【儲かる農業】(03) 先輩農家に学ぶ成功の鍵は経営者の才覚と“5つの秘訣”

農業の魅力は、経営者が自身のカラーを打ち出し易いこと。農業で成功する要素として、経営者の才覚は欠かせない。モデル農家の成功例から、5つの秘訣を導き出した。

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①経営ビジョン…農林水産省も真っ青な目標設定と堅実な収益モデルが強み
昨年12月、霙交じりの雨が降り頻る中、本誌記者は石川県北部の能登半島を訪れた。典型的な中山間地域である能登半島だが、実は、数十haから100ha規模での企業の農業参入が相次いでいる。傾斜地が多いものの、土地改良等で整備された纏まった農地が貸し出される為、農業参入を検討する企業にとって注目のスポットとなっているのだ。石川県も強力に農業生産法人を誘致する中、県外企業のトップバッターとして能登半島に参入したのが、茨城県の『ワールドファーム』だ。この地では、昨年から10haで営農を始めており、今年・来年と10haずつ増やす計画だ。同社の畑を訪れると、そこにはしゃがみ込んだ大人ほどの岩石がごろごろと転がっていた。耕作放棄地を再生する為に、地元・石川県が誇るグローバル企業『コマツ』の協力を得て、建機で農地から掘り出したものだという。岩石には、能登半島特有の赤土が付着している。気が付くと、記者の靴にも草鞋のような形に泥がこびり付いていた。水捌けが悪く、農業に適した土ではない。これから草をすき込んだりして、土作りから始めなければいけない。「こんな荒れた土地で“儲かる農業”の取材なんてできるのか」。そんな疑念を抱きつつ、ワールドファームの上野裕志社長の話を聞くと、腰を抜かしそうになった。手渡された資料には、天下の農林水産省も宣言できないような壮大な目標が、経営ビジョンと共に記されていたのだ。題して『農産物の国産化プロジェクト』。その一例として現在、「日本全体で年間100万トンを中国等から輸入している冷凍野菜のうち、50万トン分をワールドファームが国内生産する」と宣言されていたのだ。上野社長の説明が熱を帯び、ビジネスモデルが明らかにされる頃には、記者の疑念は解消していた。

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ワールドファームの場合、目標こそ大胆ではあるが、それを達成する為のビジネスモデルは極めて堅実で実践的だ。同社では、生鮮品だけではなく、自社工場で加工する“カット野菜”も販売している。右表を見てほしい。同じキャベツの生産・販売でも、生鮮品に比べてカット野菜は、粗利益で20倍、粗利率で12倍にもなる。農場の近隣にカット工場があり、農場スタッフがそのまま工場で働く為、人件費を抑えられる。それに加えて、自分たちでカット作業を行うので、無駄無く野菜を使い切れるような“農産物の育て方”ができる。キャベツならば、スーパーに出荷する生鮮品の1.4倍ほどの重量になるまで育てる為、面積当たりの収量は当然ながら多くなる。一般的には規格外になりそうな育ち過ぎたキャベツでも、微塵切りにすればギョーザ等の冷凍食品用に有効活用できる。外見も味も、生鮮品とは求められるものが違うのだ。そして、カット野菜の販売価格は“顧客が使い易い形に加工されている”ことが付加価値となり、生鮮品より高い。その結果が40%という粗利率だ。100haの農地でホウレンソウを作り、カットする熊本支店の2014年度の売上高は5億1582万円で、経常利益率は13.8%を達成した。ワールドファームは、このビジネスモデルを武器に生産を急拡させている。現在の陣容はカット工場3ヵ所、そして農地は、北は秋田県から南は熊本県まで9県にあり、総作付面積は286haに上る。これを、5年後には1000ha超にまで増やす意向だ。新潟県等、新たに8県への進出を予定している。飛ぶ鳥を落とす勢いの農業ベンチャーに魅力を感じる若者は多い。社員60人のうち、半分以上は20代の若手。日本全国の農家の平均年齢のボリュームゾーンが70代以上であるのとは対照的だ。社員の待遇も大企業並みで、年間の休日は120日。給与は、20代の工場・農場のマネージャーで年収700万円前後にもなる。若手社員は年齢が近いこともあり、仕事の後に体育館でバスケットボールをしたり、休日にキャンプに行ったりと活気がある職場だという。過去10年間の離職者数は僅か6人というのも頷ける。話を経営ビジョンに戻そう。熊本の農場で農業体験した本誌記者に依れば、ホウレンソウの収穫作業の休憩中、社員らが収穫したホウレンソウを囲み、その出来や改善点等を議論し始めた。その真剣さは素より、社員1人ひとりが同社の経営ビジョンと、それを実現する為に必要なことを理解し、実践していることに圧倒されたという。同社のカット野菜は食品流通会社を通じて、『マルハニチロ』『リンガーハット』『キユーピー』等が使う。こうした大手食品メーカーにとって重要なのは、農家が20~30年先まで大量の野菜を安定供給できる農業の持続可能性だ。ワールドファームの強みは、的確な経営ビジョンの策定と、それを達成する為の高収益モデルにある。それを支えているのが、切磋琢磨しながら育った若い実動部隊だ。彼らの存在があるからこそ、大手食品メーカーも行政も、ワールドファームのファンになってしまうのだ。




