平均が71.8%。これは、2002年以降最高の水準だ。更に、例年若年雇用が減少する10~12月期を加えても、平均71%をキープした。松尾氏も「2015年春の大学卒業生の実質就職率は7割を超え」たことを認め、合わせて「就職氷河期の最悪のときといったら、なんと大学卒業生の7人に3人は就職できなかった」「当時やリーマンショック後の不況期は、大学卒業生の4割は就職できない年が続いた」と振り返っている。因みに、リーマンショック後政権の座にあって、外部から押し寄せてくる需要縮小の狂瀾を前に碌な手も打たず、あろうことか、財政支出削減だの構造改革だの消費税増税だの、不況助長的な政策に現を抜かしていたのは他ならぬ民主党だ。「そのころと比べると、状況が格段に改善していることは、大学に勤めているとたしかに実感できます」(松尾氏、前掲書)。

一昨年の民主党の総選挙向けCMに描かれたような、若者が正社員になることを“夢見る”場面は、雇用が低迷し続けた民主党政権下ならば人心に沁み透ったかもしれないが、最早過去の悪夢に過ぎない。では一体、“誰”が増える非正規労働の担い手になっているのだろうか。一般に、非正規労働の雇用形態は“パート・アルバイト”“派遣社員”“契約社員”“嘱託”“その他”に区分されるが、主に伸びているのはパート・アルバイトだ。前回、松尾氏の本に示されたデータに依拠しながら、「65歳以上の非正規雇用者数が顕著な伸びを見せ、35歳から44歳の女性の非労働力人口については減少が確認できる」と書いたが、今回の“労働力調査”にはその傾向が一層くっきりと表れている。65歳以上の男性のパート・アルバイト及び契約社員、同年齢層女性のパート・アルバイトの数が急伸している。また、35歳から54歳までの女性層の派遣社員数に若干の増加が見られる。15歳から34歳の非正規雇用は、男女共に粗全領域で減少している。要するに、増加した非正規職に就いている人々の多くが高齢の定年退職者や兼業主婦層なのだ。




彼ら・彼女らが非正規雇用に甘んじていいという訳では決してないが、全員がフルタイムの正規雇用を望んでいるとも考え難い。注意を要するのは、このタイプの非正規雇用増は不況期にはゼロに近かった点。一旦は退職した高齢者や中堅女性が「再び職業社会に戻りたい」と思っても、その受け皿が無かったのだ。ところが、景気回復とそれに伴う人手不足の顕在化に依って新たな就労機会が創出された。2月17日の朝刊各紙は、前日の『労働力調査』公表を受け、「正社員数が8年ぶりに増加に転じた」と報じている。44万人の雇用者数増加分のうち、正社員が26万人、非正規社員が18万人だった。日本経済新聞に依れば、「働いていなかった女性や高齢者が正社員になる例が増えている」という。アベノミクス1本目の矢である積極的金融政策は、雇用の増進に寄与する。然るが故に、『アメリカ準備制度理事会(FRB)』の権能には、“物価の安定”と共に“雇用の最大化”が掲げられているのだ。いつまでも「非正規雇用が増えただけ」等と言い募り、現実から目を背ける似非リベラルに日本の未来は託せない。


宮崎哲弥(みやざき・てつや) 研究開発コンサルティング会社『アルターブレイン』副代表・京都産業大学客員教授。1962年、福岡県生まれ。慶應義塾大学文学部社会学科卒。総務省『通信・放送の在り方に関する懇談会』構成員や共同通信の論壇時評等を歴任。『憂国の方程式』(PHP研究所)・『1冊で1000冊読めるスーパー・ブックガイド』(新潮社)等著書多数。


キャプチャ  2016年3月3日号掲載


スポンサーサイト

テーマ : 経済
ジャンル : 政治・経済

Categories
Profile

KNDIC

Author:KNDIC
Welcome to my blog.

Latest articles
Archives
Counter
I'm participating in the ranking.

FC2Blog Ranking

information
Search
RSS Links
Link
QR Code
QR