今話題の“猫組長”(元暴力団組長)が緊急寄稿! オフショアで蠢く“幽霊マネー”の正体

投資の世界では、時として不自然な暴騰・暴落が巻き起こる。引き金の多くは投機マネーだ。これまで触れられることがなかった実態を、国際金融に精通する猫組長が活写する!

世界経済がグローバル化している現在、市場の動向を予測・解説するのは非常に難しい。巨額に膨らんだ投機マネーとオフショア取引の実態を把握せずに金融取引を行うのは、目隠しをして車の運転をするくらい無謀なことだ。ところが、書店に並ぶオフショア取引とタックスへイブンの解説書には、実体験に基づいたリアルなものが無い。恐らく、国際金融に職業として携わった経験から書いているのだろうが、それは実務上得た知識であり、視線が違うのだ。タックスへイブンには巨額な資本が流入し、世界の富が蓄積され、膨張し続けている。そこはテロリストから詐欺師まで、ありとあらゆる魑魅魍魎が群れ集う無限のブラックホールである。私は20年以上、反社会的勢力としてオフショアでの金融取引に直接携わってきた。その経験の中から、タックスへイブンについて語れる出来事を1つ紹介したい。

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「3億ドルのBGがあるんですが、使えるスキームありますか?」――。東北大震災の混乱も漸く落ち着いてきた2011年10月、東京の金融会社社長から連絡があった。現在のレートで約360億円の銀行保証が付いた証券を原資に一儲けできないかとの相談が舞い込んだのだ。現物を確認したところ、ロンドンの『HSBC』が発行したもので、名義はHという日本人だった(右写真)。持参したブラックライトを当てると、1枚ずつHSBCのスタンプが浮かび上がり、間違いなく本物とわかった。今回、東京の金融会社に持ち込まれたBGは額面3億ドルであったが、BGを発行するには担保になる原資を銀行に差し入れる必要がある。ここで登場するのが、金保管証券の“SKR”である。 通常、大量の金取引に現物は動かない。銀行のウエアハウスが保管した金地金がSKRという証券となり、それが譲渡されたり質入れされるだけなのである。このSKRを担保としてBGが発行され、額面の10%ほどを支払うことで1年間の期間リースを受けることも可能なのだ。つまり、借り手は原資を10倍まで増やすことができる。更に言えば、ペーパーのやり取りで済むのをいいことに、銀行は実際に保有する以上の金を臆面も無くリースに出し、金利を得ている。こうして大量に生産されたBGがタックスへイブンというブラックホールに流れ込み、更にレバレッジに依って膨張して市場に投入されるのだ。3億ドルの原資となっているSKRは4万8000kgの金保管証券なので、恐らく同じ額面のものが10通(30億ドル)は組まれているだろう。世界の金融市場には実体のある現金だけでなく、このような証券から作り出された巨額な資本が幽霊の如く蠢いている。タックスへイブンはそれらを悉く呑み込み、あるものは巨大企業の隠し財産に、そしてあるものは投機資本に化けるのだ。“TJN”(Tax Justice Network)が『国際通貨基金(IMF)』の統計を基に試算したタックスヘイブンに隠された資金は、21兆~32兆ドル。これは、世界のGDPの3分の1に相当する。




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3億ドルのBGが本物であることがわかった私は、プライベートバンカーにケイマン諸島を本拠地とするファンド会社を紹介してもらった。BGの有効期限が残り10ヵ月しかなかったので、短期間で原資を増やすべく“バレットファンド”で1週間運用の後、“24週プログラム”を組んでもらうことにした。ファンド会社との契約はメールと電話だけで完結できるのが、オフショア取引の魅力の1つだ。BGの移動は“SWIFT MT760”というメッセージタイプの銀行間取引で、これも態々銀行へ行く必要が無い。これらの作業は複雑且つ専門的な法知識が必要な為、ロンドンの会計事務所を使うことにした。“ビッグ4”と呼ばれる会計事務所は世界中にネットワークを持ち、多国籍企業のオフショア節税スキームから個人の相続税対策まで、カネの絡むことなら何でも熟す。こうして、ファンド会社とのジョイントベンチャー契約が10日ほどで完了した。私はアレンジャーとして、BGの額面の2.5%を報酬として1ヵ月後に受け取る契約内容だった。だが――。「関係者の口座は全て凍結されました。捜査当局から取引情報の開示請求も来ています」。契約完了から1週間経った頃、会計事務所の弁護士から突然、知らせが入った。ファンドのプラットホームであるシンガポールの銀行、BGをSWIFT指示した香港の銀行、そしてファンド会社の口座に、『アメリカ金融犯罪取締ネットワーク(FinCEN)』とFBIが合同で捜査のメスを入れてきたのだ。何故、アメリカの捜査機関が動くのか驚いていたのだが、銀行から送られてきた資料を見てその謎は解けた。FinCENとFBIが作成した国際金融犯罪に関するブラックリストに、BGの名義人だったHが載っていたのだ。左に掲載した写真は捜査当局から貰ったブラックリストで、名前・住所・パスポート番号からメールアドレスまで掲載されている。どれも皆、国際金融市場では札付きの詐欺師・事件師であり、中には指名手配犯も含まれる。どうやら、Hが組んだBGの原資だったSKRは、インドネシアの財閥から騙し取られたものであったらしい。私は急遽、Hが滞在するマニラへ数人の若い者を送り込んだ。勿論、Hを捕まえて、ファンド契約に要した費用である約1億円を回収する為だ。マニラの自宅は、まるで泥棒が入ったかのような荒れ方であったらしい。Hはおろか、同居している筈の女の姿も無く、寝室には相当の血痕もあったようだ。その後の結末も詳しい経緯も、私にはわからない。ファンドの手数料として入る筈だった750万ドルは泡と消え、1億円ほどの赤字が出ただけだった。タックスへイブンには巨額の資金と、それを追いかけるハイエナたちが流れ込む。そして、膨れ上がった投機マネーは行き場を求めて市場を目指すのだ。Hの消息は、今も不明のままだ。

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キャプチャ  2016年2月23日号掲載
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