【丸分かり・激震中国】(03) 崩壊を防ぐのに必死の習近平政権…経済成長は鈍化する

習近平政権は、中国共産党の一党支配を維持するのに懸命だ。様々な手を打とうとしているが、行く手には困難が待ち受ける。 (東京福祉大学国際交流センター長 遠藤誉)

20160306 13
中国共産党に依る一党支配体制が限界に来ているのは、誰の目にも明らかだ。習近平国家主席も、そのことは十分に承知している。だからこそ、崩壊を避ける為に多くの国家戦略を進めている。中国には、共産党が支配する社会主義国家としてあってはならない激しい貧富の格差と、党幹部が利権集団として暴利を貪り人民を苦しめているという現実がある。党幹部の周りには、コネと賄賂に依る腐敗天国が出来上がっている。そこで、「このままでは党が滅び、国が滅ぶ」として、2012年11月の第18回党大会で、胡錦濤前総書記も、新しく就任した習近平総書記も“反腐敗”を叫んだ。以来、共産党は「虎も蝿も同時に叩く」として、激しい反腐敗運動を展開。その結果、2013年には18万2000人の党員が、2014年には23万2000人の党員が党規約に違反したとして“処分”された。昨年には、非党員も含め9万2000人が処分されている。この処分には、死刑・無期懲役・数年間の懲役・財産没収等、様々な種類と程度がある。習近平政権になってから、合計50万人ほどが何らかの形で腐敗分子として処分されたことになる。この反腐敗運動を“権力闘争”等と言いたがる人たちがいるが、それは中国の現実を知らな過ぎる故の誤解だ。腐敗を撲滅しなければ最早、共産党の一党支配成立しないほど中国は腐敗が蔓延しており、権力闘争などしている場合ではない。反腐敗で逮捕されることを恐れるあまり経済活動が委縮し、成長を鈍化させる要因の1つになっているほどだ。

中国には、2014年の時点で2億6700万人に上る農民工(田舎から都会に出稼ぎに来た元農民)がいる。この人たちの多くは戸籍も住民票も持っていないので、教育や医療福祉の恩恵に与ることができず、年金など望むべくもない。第1世代の農民工たちは、“世界の工場”である中国を支えるべく、厳しい労働条件に耐えて中国経済を押し上げてきた。だが、今や年老いて社会から切り捨てられようとしている。第2世代の農民工(第1世代の農民工同士が結婚して、都会で生んだ農民工)たちも含めて、中国全土で起きている大小様々な暴動の数は、毎年、18万件に達しているという(清華大学教授の統計)。これらが政府転覆に繋がらないように、習近平政権は2014年3月から2020年までの国家戦略として、『国家新型城鎮化計画』(※城鎮化=都市化)を実行している。これは、農民工を田舎に戻して、田舎を都市化し、そこに雇用を創出する計画だ。彼らには新しい戸籍や住民票等を与え、健康保険の加入や年金の積み立て等をさせる。福利厚生を充実させるのが狙いだが、実は国家の年金自体が2048年に枯渇する。つまり、福利厚生戦略は農民工の為でもあるが、国家の為でもあるのだ。そして、どの国でも福利厚生に重点を置けば、経済成長はその期間、鈍化する。この戦略の終点を2020年としているのは、翌2021年が中国共産党の建党100周年に当たるからだ。限がいいので、2020年を多くの国家戦略の到達目標時点としている。中国では、何をするにも党幹部(全てのレベルの行政や組織の書記)の許認可が必要だ。嘗ては、1つの許可を貰うまでに数十の印鑑を必要とする場合さえあった。印鑑を押す度に、党幹部のポケットには賄賂が入る。許認可の段階が多ければ多いほど、その分だけ賄賂も多くなる。こうして、印鑑を押す党幹部の周りに腐敗の温床が出来上がっていく。しかもこの時、環境汚染を防ぐ為の設備投資等で“目零し”をしてくれる。互いに利益だけを重視して、環境汚染に関しては“きちんとやっていることにする”のである。その結果、中国は空気を吸うこともできない、汚染物質で充満する国になってしまった。このままでは、中間層や富裕層までが政府転覆に向かいかねない。その為、習近平政権では腐敗撲滅と同時に、許認可制度を撤廃或いは簡素化する方向で動いてきた。環境保護法に違反した者は厳重に処罰する。これも結果的に、経済成長を鈍化させる方向に作用している。抑々、中国は今、経済成長に関して“量より質”を重んじているので、国内総生産(GDP)の成長率は鈍化するに決まっている。習近平政権は“形式主義”“官僚主義”“享楽主義”“贅沢主義”を取り締まって、党内の風紀を正そうとする“四風運動”も実施している。この中の“贅沢禁止令”もまた、経済発展を妨げる原因の1つになっている。嘗て、高級レストランや高級酒等の消費の30%は賄賂の為だったので、今はこうした場所で閑古鳥が鳴いている。正常化の為のプロセスは“痛み”を伴うのである。




