【中外時評】 「外国人は生活者」の視点を――社会的コスト抑制にも道

働く外国人の姿をよく目にするようになった。コンビニエンスストアで、外食店で、工事現場で…。介護や農業等でも担い手として期待されている。人口減少下でも日本が成長する為に、外国人材の力は女性・高齢者と共に重要になる。しかし、外国から来た人たちが生活し易い環境かというと、心許無い。「文化庁の日本語のカリキュラムには大事なことが欠けている。“子育て”が無いのはおかしい」。静岡県浜松市で外国人の介護人材育成等の活動をする一般社団法人『グローバル人財サポート浜松』が、先月末に開いたシンポジウム。ブラジル出身の日系4世で通訳業を営む宮本ルーカスさんから、こんな話があった。文化庁が示している日本語の標準的な教育課程には、「健康・安全に暮らす」「消費活動を行う」「目的地に移動する」等8つの生活場面が並ぶ。が、そこには育児の相談をしたり、保育園を探したりといった“子育て”の場面が無い。外国人が家族で日本に住もうとしても、これでは困るという訳だ。

浜松市で暮らす外国人の出身国は80ヵ国を超える。言語が多様になると、通訳も手当てが追いつかない。外国人住民が一定の日本語力を身に付けることは、これまで以上に欠かせなくなっている。宮本さんは、外国人の身になった日本語教育を目指し、他の外国人と共に独自のカリキュラムの開発に取り組んでいる。自作する必要があるほど、現行の教育課程には違和感があるということだろう。在住外国人からは、日本語の教え方への注文もある。浜松市でも、100ヵ国超の国籍の外国人が住む群馬県でも、耳にするのは「もっと易しく教えてほしい」という声だ。ある程度の日本語力の素地がある留学生等とは違って、ゼロから日本語を覚えようという人たちにもわかり易い指導が求められている。群馬県立女子大学が2012年、在住外国人の日本語学習や指導者養成の拠点として設立した『地域日本語教育センター』は、“生活日本語”という易しく覚え易い指導を実践する。




“割引”という漢字を知らなくてもいいが、損をしないよう、“わりびき”と発音はしっかり教える。書けなければならない漢字は自分の名前と住所のみ。「いい天気ですね」と声をかけられたら、黙っているのでなく「そうですね」と返す――。だが、センターの運営は楽ではない。県の予算は限られ、活動に関わっている教員は実質的に2人だけだ。“生活日本語”を教えるボランティアの養成等をもっと展開したいが、今の人員体制では難しいのが実情という。日本語教育だけでも、様々な課題が浮かび上がる。外国人が生活し易い環境作りは何故進まないのか。1つには、外国人の受け入れを巡る政府の姿勢が曖昧なままだからだ。『経済連携協定(EPA)』に基づき、インドネシア等から介護人材を受け入れているが、介護福祉士の国家試験のハードルは不必要に高いと言われる。この例が示すように、外国人を活用しないと立ち行かなくなる分野があっても現実から目を逸らし、受け入れの門戸を狭めてきた。最低賃金に満たない賃金で外国人を働かせる等、問題の多い技能実習制度は抜本的に見直し、受け入れの新たな器になる制度を作る。労働力不足に対応し、受け入れ拡大へ向けた方針を明確にすべき時に来ている。

企業の意識も問題だ。「工場で働く外国人に、生活に必要な日本語を教えたい」とボランティアが持ちかけても、断る企業がある。生産現場で必要な言葉を知っていれば十分という訳だが、それでは日常生活で困るだろう。外国人を労働力としか見ず、“生活者”と捉えない。これでは、外国人が暮らし易い環境作りは進み難い。外国人の生活インフラ整備はやるべきことが多い。医療の面では症状を医師に的確に伝える為、橋渡し役になる“医療通訳”の養成が求められる。子弟の就学支援や教育環境も大事になる。日常の困り事を受け付け、対応に当たる相談窓口を充実させることも欠かせない。日本語を身に付け易くし、学校に馴染めるようにすれば、外国人子弟の不登校の問題も減らせる。医療通訳の普及で適切な診療が広がれば、医療費抑制も期待できる。外国人が暮らし易い環境を整えることは、社会が払うコストを抑える取り組みでもある。一歩を踏み出す時だ。 (論説副委員長 水野裕司)


≡日本経済新聞 2016年3月6日付掲載≡


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