【儲かる農業】(04) 広がる地元産米への回帰…日本酒1日1合が農業を救う

20160313 05
美しい水田が広がる秋田県横手市平鹿町。秋にそこで収穫されるのは、普通の稲ではない。近付いてみると、穂が大きく垂れ下がっている。日本酒に使う為の酒米だ。そのコメを磨き、かの地で『浅舞酒造』に依って醸されるのが、日本酒『天の戸』だ。浅舞酒造は“半径5kmの酒造り”を掲げている。地元のコメだけを原料として、そのコメを育てているのと同じ水系の水を、酒の仕込みにも使っているのだ。同蔵元の蔵人(酒を造る人)のうち5人が、近隣で農家も兼ねていて、酒米を栽培している。自らが育てたコメだけに、仕込みの目付きも真剣だ。「早朝、コメを洗っていると神秘的な気持ちになる」と森谷康市杜氏が言うよう に、冬の朝早い蔵の中には厳かな雰囲気すら漂っている。こうして世に送り出された天の戸は、品評会の金賞を何度も受賞し、首都圏の日本酒ファンの評価もかなり高い。実は、浅舞酒造のように、地元のコメだけに拘っている蔵元(日本酒の生産者の呼称)は極めて少数派だ。況してや、1980年代から取り組んでいるとなると、かなり珍しいと言える。「え? 酒って米どころで造るのが当たり前でしょ?」「地酒っていうくらいだから、地元のものを使っているんでしょ?」と思われるかもしれないが、決してそんなことはないのだ。そこがワインとの決定的な違いでもある。フランスやイタリア等の、評価の高い有力なワインの生産者は、目の前のブドウ畑から採れたブドウを使って生産している。勿論、他の生産者が造ったワインを買い集めてブレンドするタイプのワインもあるが、それでも、その生産地を名乗るには厳格なルールがある。ところが、日本酒は全く異なる。拘りの日本酒のことを“地酒”と呼ぶが、これまで多くの日本酒は、水以外の地元の原料を殆ど使ってこなかった。振り返れば、酒造りは地元の農業と密接に関わってきた。原料となるコメが多く収穫される地域では日本酒の生産が盛んになったし、酒造りに必須な酵母はその蔵元の建物の中に棲み付いた独自のものが利用されてきた。しかし、それは随分と昔の話だ。いつの頃からか、良い酒とされる日本酒は、兵庫県産の酒造りに向いたコメ“山田錦”を使い、酵母は九州に由来する特定の酵母を使ったものとされた。似通った原料と製法で造られた日本酒が品評会等で金賞を取り、消費者にも評価された時代があったが、一方で金太郎飴のように均質化を招き、次第に日本酒の人気は低迷していった。そこで今、全国の熱心な蔵元はその流れに異を唱え、個性の強い日本酒を造ろうとしている。具体的には、地元産のコメと酵母を使おうとしているのだ。その結果、再び、酒造りと農業は密接で 不可分な関係に戻り始めている。

ワインのように地元で完結しているということは、ストーリー性があり、消費者に伝わり易い。そして消費者の側にも、似たような日本酒に飽きて嗜好が多様化しているという事情がある。この動きが広がることは、日本酒の人気拡大にも貢献する筈だ。拘りの日本酒を揃え、東京の銀座と神奈川の横浜に店舗を構える酒販店『横浜君嶋屋』。君嶋哲至社長は、「酒造りで最も大切なことは農業。つまり、コメ作り」と断言する。日頃から多くの蔵元を直接訪ねているが、各地で自前の田でコメ作りを始めたり、或いは協力農家にコメ作りを頼み、毎日のように田を見て回るような熱心な蔵元が、少しずつではあるが増えてきているという。農家にとっても、この流れは大歓迎だ。何故なら、酒米の価格は高く、例えば山田錦なら、食用の飯米の2倍以上にもなる。「普通のコメが1俵1万2000~1万3000円でも、山田錦なら3万円を超えることもある」(酒米生産者)。今や、多くの自治体が独自のコメの開発に力を入れ、味に個性があり、その地の気候に合った品種が登場しつつある。課題となるのは継続性だ。酒米は高い半面、飯米に比べて細かい品質の差が酒質を左右する為、「今年は出来が悪いから買わない」という蔵元がいてもおかしくないのだ。近年、飯米の価格が安いからと、酒米の生産に乗り出した農家が多く、一種のブームの様相を呈しているという。しかし、酒米の栽培にはノウハウが必要で、いきなり高品質なものができる可能性は低いし、それを蔵元が買い取ってくれる保証はどこにも無い。「既に買い取ってもらえずに、だぶつかせている農家がいる」(酒米生産者)という。実は冒頭の浅舞酒造では、協力してくれる農家に対して、ある約束をしている。農家の不安を払拭する為に、買い取る量ではなく、作付面積に比例した金額を前年から保証しているのだ。これなら、天候に依り不作だったとしても実入りは変わらない。酒米の栽培は手間がかかるだけに、今後、全国で酒米作りを拡大させる為には、農家が安心できるような仕組みが必須となろう。早くからコメの重要性を指摘してきた酒食ジャーナリストの山本洋子氏は、「日本酒を消費することで日本の稲作を救うことができる」と話す。山本氏は、ある試算をしている。現在、全国に計100万以上もある休耕田で日本酒の為のコメを栽培すれば、一升瓶が36億本できる。それを日本の成人人口で割ると、1人(当たり)年間36本、つまり1日当たり1合を飲めば、日本の農業復活に貢献できるのだ。更に山本氏は、「TPPで、日本酒の輸出に際して関税が撤廃される。外国人にも理解し易いように、今こそコメ作りを重視すべき」と説く。日本の農業に貢献する為にも、或いは海外でブームになり入手困難になる前に、日本酒を飲んでみてはどうだろうか。




■野菜工場も実は技術者次第…業界トップ“茨の道”の再出発
国内最大級の野菜工場を運営するベンチャー『みらい』が、昨年6月に破綻した。本来、野菜工場では天候に左右されることなく、均一に野菜ができるものだ。しかも、同社のシステムは太陽光を使わず、人工光で野菜を育てる為、尚更外部環境の変化を受け難い筈だった。だが、現実はそう甘くはなかった。実際には、人工光で植物を発芽させ、出荷するまで効率的に育成する技術は未成熟だった。にも拘らず、増産を急ぎ過ぎたのだ。2014年春に、生産能力を一気に既存工場の7倍へと拡大。レタス等を1日に2万7000株も出荷できるレベルの設備投資を行った。直ぐに躓きはやって来た。主力の千葉県柏市の野菜工場において、レタスが目標の6~7割の大きさにしか育たない事態が発生したのだ。現場の生産技術者が経験不足だったことが決定打となった。工場には正社員の技術者3人が詰めていたが、うち2人は工場の稼働直前に採用した新人だった。想定外の事態に、対応が後手に回ってしまった。人材育成が追い付かないほどの急拡大路線のツケで負債が膨らみ、遂に破綻した。昨年12月、みらいは新生『MIRAI』として再出発を果たした。同社の室田達男社長は、「採用活動に力を入れ、生産技術者の体制を強化する」と話す。原料の安定供給を重視する外食・中食への野菜の出荷や、中東等への生産システム輸出で再起を誓う。


キャプチャ  2016年2月6日号掲載


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テーマ : 農政
ジャンル : 政治・経済

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