実を言うと、これらの手法は基本的に毛沢東の模倣だ。「虎も蝿も同時に叩け」というスローガンは、毛沢東が建国初期に使った「大虎も小虎も同時に叩け」の言い換え。四風運動は、毛沢東が日中戦争時代に延安で行った“整風運動”(思想や規律を正す運動)に倣ったものだ。習近平は自分を“延安の人”と名付け、“第2の毛沢東”と位置付けている。それは、現在の中国人民の多くが毛沢東を慕い、「あの頃は貧乏だったけど平等で良かった」と懐かしんでいるのを知っているからだ。「毛沢東の亡霊のような力でも借りない限り、一党支配体制の維持は困難だ」と習近平自身が感じている何よりの証拠なのである。中国は、アメリカから「金融を制する者が世界を制する」ということを学んだ。だから、「国際金融の中心をウォールストリートから北京と上海に移そう」と早くから計画してきた。その計画の1つが『アジアインフラ投資銀行(AIIB)』の設立であり、AIIBの信用度を高める為に、『国際通貨基金(IMF)』が人民元をSDR(特別引き出し権)構成通貨として採用することを狙ってきた。世界的な金融センターのシティでは人民元の取引が行われ、元の国際化に寄与している。それでもなお、中国は「(イギリスの)チャールズ皇太子がチベットのダライ・ラマ法王と仲が良いことが中英関係の悪化を招く」と脅しの材料に使い、AIIBでイギリスの抱き込みに成功した。中国は、人民元の国際化とドルとの対等化を狙い、世界一の経済大国にのし上がることを目指している。また、“一帯一路”(陸と海のシルクロード経済圏)構想に依り、中国は自国から西側、地球の半分を掌握しようと策を練ってきた。一帯一路で、陸の骨格を成すのは高速鉄道だ。昨年末には海の骨格を強化する為、建国後、最大規模の軍事改革を発表。その際、2隻目の国産航空母艦の製造を公表した。これはアメリカへの威嚇だけでなく、北朝鮮の暴走と台湾総統選における台湾独立を威嚇する目的もあった。習近平はこうして、国内に不満を持つ人民の目を外に向け、自分の政権で一党支配体制が崩壊しないよう必死になっている。2022年までの任期中にこれらの国家戦略を完遂し、自分が“ラストエンペラー”にならないことを目指しているのである。


遠藤誉(えんどう・ほまれ) 東京福祉大学国際交流センター長・筑波大学名誉教授。1941年、旧満州(現在の中国東北部)生まれ。内閣府総合科学技術会議専門委員・中国社会科学院社会科学研究所教授等を歴任。専攻は物理学・社会学。著書に『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』(岩波書店)・『毛沢東 日本軍と共謀した男』(新潮新書)等。


キャプチャ  2016年2月2日号掲載
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テーマ : 中国経済
ジャンル : 政治・経済

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