【経済の現場2016・マネー迷走】(07) ファンド、国と神経戦

為替相場を舞台に、投機筋と通貨当局の攻防が激しさを増している。相場の変動は、企業経営に大きな影響を及ぼす。国益と思惑がぶつかり合う。勝者は誰か――。

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アメリカのへッジファンド『CCトラックソリューションズ』幹部のロバート・サベージ氏が豪語する。「1ドル=115円をつけたら次は110円を試す。105円まで行く可能性は十分ある」。その言葉を裏付けたのが2月11日だ。日本は祝日で、取引量が少ない。少しの注文で相場が動き、投機筋がつけ入るチャンスが生まれる。前日に『アメリカ連邦準備制度理事会(FRB)』のイエレン議長が、3月の利上げに慎重な姿勢を示した。金利が高い国の通貨ほど買われ易い。イエレン発言でドル売り・円買いが優勢になり、11日朝の円相場は112円半ばまで円高が進んでいた。投機筋の狙いはこうだ。手持ちのドルを1ドル=120円で売り、110円で買い戻せば10円の利益が出る。夕方、ファンドが勝負に出た。大量のドル売り・円買い注文を出し、午後5時半過ぎ、海外市場で110円99銭まで急伸した。へッジファンドに詳しい経済アナリストの豊島逸夫氏の許には年明け以降、ファンド関係者からの連絡が増えた。「Who is AMARI?」。翌日に日本銀行の金融政策決定会合を控えた1月28日。経済再生担当の甘利明大臣(当時)が辞任表明すると直ぐに電話がかかってきた。電子メールや『LINE』でも質問が殺到した。「重要閣僚の辞任は政権運営にどう影響するのか?」「アべノミクスは本当に成功するのか?」――。内容は細部に亘った。2月半ばからは、「政府・日銀は円売り・ドル買いの為替介入をするのか?」との問い合わせが急増した。投機筋の攻撃は執拗だ。2月以降、約10円も円高が進んだ。豊島氏は、「彼らは本気で円買いを仕掛けている」と感じている。FRBは昨年12月にゼロ金利政策を止め、利上げに転じた。日銀は金融緩和を続けている。金利差を考えると、普通なら円安・ドル高が進む筈だ。しかし、原油安と中国経済の減速で、世界の投資家は比較的安全とされる円を買う動きを強め、円高の勢いは衰えない。日銀の調査では、大手製造業の今年度下期(昨年10月~今年3月)の想定為替レートは1ドル=118円。円高が進むほど、日本の輸出企業には打撃となる。

1月下旬。自動車大手の『富士重工業』は、東京都渋谷区の本社で緊急の役員会議を開いた。幹部の1人が、財務や調達の担当者に檄を飛ばした。「円高は、うちの会社にとって死活問題。危機管理に気を抜くな」。年明けからの円高進行に、アメリカ事業に軸足を置いてきた経営陣は緊迫感に包まれた。揺れる相場に、政府も気が気ではない。財務省の麻生太郎大臣は2月19日の国会で、急速な円高について「(値動きが)少々荒い。為替の急激な変動は望ましくない」と、市場を強く牽制した。このままでは、円安・株高が演出してきたアベノミクス効果が吹き飛ぶ。とは言っても、為替介入の実施はハードルが高い。どの国も、自国通貨が適度に安くなったほうが輸出産業に有利になる。アメリカにしても、円以外の通貨に対する“ドル高”に悩む。日本が単独で介入しようとしても、欧米の理解は得難い。財務省幹部は、「協調介入は更に難しい」と解説する。日米欧の先進7ヵ国(G7)が円高阻止の為に協調介入したのは、東日本大震災直後の2011年3月が最後だ。一方、人民元売りに直面する中国の事情は異なる。26~27日に上海で開かれる『主要20ヵ国・地域(G20)財務大臣・中央銀行総裁会議』を前に、『中国人民銀行』(中央銀行)の周小川総裁は雑誌のインタビューで、へッジファンドとの対決姿勢を明確にした。「中国は、世界最大の(為替介入に必要な)外貨準備を持っている。投機筋に市場を主導させない」。富裕層が資産を外貨建てに替え、海外に持ち出していることが、人民元の下落圧力を強めている。そこにファンドが乗じる。中国政府は人民元の暴落を防ぐ為、人民元買い・ドル売りの為替介入を繰り返し、外貨準備は昨年中に50兆円以上も減った。G20では為替が主要テーマになる見通しだが、市場の動乱を沈静化する妙案は見当たらない。各国当局と市場の神経戦は尚も続く。


≡読売新聞 2016年2月25日付掲載≡
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