【丸分かり・激震中国】(04) 地方債乱発の懸念…天津は財政破綻の瀬戸際

地方政府の債務が積み上がっている。地方財政の悪化は、減速する中国経済に更なる打撃を与える可能性がある。 (大東文化大学経済学部教授 内藤二郎)

20160313 03
中国では、2008年のリーマンショック後の大規模景気対策の過程で政府債務が大きく上がっており、特に地方政府の過剰債務が深刻なリスクとして懸念されている。中国審計署(日本の会計検査院に相当)に依ると、2013年末の地方政府債務の残高は約17.9兆元(約322兆円)に達した。その後も増加を続け、2014年末には30兆元(約540兆円)を超えたという報告もある。リーマンショック後に実施された4兆元(約72兆円)の公共投資のうち、1.18兆元が中央分、残りの2.82兆元は地方分であり、地方政府は大規模な資金調達を強いられた上、その多くが有利子負債であったことから、地方財政の大きな負担となった。こうした資金の多くが『地方政府融資平台』(融資プラットフォーム)を通じて調達されてきた。そして、その使途はインフラ整備関連・交通運輸関係の投資や、土地収用・備蓄等の開発関連が中心で、地方財政の土地依存体質を深刻化させた。地方財政構造の特徴として、税外収入のうち、政府性基金(日本の特別会計に相当)の土地・資源関連の収入の伸びが大きい傾向にあった。同時に、不動産宮業税・建築宮業税・不動産契約税等といった不動産関連税収の伸びも大きくなっていた。これは、財政の土地や不動産への依存度が高いことを示すものであり、特に地方財政においてこの傾向が強い。その為、不動産市場の状況が財政に大きな影響を齎すことになり、財政の不安定性が従前から懸念されてきた。ここに来てその不安が表面化し、不動産市況の急激な悪化が政府性基金の減少にも繋がっている。昨年上半期の政府性基金収入は、前年同期比33.2%減の約1兆7300億元と大きく落ち込んだ。問題はその内訳であり、中央政府性基金収入が同13.8%増の約2016億元だったのに対し、地方政府性基金収入は約1兆5300億元で同36.7%も減少。その内、土地譲渡収入が同38.3%減の約1兆3000億元で、約8000億元も減った。地方財政が厳しさを増す中、注目されたのが天津市である。天津市では、大規模開発の為に多額の資金を投入してきたが、不動産市況の悪化等の影響を受けて、2014年には直接債務残高が約2250億元(約4兆円)に達し、その他の債務を加えると実質的に財政破綻しているとされた。そこへ昨年8月に起きた大規模爆発事故で、更に財政負担が急増。同市の昨年1~10月の地方政府性基金収入は前年同期比で約37%減少しており、更に厳しさを増していることが窺える。土地・不動産への依存体質が愈々限界を迎え、地方政府債務問題のリスクが更に高まると同時に、地方政府は厳しい財政運営に直面することになり、地方財政制度や構造改革が喫緊の課題となっている。

こうした状況の中で、昨年1月1日から新予算法が施行され、とりわけ地方債の改革が大きく注目された。元々、地方政府の債券発行に依る資金調達は禁止されていたが、リーマンショック後の積極的財政政策を継続する為に、2009年に中央政府に依る代理発行という形で地方債発行が解禁された。その後、一部地域での地方債の試験的自主発行を経て、省レベル政府に依る自主起債が認められるようになった。これは、地方政府債務の透明性を高めることが1つの狙いであるとされたが、他方で融資プラッフォームやシャドーバンキングに対する規制強化等に依って、地方政府の収入確保が厳しくなったという事情もある。今回の制度改正は、起債を省レベル政府に限定して責任を持たせたことや、使途を公共投資と累積債務の返済に限定する等、強く管理されている。地方財政リスクをこれ以上拡大させない為の措置とは言え、実際には地方債発行が拡大する状況が既に生じている。今年度予算では、一般会計予算赤字額の5000億元について、地方政府の一般債券を発行した。これとは別に、政府性基金の地方政府分の中で収益の見込めるプロジェクト資金の調達を目的とした“地方政府専項債券”を1000億元発行。また、債券が順次償還期限を迎える中で、地方財政の負担を軽減する為、借り換え債券も発行された。借り換え債は当初、昨年末に償還期限を迎える約1兆8600億元分を対象とし、そのうち1兆元の発行枠が設定された。ところが、景気減速が加速する状況で地方政府の債務不履行に対する懸念が高まったこともあり、昨年6月に1兆元の借り換え枠を追加設定。その後も修正が加えられ、最終的には3兆2000億元にまで拡大した。今後、更に大幅拡大される可能性も指摘されている。借り換え債の発行に依って、より低金利且つ長期的なものに置き換わり、地方財政の負担は軽減されたが、こうした手法では地方政府の債券発行動機が急激に高まり、地方債の乱発という新たな問題の火種になりかねない。




20160313 04
このように、様々な問題を抱える地方政府の債務問題に対する現在の諸改革は、地方財政の負担を軽減しつつ、徐々に解決を図るものであり、相当の時間を要する。その過程で、地方債の発行増等といった新たな問題が生じれば、更に危機は増幅されてしまう。地方の債務問題を抜本的に解決するには、地方財政の透明化と共に、安定した財源確保を進めなければならない。その第一歩は税制改革である。これまでにも、税制改革の必要性が繰り返し指摘されてきた。例えば所得税については、複数存在する所得の種類別に分離課税方式が採られている為、税の捕捉が不十分である。また、格差問題の是正に重要となる不動産税(固定資産税)や遺産税(相続税)・贈与税等も未整備なままだ。所得税の総合課税化や不動産税・遺産税及び贈与税の整備の必要は明らかであるにも拘らず、改革が遅々として進んでいない。これらは何れも、権力層や富裕層を中心とした既得権者にとっては不都合な面があり、強い抵抗があるものと考えられる。だからと言って、このままの状況を放置しておけば財政問題の解決は不可能である。また、国家財政全体の構造改革とも言える中央と地方の財政関係の再構築も必要だ。中央と各地方レベル政府の間の事務分担・権限の配置・財源の確保・責任の明確化という一連の体系についての検討が不十分なまま、体制作りが遅れている。これらの改革は、地方政府の債務問題を改善していく上で極めて重要となる。経済減速局面において、「地方政府が公共事業の拡大に依る大規模景気対策という従来型の手法に戻るのではないか」との危惧が広がる中、地方政府の債務問題の解決、そして地方財政の健全化に向けた改革は待ったなしである。現政権の手腕とリーダーシップが問われている。


キャプチャ  2016年2月2日号掲載
2015年中国の真実 [ 宮崎正弘 ]

2015年中国の真実 [ 宮崎正弘 ]
価格:972円(税込、送料込)



スポンサーサイト

テーマ : 中国経済
ジャンル : 政治・経済

Categories
Profile

KNDIC

Author:KNDIC
Welcome to my blog.

Latest articles
Archives
Counter
I'm participating in the ranking.

FC2Blog Ranking

information
Search
RSS Links
Link
QR Code
QR