軽減税率の穴埋め財源は“たばこ増税”…それでも儲かり続ける国策企業『JT』の謎

軽減税率の代替財源に、2020年東京オリンピック・パラリンピックに向けての受動喫煙対策…。絶滅寸前の愛煙家だが、たばこを販売する『JT』は既に縮小市場の日本に見切りをつけ、世界の貧困層を食い物にする“たばこ帝国主義”の戦いを繰り広げている。その実態とは――。 (取材・文/フリージャーナリスト 小石川シンイチ)

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たばこが1箱1000円になる日が近いかもしれない――。昨年12月16日、与党は『与党税制改正大綱』において、消費税率の2017年度からの10%への引き上げ時に飲食料品全般(但し酒類・外食を除く)等にかかる税率を8%に据え置く“軽減税率”制度を導入することを決めた。軽減税率は、連立政権の公明党が低所得者の負担軽減の為に、飲食料品全般での導入を強く主張したものだが、「飲食料品消費全体の4分の1程度を占める外食まで含めると、税収減が多額になる」と財務省が反対し、“飲食料品全般(但し酒類・外食を除く)”に落ち着いた。しかし、弁当やファストフードのテイクアウトの扱い等、飲食料品の購入と外食との境界線が曖昧な部分が多くあり、今後も混乱が予想されている。更に、代替財源の問題もある。軽減税率が導入されることで、税収から消えていく金額は約1兆円。この内、これまでに確保した財源は4割の4000億円とされ、未だ6000億円が不足した状態だ。消費税増税に伴う増収分は、全額が医療・年金・介護等の社会保障制度の財源に充てられる為に、社会保障制度に影響が出てくることも予想されるが、議論は先送りされたままだ。そこで急浮上しているのが“たばこ税増税”だ。たばこ1本当たり3円程度を上乗せすることで、5000億円規模の税収増を見込む。例えば、代表的なたばこの銘柄である『セブンスター』は460円。2010年10月のたばこ税増税(1本当たり3.5円の税率引き上げ)で70円値上げだ。しかし、2014年4月の8%への消費税率引き上げに伴って20円値上げされたばかりだ。たばこ1本あたり3円程度を上乗せとなれば、1箱20本であるから、またしても60円の値上げとなり、520円となる。遂にワンコイン突破で、ランチよりも高いたばこ代となり、愛煙家の悲鳴が聞こえてくるようだ。更に、愛煙家にとっては追い打ちをかけるように、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、受動喫煙対策を強化する動きが活発化している。昨年9月2日には、自民党の受動喫煙防止議員連盟が総会を開き、基本方針を纏めた。それに依ると、たばこ税を「例えば思い切って1箱1000円に」大幅アップすることを求めていくという。更に、1箱1000円とはいかなくても、駅等の公共空間での完全分煙や、学校や病院等での完全禁煙を徹底し、罰則を含めた更なる措置を国に求めていく方針だ。

厚生労働省に依ると、2003年に27.7%だった喫煙率は、2012年には20.7%にまで減少。喫煙者自体が少数派になりつつあり、更なる増税は喫煙者を絶滅危惧種に追い込むのではないか。とある経済ジャーナリストが語る。「『たばこ価格が大幅アップすると禁煙する人が増え、最終的な税収が減って国が困る』と言われますが、厚生労働省が運営する健康情報サイト“e-ヘルスネット”の海外事例に依ると、『南アフリカでは1993年から2009年にかけ、たばこ1箱が6.68ランドから20.82ランドと約3倍になった。これにより、たばこ総販売量は3分の1になったものの、税収は10億ランドから90億ランドに大幅アップ』『こうした傾向は、フランスなどの先進国でも見られる』としています。日本でも、2010年のたばこ税増税に依る70円値上げでは、たばこの販売本数(2011年実績)は6~19%減少。その一方で、たばこの売上額は10~20%増加しました。つまり、販売収益は増えたのです。税収も25~34%増加しました。たばこの強い依存性が明らかになったのです。政府関係者は、『1000円を超えているイギリス並みにできるのではないか』と見ています」。確かに、『日本たばこ協会』の年度別販売実績推移表を見ても、2011年の販売数量は前年度比94%に留まったものの、販売代金は113.6%と増加していることがわかる。2013年には、翌2014年の増税への駆け込み消費もあり、販売数量1969億本(前年度比100.9%)、販売代金4兆744億円(前年度比100.7%)と、共に増加したほどだ。しかし、健康志向の高まりで、今や愛煙家は低所得者中心に なっている。「平成26年“国民健康・栄養調査”(厚生労働省)の結果に依ると、年収200万円未満の喫煙率は、男性35.4%・女性15.3%。600万円以上の喫煙率は、男性29.2%・女性5.6%です。消費増税の軽減税率は低所得者対策と言いながら、その代替財源のたばこ増税とは、事実上、低所得者を食い物にしているとしか言い様がありません」(経済ジャーナリスト)。更に、これ以上のたばこ税の増税は、原料となる葉たばこ農家や小売店からの反発も予想される。事実上、日本国内のたばこ市場を独占する『JT(日本たばこ産業株式会社)』だって許さないのではないか。