②コストダウン…きっかけは母と競った原体験、驚異のコメ生産費44%カット
政府は10年間で、コメの生産費を4割下げ、1俵(60kg)当たり9600円にする目標を掲げる。だが、それを上回るコスト削減を実現し、補助金がなくても成り立つ経営をしているコメ農家がいる。茨城県龍ケ崎市の農業生産法人『横田農場』だ。龍ケ崎市は、東京都心から鉄道で1時間の距離にあるベッドタウンだが、農場周辺は東北地方の水田地帯かと見紛うほど、見渡す限りの田圃が広がっている。横田農場のコメ生産費は1俵9000円と、政府のコスト削減目標の基準となる1俵1万6001円を44%も下回る。低コスト生産の秘訣は、125haの水田を1セットの農機(コンバイン1台・田植え機3台等)で耕作することだ。20~30haで1セットというコメ業界の常識を覆しているのだ。最小限の農機で済ませる為、横田修一社長を始め、同社の社員は農機をオーバーホールできる“農家兼エンジニア”である。横田社長には強烈な原体験がある。中学3年生の夏、部活を引退した直後の最も体力に自信のある時に、畦の草刈りの速さで母親に完敗したのだ。しかも、母の作業スピードは自分の2倍だった。敗因は鎌の使い方だった。橫田社長は薄く研いだ刃全体を使って草を刈った為、直ぐに切れなくなった。母は厚めに研ぎ、尚且つ刃を数㎝刻みで切れ味が悪くなるまで使い潰していたので、1回の研磨で長く使えたのだ。鎌という原始的な道具ですら、使い方次第で生産性は2倍も違う。大学卒業後に就農してからは、農機の修理をできるだけメーカーに任せず、止むを得ず頼む場合は目を皿のようにして技術を盗んだ。結果、農機のメンテナンスは万全になり、稼働時間と寿命は長くなった。一般には生産費の20%(1俵換算で3200円)を占める農機代を、同7%(同630円)まで抑えることに成功したのだ。

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横田農場は、栽培時期が異なる7つの品種のコメを植え、田植えと収穫を其々2ヵ月かけて行うが、それも1セットの農機で済ませる為だ。販売価格の高いコシヒカリは直売向け、手頃な価格のコメは加工業者向けというように、品種毎に最適な売り先を確保しているのも強みだ。本誌“担い手農家アンケート”の回答者には、生産費が1俵7000円台という猛者もいた(農地が無料で借りられる地域であり、条件が横田農場とは異なる)。この農家は農機を購入する際、JAと大手メーカー3社のディーラーに価格競争をさせ、農機本体の価格を2.5割ほど値引きさせる。更に値切ると、オイルや部品等をサービスしてもらうことができ、結果的に実質3割は安く買うことができるという。この農家は、「機械の更新に補助金を使う人や、高齢者の中には農協等の言い値で買ってしまう人もいる。農機メーカーもそれをわかっているので、定価は高く設定している」と指摘する。コスト削減のもう1つのポイントは、単位面積当たりの収穫量を「通常の7割でいい」と割り切ることだ。そうすることで、農薬と肥料を減らせる。この“割り切り栽培”で水田毎の生産量は減るが、毎年10ha以上の農地を新たに周辺の農家から借りられる為、全体の生産量は増える。成長のサイクルが回り、投資余力が生まれる仕掛けになっていることも重要だ。勿論、野菜農家もコスト削減に努力している。左表を見てほしい。これは、タマネギの生産・販売でJAを利用した場合(JA出荷)と、民間企業を利用した場合(独自出荷)の収支を比較したものだ。独自出荷では、農薬と化学肥料を半分にする環境に優しい栽培方法を行うことを前提にしている。そのおかげで、JA出荷より農薬代を8割、生産コストを4割減らすことができるのだ。結果的に、10ha当たりの所得はJA出荷の4.6倍の24万1500円となる。どこから生産資材を買って、どこへ農産物を売るかで、“儲かる農業”を実現できるかどうかが決まることは明らかだ。実は、JAに出荷する場合でも環境に優しい栽培に取り組む農家は多い。しかし、生産資材の価格が地域の民間企業より割高なことが多いのが、本誌の“担い手農家アンケート”で明らかになっている。農家のコストダウンにはJAの支援が欠かせないことも揺るぎない事実である。

