【シャープの選択】(02) 革新機構、孤独な敗戦

20160305 02
「ホライズンには悪いが、スターはコスモスで決まりだな」――。1月半ば、政府系ファンド『産業革新機構』のシャープ買収担当チームは沸き立っていた。『シャープ』の主力取引銀行団から「金融支援に応じる」と取れる回答が届いたからだ。秘密保持が必須となるM&A(企業の合併・買収)の世界では、情報交換に隠語を使うのが慣例だ。“ホライズン”は『鴻海精密工業』、“コスモス”は機構、“スター”はシャープ。金融支援に目途がついたことで、機構優位は決定的になったと思われた。その風向きは、直後に一変する。2月18日、鴻海が総投資額を、従来の提案から1500億円以上引き上げ、6500億円規模としたのだ。機構が銀行に求める金融支援は最大3500億円。一方、鴻海は銀行に負担を求めない姿勢も打ち出した。「提案が本当に実行されるなら、考え直さなければならない」との声がみるみる銀行団に広がっていった。圧倒的な金額差に、欧米メディアが反応した。「日本政府が機構の後ろ盾となって外資排除に動いているのであれば、時代錯誤だ」との記事が各紙に載った。政権批判に繋がりかねない事態に、官邸が反応した。1月下旬、鴻海の金額引き上げの報告の為に官邸に走った経済産業省の局長は、「無理をするな。駄目なら日台連携も模索しろ」と言い渡された。「反対はしないが応援もしない」という姿勢に転じた官邸に、機構を所管する経産省も追随せざるを得なくなった。大臣の林幹雄も、「シャープの判断次第だ」と述べるだけになった。機構は最後の巻き返しに出る。税金は投入できず、金額での勝負は難しい。シャープの取締役は13人。「機構案に傾いている生え抜きら6人の票を固めた上で、鴻海案を支持する社外取締役2人を排除する」という戦略だ。その2人は、シャープ株を持つ企業再生ファンドの首脳で、「公平な判断ができない」として議決から締め出すよう働きかけた。だが、社内は纏まらず、敢え無く敗れ去った。機構会長の志賀俊之(『日産自動車』副会長)は2月26日、「シャープとの統合が目的だったので、東芝の家電(の買収)を進めることはない」と悔しさを滲ませた。機構の撤退で液晶業界は、革新機構が出資する『ジャパンディスプレイ(JDI)』と鴻海傘下のシャープが国内外で争う構図が鮮明になった。JDI会長兼CEOの本間充は、「絶対に鴻海とは組まない。ぶっ潰すだけだ」と周囲に息巻く。シャープと統合する予定だった『東芝』の白物家電も、トルコの電機大手を軸に売却を進める見通しとなった。機構に依る再編は立ち消えとなり、シャープは鴻海の下で再建を図る。台湾企業への傘下入りを余儀無くされたのは、一事は世界を席巻した液晶事業に深入りしたことが原因だった。 《敬称略》


≡読売新聞 2016年2月27日付掲載≡
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