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JTと言えば抑々、1949年に公社化され、1985年に民営化された『日本専売公社』。より遡れば、1904年、日露戦争の戦費調達の必要性から制定された葉煙草専売法に依り、旧大蔵省に依る事業独占が始まり、それ以来、財務省が葉たばこ農家・製造業者・小売店をコントロール下に置いてきた国策会社なのだ。JTやグループ会社のトップの座は、最近まで財務省OBが天下りし、財務省は3分の1超の株式を保有する大株主である。少子化で人口が減っているとは言え、たばこ税収もこの10年間、粗2兆円強(うち国税1兆円強、地方税約1兆円)、財務省はJTの筆頭株主として、毎年300億円前後の配当金も受け取っているという関係だ。「但し、JTは増税には反対しません。というのも、既に国内市場を諦めて、海外市場に活路を見出しているからです。株価を見ても、たばこ税増税が取り沙汰されても全く影響を受けていません。多くの投資家も国内市場について、急減は兎も角、喫煙者人口減少は織り込み済みなのです」(企業アナリスト)。実は、JTグループは国内たばこ事業だけでなく、海外たばこ事業・医薬・加工食品等の事業が3大柱だが、海外たばこ事業は2014年12月期で売上収益(2兆4335億円)の約55%、調整後営業収益(6601億円)の65%を占めるまでに至っている。一方で、国内たばこ事業は売上収益(2兆4335億円)の僅か約17%なのだ。「JTグループの社員数は世界で約5万2000人。このうち、半数以上の約2万7000人は海外たばこ事業に従事する外国人です。海外たばこ事業は子会社のJTIが運営していますが、本社はスイスのジュネーブです。JTグループは、たばこ産業で世界3位の規模になっており、世界第2位のたばこ市場であるロシアで37%のシェアを持っています。“マールボロ”ブランドでアメリカとEUで圧倒的なシェアを持つ業界最大手の“フィリップモリス”、それを“ダンヒル”ブランドで追う“ブリティッシュアメリカン”と、最近では三つ巴の戦いを繰り広げているのです」(企業アナリスト)。つまり、JTにとって日本は市場の1つに過ぎないということなのだ。「JTは1994年に東京証券取引所に上場していますが、その際に手元現預金として5000億円を手にしました。そして、この5000億円を元手に海外で積極的なM&Aを仕掛けていったのです。1998年には“ウィンストン”“キャメル”ブランドを持つアメリカの“RIRナビスコ”の子会社である“RJRI”(後のJTI)を約1兆円で買収し、2007年にはロシア市場に強いイギリスの“ギャラハー”を約2兆2000億円で買収したのです。更に、昨年9月には、アメリカ2位の“レイノルズアメリカン”の一部事業(有力たばこ銘柄“ナチュラルアメリカンスピリット”)等、総額約6000億円規模の買収にも乗り出しています」(企業アナリスト)。

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その一方で、国内事業にはシビアだ。2013年10月には、国内たばこ販売の減少を理由に国内の生産体制の縮小を発表。本社社員の約2割に相当する1600人規模の希望退職を募集し、9工場のうち、郡山(福島県)・浜松(静岡県)・平塚(同)・岡山印刷(岡山県)の4工場を閉鎖するとした(今年3月まで)。昨年5月には、『Roots』『桃の天然水』ブランドを持つ飲料事業からの撤退を表明して、『サントリー食品インターナショナル』に全国26.4万台の自販機を持つ自販機事業と共に、約1500億円での売却を発表している。「JTは国内葉たばこ農家から全量買い入れ契約を独占して行ってきましたが、他の農作物への転作を進めています。国内たばこ販売の減少がその理由かと思いきや、その一方で外国産葉たばこの輸入量を増やして、原料のコストカットを図っているのです。2012年度は国内産が2万トン、外国産が5万7000トンです。既に、外国産は国産の3倍近いのです」(経済ジャーナリスト)。こうした事実上の日本切り捨ての背景には、世界的な投資家の厳しい目もあったという。「JTは2011年から、世界的なアクティビストファンド(もの言う株主)であるイギリスの“ザ・チルドレンズ・インベストメント・ファンド(TCI)”に1.42%の株式を保有され、毎年、株主総会では株主提案に依り、増配や自社株買い等を求められていました。TCIは、2014年には安倍首相に書簡を送り、完全民営化を要請したほどでした。この為、将来性の無い日本の国内事業はバッサリとリストラしたのです。尤も、TCIも昨年末、JT株の大半を売却したことが明らかになっています」(企業アナリスト)。JTが注視しているのは、世界のたばこの40%超を消費する最大の市場・中国だ。但し、中国は『中国煙草総公司』がその販売を独占している。「中国煙草総公司とは、業界1位のフィリップモリスが業務提携をしています。日本は中国煙草総公司に委託して販売しているのが現状です。WTO(世界貿易機関)に加盟した中国は、そう遠くない将来、たばこの販売自由化を迫られます。JTは、巨大市場の開放を虎視眈々と窺っています。2008年には子会社の中国製冷凍ギョーザに依る中毒事件がありましたが、JTは中国撤退をせずに関係を深めています」(経済ジャーナリスト)。中国進出の実験の場がインドネシアだ。「インドネシアは、中国・ロシア・アメリカに次ぐ第4のたばこ大国。成人男性の喫煙率は約60%、約250万人に上るのです。但し、国産たばこが独占状態で、各社とも如何に自社ブランドを認知度を高めるかを競っている」(経済ジャーナリスト)。規制の緩いインドネシアでは、2歳や3歳からたばこを始める子供が急増し、社会問題化している。JTは、遠い昔に将来性の無い日本市場を切り捨て、今日も発展途上国で、世界のたばこメーカーと帝国主義的な戦いを繰り広げている。


キャプチャ  2016年3月号掲載


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テーマ : 経済・社会
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