③販路の確保…30年越しの大ヒット商品、超高給おせちがバカ売れ
石川県の農業生産法人『六星』の厨房は毎年、大晦日に“戦場”となる。総菜部門の精鋭20人が、おせち料理400セットを一気に盛り付けるからだ。価格は3段重ねタイプで2万5000円。農家が農産物を加工・販売する農業の6次産業化の中でも、最高峰の商品と言えるだろう。六星は、140haでコメを、8haで大根等を作付けるが、通常、この規模で生鮮品として出荷した場合、売上高は1億数千万円に留まる。農産物を餅等に加工することで、売上高を9億8000万円まで増やしているのが六星の凄みだ。ここに至る道程が順風満帆だった訳ではない。同社が、農産物の加工で初のヒット商品となる“かき餅”を売り出したのが1982年。それから、おせち料理を売るまでに30年が経っていた。その間、「『農家が売る加工食品だから』といった甘えが出ないように、品質管理を徹底しつつ、商品を増やしてきた」(安田正和取締役)。特に、野菜の調達には苦労した。自社生産に加え、品質のいい野菜を作る提携農家を県内に確保して、ブランドを守る。現在では、年間3億円分を売る鏡餅等の定番商品が育ち、売り先は地元の直営店・スーパー・大手デパートまで拡大した。「販路はあるが生産が追い付かない」(安田取締役)と嬉しい悲鳴を上げる。前回紹介した“モデル農家”上位の20農場では、何れも農産物を作付ける段階で、生産額ベースで7割以上の農産物の売り先と価格が決まっている。作ってから売り先を探すのではなく、再生産可能な価格で売れるものを作っているのだ。コメ価格は長期低落傾向にあるが、やり手の農家は、複数年に亘り固定価格で売れる顧客をしっかり掴んでいる。秋田県の『北浦郷』や茨城県の『横田農場』等がそうだ。中でも、宮城県の『黒澤ライスサービス』の黒澤伸嘉代表は極めて戦略的だ。大学卒業後、実家の農業を継ぐ前に、将来の販路確保の為に神奈川県の生協に勤務。人脈作りに成功し、就農後、農薬不使用のコメを販売できている。価格は1俵3万円超と市場価格の2倍以上。コメ農家でありながら減反の補助金を受け取ったことが無い、稀な企業家なのである。

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④農産物・地域のポートフォリオ…野菜40品目と飛び地農法が可能にした“リスク分散”
群馬県の農業生産法人『野菜くらぶ』の歴史は、事業の多角化の歴史だと言っても過言ではない。原点は1980年代に遡る。野菜くらぶの澤浦彰治社長は、蒟蒻相場の大暴落に見舞われ、破産状態に追い込まれていた。1990年、経営を安定させる方策として蒟蒻の加工を始めたのが、多角化への第一歩だった。来年度の売上高は、グループ企業も合わせて34億5000万円を見込む。この内、生鮮品の集荷・販売が61%、加工品の販売が23%を占める。「売り上げが3~4倍になる加工品の構成比を上げることで、経営を安定させてきた」(澤浦氏)という。現在は、更に進化したポートフォリオ経営を実践している。先ず、扱う生鮮品は40品目に及ぶ。もっとユニークなのは、生産・集術・販売する生鮮品の生産地が、本拠地の群馬県を始め、青森・京都・島根等といった6府県に亘る“飛び地農法”を実践していることだ。南北に長い日本列島に生産地を散らして、野菜を周年供給すると同時に、想定外の不作など天候リスクに備えている。近年、温暖化に依る農産物被害が深刻化しており、農家は相場の乱高下リスクに晒されている。品目と地域の選定において最適なポートフォリオを組むことで、経営のリスク分散を図っているのだ。澤浦氏が生産地を広げる際には、自社で修業した研修生を各地で独立させる手法を取ることが多い。澤浦農法を会得し、巣立った卒業生たちが、各地で農産物を生産する。澤浦氏はその農産物を買い上げることで、事業規模を拡大させている。縁も所縁も無い青森県で就農した山田広治さんも独立した1人。就農14年目で売上高6000万円に達しホクホク顔だが、それは澤浦氏にとってもハッピーなことなのだ。

⑤人材の育成…マネージャーの給料は70万円! 農業でも能力給が当たり前に
農業界で、マネージャーの人材争奪戦が激化している。生産技術に精通しており、現場のマネジメントもできる人材が足りないのだ。農家が挙ってマネージャー人材を欲しがるのは、彼らの存在が経営に与えるインパクトが大きいからだ。例えば、建設費10億円規模の施設でトマトを作る場合、生産技術の責任者の実力如何で、1億円の黒字にも1億円の赤字にもなり得るという。山梨県の農業生産法人『サラダボウル』は、業界の中でも人材育成に定評のある企業として知られる。簡単に言えば、“人を育てられる人材”を育て続けている。マネージャー層の月給は30万~70万円で、他産業を上回る水準に達している。 また、『三井物産』と合弁で立ち上げた農業生産法人『アグリビジョン』が行うガラス温室でのトマト生産では、完全週休2日制が採用されている。“毎日が平日”が当たり前の農業では珍しい厚待遇だ。待遇がいい分、責任は重い。マネージャーの賃金体系は“能力給”へシフトしており、働きが悪ければ給料は上がらない。サラダボウルの田中進社長は、経営学・ファイナンス・マーケティング・人材育成等、社内で蓄積した経営ノウハウの講義を映像化し、『オンラインアグリビジネススクール』というサイトで公開。全国の農家や教育関係者が、320本以上の動画を無料でインターネット視聴できるようにしている。


キャプチャ  2016年2月6日号掲載


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テーマ : 農政
ジャンル : 政治・経済

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